ビットコインETF:ネガティブ展開──ビジョン喪失の代償

ビットコイン(BTC)の2023年の価格推移(2倍以上に上昇)は、ビットコイン現物ETF(上場投資信託)への関心が再び高まったことが大きな要因だった。

世界最大の資産運用会社ブラックロック(BlackRock)が6月に米証券取引委員会(SEC)に、誰も予想しないなかビットコイン現物ETFを申請したことは、2023年のベストパフォーマーの1つとなったビットコインへの注目を促した。

現在、ビットコインETFが今週にも承認される見込みであることから、多くの人々がビットコインがもたらす幸運といえる「ニュースで売る(sell the news)」を狙っている。

SECが10を超える申請のうち、1つまたは複数を承認するかどうかは不透明のままであり、却下の可能性もまだある。

ビットコインETFが宙ぶらりん、つまり現状のままであることは、暗号資産(仮想通貨)にとって悪いことですらないかもしれない。実際、ビットコインETFは市場ウォッチャーが期待しているようなものではなく、業界にとってマイナスになる可能性さえある。

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ビットコインETFは間違いなく、暗号資産全体にとって成熟のシグナルとなるだろう。そしてそれこそが、エリザベス・ウォーレン上院議員(民主党)をはじめとする反対派の議員や、ゲーリー・ゲンスラーSEC委員長のような懐疑的な規制当局が懸念していることだ。

このことは、両者とつながりのある団体Better Marketsが、ビットコインETFは詐欺が横行する業界を合法化することになると主張した公開書簡を土壇場で提出したことに象徴されている。

暗号資産は準備ができているのだろうか?

市場操作の懸念

昨年の判決により、SECは1月10日までにビットコインETFに関する決定を下すことを余儀なくされているが、暗号資産ETFに対するSECのこれまでの懸念のいくつかは、真剣に検討する価値がある。

SECは10年前にウィンクルボス兄弟がビットコインETFを初めて申請して以来、市場操作に関する懸念からビットコインETFの承認を保留してきた。

インデックス(あるいは異なる資産のバスケット)に連動するETFでは、ベンチマークとなる資産価格とETF運用会社が日々開示する情報との間に差異が生じ、インデックスの内部情報を持つ者に悪用される可能性があり、一般的に市場操作が懸念される。

ビットコイン価格の形成プロセスを考えると、同様の問題が発生する可能性がある。

ビットコインは分散型であるため、価格は1つではない。その代わり、ビットコインのドル建ての価値は多くの場合、いくつかの信頼できる取引所での現在の取引価格を平均して算出される。

しかし、信頼できる取引所であっても、投資家が大規模な取引で意図的または偶然に価格を上下させ、裁定取引(アービトラージ)を行うことはあり得る。

このような市場操作は、現在の大多数の暗号資産トレーダーにとってはさほど懸念材料ではなく、おそらく潜在的なビットコインETF投資家の多くにとってもそうではないだろう。

しかし、クオンツ投資会社が関与すれば、大きな問題になる可能性がある。ブラックロックはSECの懸念を払拭するため、暗号資産取引所を介した「監視共有協定」を提案したが、誰もがうまくいくと確信しているわけではない。

本来のビジョンの喪失

さらに、市場監視の強化によるプライバシーへの懸念はさておき、ビットコインETFから本当に利益を得るのは誰なのかというより大きな問題もある。

ETFは、原資産のコストを引き上げることが多い。これはビットコイン保有者にとっては有利なことのように思えるが、投資であると同時に、金(ゴールド)や石油のようなコモディティにとってそれが何を意味するかを考えてみると有利とばかりは言い切れない。

言い換えれば、1BTC=100万ドルになった場合、ビットコインの使用可能性に長期的にどのような影響があるのだろうか? 手数料はいくらになるのか?

ビットコインはより小さな単位「サトシ」に分割可能であり、1BTCは常に1BTCだ。しかし、最終的に多くの人々、特にビットコインによって銀行サービスを受けられるようにしてあげたいとビットコイナーが考える発展途上国の人々は、単純にビットコインに手が届かなくなってしまうのではないだろうか?

それが問題の核心だ。ビットコインは、その存在そのものが、持つ者と持たざる者の文化的衝突を招く。ビットコインETFが成功する可能性は「既存システムの外にあるシステム」という当初のビジョンを売り渡すことにならないだろうか?

メインストリーム化の代償

ビットコインETFとは何か? 世界最大の資産運用会社が、外部の会社(コインベースがアメリカのビットコインETFの主要カストディアンとなる)によって保管されたビットコインを使って運用する商品を通じて、何百万人もの人々の401k(アメリカの確定拠出年金)に入る可能性のある金融商品だ。

言い換えれば、これは「普及への入り口」ではなく、「セルフカストディを通じて、自分自身のお金をコントロールできる」というアイデアの堕落だ。

とはいえ、オープンプロトコルであるビットコインは、誰にでも使えるものであるため、完全な堕落ともいえないグレーな部分がある。

その意味で、ブラックロックによる「侵食」はビットコインをピア・ツー・ピアなものでなくするものではない。しかし、ビットコインにおけるウォール街の影響力の拡大が何を意味するのか、資金の流入がビットコインのオープンソースプログラム「Bitcoin Core」の開発やビットコインマイニングの現実を変えるのかどうか。答えの出ない疑問がある。

何事にもトレードオフがある。そして、ビットコインを「メインストリーム」にするために、どれだけのコストがかかるかはまだわからない。

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|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Bitcoin ETFs: The Bear Case