グローバルで成果を出す。数兆円、数十兆円規模に成長するための勝負の年──Startale Labs CEO 渡辺創太氏【2024年始特集】

日本発のブロックチェーン「Astar Network」を手がけ、世界を舞台に活躍するWeb3起業家としてメディアや国のイベントなどへの登場も多い渡辺創太氏。大企業との提携で注目されるなか、今年はイーサリアム・レイヤー2のローンチ計画の発表という予想外の動きもあった。年末には趣味の「お遍路」に出かけ、4日で約100キロを歩きながら考えを巡らせたという。「総合的なスキーム」を描いているという渡辺氏は何を考え、何を目指しているのか。

2年後、3年後を見据えたスキーム

──2023年を振り返ると、どんな1年でしたか。

渡辺:2023年は、次のサイクルで勝つための準備を全部行いました。できることはすべてやったという感じです。ベアマーケットになった1年で、この分野に関わる人が減ったり、またAIの盛り上がりで注目がAIに集まりましたが、その分、やるべきことにフォーカスする時間ができました。

我々は幸い、資金面の問題はなく、人員を拡大しました。1月にStartale Labs(スターテイル・ラボ)を設立、ここが今後、Astar Network(アスターネットワーク)やWeb3ビジネスの成長エンジンになっていくと考えています。シンガポールで立ち上げて、すでに日本、UAEにオフィスがあり、2024年にはアメリカにもオフィスを開設する予定です。

ビジネス面で一番大きかったのはソニーネットワークコミュニケーションズとの資本業務提携。ソニーはWeb3で一番可能性のある日本企業だと思っています。ゲーム、金融、保険、自動車も手がけるなど、展開領域が広く、Web3と合致しているからです。そうした幅広い領域の基盤となるプラットフォームを構築できる可能性があることは非常にエキサイティングです。

──「スターテイル・ラボが成長エンジンになる」という点をもう少し詳しく聞かせてください。

渡辺:Web3事業開発・プロダクト開発を担うスターテイル・ラボの成長がアスターネットワークの成長に波及するように総合的なスキームを組んでいます。我々だけの話にとどまらないので、まだ発表できることは少ないのですが、おそらく2年後、3年後に「そういうことだったのか」とわかってもらえるのではと思っています。「スターテイル・ラボ、アスターは行き当たりばったりではなく、あの時点から仕込んでいた」「ここまでの絵を描いて、エグゼキューションしてきた」とその時に思ってほしいですね。

アスターネットワークは今、日本のプロジェクトで見るとサイズはNo.1ですが、グローバルで見るとまだ100位くらい。時価総額1000億レベルです。これを世界トップ10レベル、時価総額数兆円、数十兆円にしていくための勝負をしていきたい。世界100位で日本を代表していたら恥ずかしいですからね。

ハードウェアにおけるソニーやトヨタのような企業、わかりやすく言えば、ソフトウエアの世界で令和のソニー、令和のトヨタのような企業やプロダクトを作りたい。

ネガティブな反応は良いこと

──発表時にはネガティブな反応もありましたが、Polygon Labs(ポリゴンラボ)との提携によるレイヤー2「Astar zkEVM Powered by Polygon」もそうしたスキームのひとつでしょうか。

渡辺:そのとおりです。イーサリアムのレイヤー2である「Astar zkEVM Powered by Polygon」を発表したことで、事業開発が非常に行いやすくなりました。これまでアスターネットワークはUI/UXがユニークで、それがデメリットになることもありました。イーサリアム・レイヤー2の一般的なUI/UXとなることで、新しいWeb3プロジェクトの相談など、お客様との話もよりスムーズに進むようになっています。またひとつ付け加えると、12月にイーサリアム創設者のヴィタリック・ブテリン氏が一部のレイヤー2機能をイーサリアム本体にも実装すると発言していますが、そうした動きも総合的なスキームに折り込み済みです。

ネガティブな反応が出たことは、実は非常に良いことだと考えています。プロダクトの規模が大きくなると、ネガティブな意見は必ず出ます。総理大臣や大企業のトップがどんな施策を行っても賛否両論が起こるなかで、僕らだけが誰からも賞賛されるなんてことはそもそもあり得ません。無関心、注目されないことが一番怖いことです。プロジェクトとして社会的な影響力も生まれてきているので賛否両論が大いに出ているくらいがちょうどいいと思っていますし、それでも誰よりも結果を出すということを大事にしたいと思います。

2日連続でX(旧ツイッター)のトレンドになったりしましたが、それだけ注目してくれているユーザーが多い。コンプライアンスチームが適宜、Xをエゴサーチしているのですが、調べてみると批判的なコメントはそれほどなかったものの、それに対して好意的な人たちが多数コメントするような状況になり、話題として拡散していたことがわかりました。

一方で、社会的な責任も非常に感じています。政府や自民党と話をする機会も多くなり、ちょうど今日は軽井沢でASEANと日本のヤングビジネスリーダーズサミットが開催され、東京に戻ってきたところです。この会議に関連して首相官邸のYoutubeにも出させていただきました。Web3の枠組みを超えて、Z世代の代表のように扱っていただくことが多くなり、スターテイル・ラボとして僕たちが成し遂げなくてはいけないと強く思っています。

