リップルのブラッド・ガーリングハウス氏:SECとの裁判に勝利したXRP復活王【最も影響力のある人物 2023】

雨降る9月のある金曜日の夜、何千人もの観衆がニューヨークの伝説的なコンサート会場ハマースタイン・ボールルームに集まった。

勝利の祝典

そこは、グレイトフル・デッド、ジェーンズ・アディクション、そしてデヴィッド・ボウイからテイラー・スウィフトまで、多くのアーティストを迎えてきた場所だ。

しかし、その日の観客はお目当てはテイラー・スウィフトではなかった。彼らははるかに重要なことのためにそこにいた。「The Proper Party」のためにやって来たのだ。

このパーティーの意義? その数カ月前、リップル(Ripple)のCEO、ブラッド・ガーリングハウス(Brad Garlinghouse)氏は、もしリップルがSECとの裁判に勝利したら、エックス・アール・ピー(XRP)コミュニティを称え、感謝のために「proper party(ちゃんとしたパーティー)」を開くと約束していた。

私は今年の初めにXRPコミュニティ、別名「XRPアーミー」を紹介する記事を書いた。取材を通して私が学んだことを簡潔にまとめると、何年もの間、XRPアーミーは暗号資産(仮想通貨)業界の大部分から批判されていたが、多くの点で彼らの言うことはもっともであり、遅ればせながらも尊敬に値する、ということになる。

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ガーリングハウス氏は5月にこの約束をした。彼は、自分が法律と歴史の正しい側に立つと予見していた。そしてその通り、2023年7月13日、アナリサ・トーレス(Analisa Torres)連邦地裁判事は、リップルがXRPを個人投資家に販売する際に証券取引法に違反していなかったとの判決を下した。

XRPアーミーは歓喜した。XRPの価格は(一時的に)2倍になった。弁護士たちは判決が与える影響について議論を続けているが、それはリップル、XRP、ガーリングハウス氏、そしておそらく暗号資産業界にとって、少なくとも部分的な正当性が認められたと広く見られた。この点については、また後ほど。

そこでガーリングハウス氏は、約束通り「The Proper Party」を開催した。ハマースタインの混雑したダンスフロアでは、アメリカ全土から駆けつけたXRPアーミーの多くが「XRPは証券ではない、7.13.23」と書かれたTシャツ、XRPの野球帽、さらにはXRPの靴下を身に着けていた。

「The Proper Party」参加者に謝意を伝えるメッセージ

ガーリングハウス氏がステージに上がると、参加者たちから歓声があがった。彼は感謝の言葉を述べると、個人的なエピソードを話し始めた。「クリスマスの直前だというのに、SECが私を訴えてきた」とガーリングハウス氏はマイクに向かって言った。SECが2020年12月22日に突然、ガーリングハウス氏とリップルの共同創業者クリス・ラーセン(Chris Larsen)氏を提訴したと発表したときの話だ。観客はSECの話にブーイングを浴びせた。誰かが「SECなんてクソくらえだ!」と叫んだ。

「正直に言うと、暗い時期だった」とガーリングハウス氏は参加者たちに語った。

SECによる提訴

カンザス州トピカ出身のガーリングハウス氏は、自分個人に向けられた訴訟に驚いた。裏切られたと感じた。「私は全面的に協力していた。その数年前、私はSECのジェイ・クレイトン(Jay Clayton)前委員長と会っていた。私は弁護士を連れて行かなかった。そんな必要はないと感じたから。何をしているかについて情報共有をした。『テクノロジーをこのように使っています』といったことを」と、ガーリングハウス氏は先日のインタビューで語った。

彼はリップルは誠実に行動していると感じていたが、後に「相手側に誠実に行動する人がいるとは限らない」と考えるようになった。

ガーリングハウス氏によれば、その後2年半の間に、リップルはおよそ1億5000万ドル(約220億円、1ドル146円換算)を弁護のために費やすことを余儀なくされた。

XRPエコシステムの成長は鈍化した。そしてSECの行動はほぼ間違いなくXRP価格を抑制した。コインベース(Coinbase)をはじめとする取引所でXRPは上場廃止になった。皮肉にもSECが名目上「保護」しようとしていたXRPの保有者に損害を与えることとなった。

XRPアーミーに関する特集のために、私はある熱心なXRP投資家に話を聞いた。彼は暗号資産ミリオネアから転落し、ホームセンターのロウズ(Lowe’s)の金物部門で働くようになったが、それでもXRPの価格は回復すると信じていた。

では、なぜSECは最終的にリップルとガーリングハウス氏を訴えたのか? 私は単刀直入にガーリングハウス氏に尋ねた。「なぜ訴えられたと思いますか?動機は何ですか?」と。

沈黙。長い沈黙。

あまりに長い間だったので、電話が切れたのかと心配になった。

この長い沈黙の間に、私はXRPアーミーによる仮説を思い浮かべていた。彼らは、SECの主要人物がイーサリアム財団とつながりがあったため、リップルに厳しく当たったと考えている。この疑惑は「イーサゲート(ETHGate)」と呼ばれている。(ガーリングハウス氏もそれに言及するだろうか?)

