鳴り響くサイレンのなか、戦禍に対処するイスラエルの暗号資産企業

イスラエルで暗号資産(仮想通貨)教育を手がけるクリプトジャングル(CryptoJungle)のCEOベン・サモチャ(Ben Samocha)氏は、パレスチナ自治区ガザ地区に近いイスラエル側の砂漠で7日に開かれていた音楽フェスティバル会場で、ハマスによる攻撃を受けて他の260人の若者とともに亡くなった生徒の1人の葬儀に向かう途中だった。

サモチャ氏はCoinDeskのインタビューに応じようとしていたが、ロケット弾警報のサイレンによって中断され続けていた。

サモチャ氏は、最近の記憶では経験したことのないような大規模な危機に対処するために突然奔走することになったイスラエルの暗号資産業界の1人。彼は、イスラエルとハマスの戦争の影響に対処しながら、暗号資産による寄付を集めるための援助キャンペーンを組織するサポートを行い、楽観的であろうとしている。

「国として、国民として、そして企業として、私たちは立ち直り、普通の状態に戻ることができると確信している」とサモチャ氏は語った。

「暗号資産は定着し、ブロックチェーンも定着するだろう。人々は教育とコンテンツを必要としており、私たちはそれを提供するためにここにいる」

イスラエルの複数の暗号資産関連企業の幹部や開発者はCoinDeskの取材に対して、深刻なビジネスの混乱はないと語った。彼らの多くはリモートワークをしている。彼らは主に、スーパーマーケットの棚が空っぽになるストレスや煩わしさ、安全上の恐怖への対応など、攻撃に伴う個人的な影響に対処していた。

「私たちは、想像を絶するような時期であっても、生活を継続する必要があることを強く認識している」と、フェニックス(Fhenix)の共同創業者兼CEO、ガイ・イッツァキ(Guy Itzhaki)氏は語った。

衝撃

7日、イスラエル国民はいつもと変わらない毎日をスタートさせたと思っていた。ロケット弾から身を守るよう知らせる警報音は珍しくない。だがソーシャルメディアはすぐに、今回の戦闘がこれまでとは異なるものであることを伝えた。

イスラエルはハマスとの戦闘に突入した。イスラエルがこのような規模の奇襲攻撃を最後に経験してから50年近くが経っていた。地元メディアによれば、7日以降1000人以上のイスラエル人が死亡し、2500人が負傷、100人以上の子ども、女性、高齢のイスラエル人が誘拐され、ガザに連れて行かれたという。

戦闘は国民の集団心理に深い影響を与えただけでなく、イスラエルの暗号資産企業の日常業務も停滞させた。「スタートアップの国」として知られるイスラエルは、労働人口の約14%をテック関連が占めている。

今回の危機から生まれた最大のプロジェクトのひとつが、イスラエルの多くの暗号資産企業が主導するキャンペーン「Crypto Aid Israel」で、戦闘によって被害を受けたり、避難を余儀なくされている市民を支援するために、暗号資産による寄付を受け付けている。

サモチャ氏は、自社の最高執行責任者(COO)とともにこのキャンペーンを組織するサポートを行い、9日の立ち上げ以来、24時間でおよそ8万5000ドル(約1275万円、1ドル150円換算)を集めた。サモチャ氏は、クリプトジャングルの従業員全員がキャンペーンに参加していると語った。

現地メディアのCalcalistは10日、イスラエル警察がハマスに関連する暗号資産口座を凍結したと報じた。

献血

多くの暗号資産企業は、食料や衣類を準備するようなボランティア活動の組織化をサポートし、企業が支援品を集めたり、戦争によって最も影響を受けている人々を支援するためにチームとして一緒に行くことができるようにしている。

Web3マーケティング担当者が匿名性を維持しながらユーザーとやり取りすることを支援するアドレッサブル(Addressable)の共同創業者アサフ・ナドラー(Asaf Nadler)氏は、従業員の半分がボランティア活動に携わり、「献血をしたり、衣服や食料の調達を手伝ったり、会社として深く関わっている」と述べた。

暗号資産企業のほとんどは業務を続けているが、従業員の入れ替えに適応する計画を立てている。

暗号資産企業の複数の幹部はCoinDeskの取材に対し、従業員が軍隊の予備役として招集されたことを明らかにした。また、従業員がボランティア活動に参加したり、攻撃の被害を受けた親族を支援したりする時間を与えているところもある。

イスラエルのWeb3企業に投資するベンチャーキャピタル、コリダー・ベンチャーズ(Collider Ventures)のパートナーであるタル・シャロム(Tal Shalom)氏は、「今、従業員に仕事をしてもらおうとは誰も思っていないし、100%の状態であることも期待していない」と語った。

「企業は今、オフィスに出勤できない場合に備えて、完全なリモートワークや、別の拠点で業務を行うなど、さまざまなシナリオに備えている」

「仕事ができて、うれしい」

他の企業も、出勤することで、ニュースの見出しにあるような厳しい現実から逃避できる従業員もいるだろうと述べている。

フェニックスのイッツァキ氏は、「実際に働く機会を与えたい。というのも、私にとって働くことは、実際に起こっているあらゆることを考えないようにするためにできることのひとつだから」と語った。

ヨルダン川西岸地区を拠点とするある暗号資産アナリストは、自宅で仕事をしているが、学校が休校になっているため、子供たちが周りにいることで気が散ってしまう以外には、あまり影響を受けていないと語った。

安全上の理由から匿名での取材を希望したその人物は、9日にテロリストがいるのではないかという通報があった後、近所で騒ぎがあったと言う。誰かが近くの警備基地に侵入し、燃えたタイヤを置いていったようだ。

そのアナリストと家族は、「問題なし」のサインが出るまで約2時間、自宅の部屋に閉じこもった。スーパーマーケットでは、パン、卵、牛乳、農産物がほとんど品切れになっている。サプライチェーンの混乱と買いだめが原因らしい。「正直言って、仕事ができて、うれしい。気が紛れるから」と、そのアナリストは語った。

アドレッサブルのナドラー氏は、音楽祭で親族を失った従業員を支援していると語り、「恐ろしいことだ。本当に恐ろしいことだ。だからこのような場合、私に何かできることはある? そばにいようか? と彼らに聞いている。そうすれば、ただの仕事上の付き合いから支え合う家族になれるのだ」とナドラー氏は語った。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:イスラエルのテルアビブ(Gilad Avidan/Creative Commons、CoinDeskが加工)
|原文:Israeli Crypto Firms Scramble to Deal With War, in Between the Sirens
|取材協力:Bradley Keoun