──日本経済についても、しばしば発言されています。

渡辺:日本の経済に対する危機感はすごくあります。かつて「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた時代には、盛田昭夫さん、松下幸之助さん、本田宗一郎さんのようなレジェンド経営者がいました。その次の世代には、柳井正さんや孫正義さんがいます。ですが、そこから20代の僕らまで世界の誰もが知っている日本企業や日本人経営者は客観的に見て出てきていないと思います。このままだと僕らの世代がそうしたレジェンド経営者を知っている最後の世代になってしまいます。

この10年くらいでグローバルな成功を収める企業を輩出して、今のソニーやトヨタを追い越していかないと日本経済はまずいと思っています。僕はWeb3という領域に大きなチャンスを感じているので、そこにレバレッジをかけて、日本を代表するプロダクトや会社をWeb3業界を超えて作りたい。

ただし、このままだとシンガポール企業です。年末に第三者保有の暗号資産について期末時価評価課税の対象外とする動きが報道されました。さらに税制改正が進み、個人の税制が変われば日本に戻ってきたいと考えています。

世界を旅して感じた危機感

──期末時価評価課税の問題は、税制の問題で渡辺さんがシンガポールに移ったことで「渡辺創太問題」などと呼ばれることもありました。

渡辺:アスターネットワークをローンチしたときに、保有していたアスターネットワークのネイティブ暗号資産の評価が期末に2000億円くらいになりそうで、そうなると300億円の税金を支払うような状況になりました。時価評価であって現金を持っているわけではなく、税金を支払うためにはプロジェクトを売却するしかない。それは本末転倒なので、シンガポールに移りました。

税制改正の必要性を関係者に正しく理解してもらうことは大変です。ただし、僕はいろいろ発言していますが、もっと大変な作業に携わっている人がほかにたくさんおられます。結果を出して、フィードバックすることが僕の役割だと思っています。

──先程おっしゃっていた危機感のようなものはいつ頃芽生えたのでしょうか。

渡辺:具体的なきっかけが思い当たるわけではないですが、グローバルなメンバーが今、19カ国にいて、先週はニューヨーク、そして韓国、シンガポール、今は日本と飛び回っているなかで「日本人であること」に感謝するシーンがすごくあります。

例えば、フライトで隣に座った外国人がソニーのイヤホンを使っていたり、ロシアのかなり地方まで行ってもトヨタの車が走ったり、クロアチアでプレイステーション5の広告をたくさん見たり、海外に行ったときは結構孤独なので、日系企業が頑張っているシーンを見ると勇気づけられます。「かっこいい」と感じます。

でもトヨタもソニーもすでに歴史ある企業なので、日本経済全体を考えると新陳代謝が必要だとも思います。次代を担う企業を作っていかないといけないという思いが旅をしている間に強くなっていきました。

Web3はアジアが主導権

──日本にいるとなかなか気づけない。新陳代謝には何が必要でしょうか。

渡辺:日本はグローバルで見ると十分恵まれていますからね。必要なものは、ハングリー精神と視座だと思います。アスターも1000億円規模になってくると、お金が目的でやっているならある意味、もうそれ以上はやらなくてもいいと言えるかもしれません。例えばマザーズに上場すれば、数十億円が入ってくる。それで十分では、とおっしゃる人もいます。そうではなく、なぜまだやらなくてはならないのか。大事なのは視座とかミッションです。

今、日本で生活していたら、頑張らなければならない理由がそれほどありません。これは良いことでもありますが、この先、50年とか60年を考えると、おそらく今の生活は維持できなくなると考えています。労働人口は減り、税金はもっと上がり、もしかしたら、治安も悪化するかもしれない。そうしたことを良い方向に変えていきたい。視座を高く持ち、世界で勝つんだというハングリー精神で、もし我々が世界的な成功を収めることができたら世の中の流れも変わってくるかもしれないと考えています。

──2024年、どんなことを進められるのでしょうか。

渡辺:まずは数字が重要です。どれくらいの規模のものを作れるか。数千億円レベルだとまだまだスタートアップなので、数兆円、数十兆円レベルまでできれば存在感も大きくなると考えています。実現できる可能性があるポジションにいると思っており、こんなにエキサイティングなことはありません。

具体的なことはまだ言えないことも多いですが、ソニーさんと進めている取り組みもすでに進捗が生まれています。アスターの方でもいろいろ動いています。2024年は、アメリカではビットコインETFの承認が予想され、日本ではさまざまな規制緩和が進み、ステーブルコインも登場します。楽しみな要素ばかりです。グローバルでどれだけやれるかが大事になると思っています。

またWeb3はアジアが主導権を握ることができる分野だと思っています。アメリカが規制などで後手に回っている今、アジアは可能性を秘めています。若い世代も多い。その意味でも、アジアのパワーを結集して、2024年はアメリカに乗り込み、日本発のイノベーションによってグローバルで成果を出したいと思っています。

渡辺創太
日本発のパブリックブロックチェーンAstar Networkファウンダー。Startale Labs CEO。Next Web Capital、博報堂key3ファウンダー。日本ブロックチェーン協会理事や丸井グループ、GMO Web3、電通 web3 Clubなどのアドバイザーを務める。2022年Forbes誌の選出するテクノロジー部門アジアの30歳以下の30人、2023年Newsweekの世界が尊敬する日本人100に選出。

|インタビュー・文:増田隆幸
|写真:小此木愛里