そしてついに、ガーリングハウス氏は長い沈黙の後、「わからない」と述べた。そして「いつかわかる日が来ると信じている」、だが「彼らが私とクリス個人に対してこの訴訟を起こしたことはとても信じられないことだ」と付け加えた。

リップルの復活

2020年12月の訴訟以来、リップルとXRPにとっては痛烈な2年間だった。しかし彼らは静かに、ほとんど密かにと言っていいほどに、開発を進め、イノベーションを起こし、パートナーシップを構築し続けてきた。

リップルは中央銀行デジタル通貨(CBDC)プラットフォームを立ち上げ、香港金融管理局、台湾の台北富邦銀行、ジョージア国立銀行、ドバイ金融サービス局などとのパートナーシップを発表した。部外者には、XRPは死に体のプロジェクトにしか見えなかったが、内部関係者はXRPが文字通り、世界の中央銀行インフラを置き換える態勢を整えていることを感じ取っていた。

世界征服の前にやるべきことはまだたくさんあるが、どう考えても、ガーリングハウス氏にとっては、2023年は勝利の年だ。2023年のCoinDeskの「最も影響力のある人物」に彼が選ばれたのはそのためだ。

ところで、彼個人に対する訴訟はどうなったのだろうか? 訴訟は10月に取り下げられた。そして7月の判決に対するSECの上訴は却下された。

長い間リップルに懐疑的だった暗号資産業界全体が、リップルの法的勝利によって利益を得ることになった。XRPが(少なくとも個人投資家に販売される場合には)証券ではないのであれば、おそらくそれは、法的に曖昧な状態にある何千もの他のプロジェクトの前例となるだろう。

そして、おそらくSECは今後の訴訟に二の足を踏むようになるだろう。「リップルがこの裁判に勝たず、私とクリスに対する申し立てが取り下げられなかったとしたら、SECはつけあがって、もっと多くのプロジェクトに対して、もっと攻撃的になったはずだ。私たちはゲーリー・ゲンスラーSEC委員長の主張の核心を貨物列車で突き破った」とガーリングハウス氏は語った。

ガーリングハウス氏は、2023年の自身の復活が何もないところから起こったのではないことを知っている。彼には助けがあった。コミュニティがあった。アーミーがいた。

リップルの戦いにおけるXRPアーミーの役割

ハマースタイン・ボールルームのステージに話を戻そう。ガーリングハウス氏は2020年12月が自分にとって暗黒の時期だったことを観客に告げた。そして、彼は重要な締めくくりを付け加えた。

「暗い時期だった。だが、どこからともなく一筋の光が差し込んできた」「その光の名はジョン・ディートン(John Deaton)」

またしても観客から歓声があがった。ガーリングハウス氏が指差したのは、背が高く、筋肉質で、あごひげを生やした弁護士、ジョン・ディートン氏だった。彼はXRPアーミーの心と魂と頭脳を多くの点で体現している。

ディートン氏は連帯を示して拳を振り上げた。さらに拳を突き上げた。観客はまるで彼がロックスターかのように歓声をあげた。ディートン氏は、ブラッド・カイムズ(Brad Kimes)氏や「Digital Asset Investor」のようなXRP支持者の助けを借りて、XRPコミュニティを結集し、彼らは(リップルではなく)XRPを買っており、リップルという名前すら聞いたことがなかったと裁判官に訴え、SECの主張に対抗した。トーレス判事の判断にどの程度影響したかは分からないが、XRPコミュニティがリップルを救った可能性はある。

ということは、最も影響力のある人物という賞は、ガーリングハウス氏だけでなく、XRPアーミー全体に与えられるべきかもしれない。

ガーリングハウス氏はそう考えているようだ。「XRPは証券ではないと迷いなく言えることは、まさに最高だ」と彼はハマースタインの参加者に語った。彼らは再び歓声をあげた。「証券じゃない!」と叫んだ人もいた。ハマースタイン・ボールルームの116年の歴史の中で、人々が「証券じゃない!」と叫んだのは、ほぼ間違いなく初めてだろう。

「私たちはともに戦い、ともに勝利した」とガーリングハウス氏は参加者に呼びかけた。

それからガーリングハウス氏はレニー・クラヴィッツにステージを譲った。ハマースタインはちゃんとしたコンサート会場で、これは「Proper Party(ちゃんとしたパーティー)」だったからだ。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:ブラッド・ガーリングハウス氏をイメージしたNFT画像(La Vaun)
|原文:Brad Garlinghouse Is 2023’s Comeback King With XRP’s Win Over SEC