FTX破綻後のチャンスを逃したDeFi、まだ希望はある──2024年は「DeFiの年」

2023年にはDeFi(分散型金融)が輝くはずだった。2022年後半、FTX破綻は中央集権型取引所(CEX)に、銀行取り付け騒ぎに近い事態を引き起こし、DeFiが提供する透明性への逃避を招いた。

しかし、DeFiは準備ができていなかった。バトンタッチに失敗した。未熟なインフラと複雑すぎるUI/UXのせいで、DeFiは中央集権型金融(CeFi)の「ブラック・スワン」イベントを最大限に活用することができなかった。

とはいえ、これがDeFiにとって唯一のチャンスだったと考える理由はない。まだ希望が十分にある。実際、2024年こそ、真の飛躍があるかもしれないことを複数の大きな要因が示している。

精彩を欠いたDeFiの2023年

2023年、DeFiの預かり資産(TVL)はほとんど横ばいだった。DefiLlama.comのデータによると、DeFiのTVLは年初に約380億ドル(約5兆6240億円、1ドル148円換算)で、4月に約530億ドルのピークに達した。これに対し、過去最高は2021年11月の1750億ドル。当記事執筆時点では、460億ドル台で推移している。

DeFiがチャンスを無駄にしたと主張するのは簡単だ。FTX破綻は新規参入者に門戸を開いたが、DeFiは不意を突かれ、突如手にした潜在的な取引高の流入を引き受ける準備がまったくできていなかった。

DeFiのUI/UXの稚拙さが、その責任の大きな部分を占めているとされた。確かに、ほとんどのDeFiプラットフォームの複雑なインターフェイスは、経験豊富なトレーダーしか扱えない。やることが多く、参入障壁も高い。

2023年5月に発表されたユニスワップ(Uniswap)の調査によると、調査対象となったCeFiだけを使っているユーザーの42%が、知識不足を理由にDeFi利用をためらっている。

しかし、同じ調査では、DeFiとCeFiの双方を利用するユーザーにとって、主なハードルは、実際には競争力のない価格設定であることも示されている。このグループの回答者の45%が指摘した。

基本的に、これはDeFiの資本と流動性の効率の悪さの問題に帰結する。技術的な側面に深入りすることなく言えば、中央集権型オーダーブックモデルはDeFiのアプローチよりも限りなく効率的だが、透明性に欠ける。このようなモデルでは、プラットフォームがユーザーに不利な投資をし、ユーザーの資金を不正に流用することさえ簡単だ。

その代わりに、DeFiプラットフォームは自動化されたマーケットメーカー(AMM)を選択する傾向があるが、これらは今のところ、CEXが提供する、効率的な取引環境に対抗することに苦戦している。

AMMのオンチェーンアプローチは透明性は高いが、流動性が低いときに高いスリッページ(注文と約定の差)に対処することに苦戦している。高いスリッページは投資家にとって避けたいことだ。

しかし、これらすべての面で進歩が見られ、2024年に向けて楽観的な見通しを私や他の多くの人々に与えている。

DeFiの年

2023年末にかけて、個人投資家、機関投資家を問わず、暗号資産(仮想通貨)市場に対する一般的な関心は再び上昇傾向にあった。グレイスケール(Grayscale)が米証券取引委員会(SEC)に勝利し、ビットコインの現物ETFの承認の可能性を高めたことが大きな要因だった(実際、ビットコインETFは承認された)。

このような楽観的雰囲気は、DeFiにも波及している。ETFにまつわる盛り上がりは、プロの市場参加者の参入が広がることを示している。暗号資産とDeFiを安定させ、正当化するためにプロが求められているともいえる。

TradFi(伝統的金融)プレーヤーは、ETFだけでなく、暗号資産金融への関与を加速させている。スタンダード・チャータードは先日、トークン化プラットフォーム「Libeara」を立ち上げた。トークン化される最初の資産の1つは、シンガポールドルの国債ファンドだ。

このようなハイレベルな暗号資産金融ベンチャーが2024年に急増することを期待したい。例にあげたのは、中央集権的なTradFiの動きだが、こうしたニュースが暗号資産金融全般に広範な信頼性をもたらすことは、DeFiにとっても悪いことではない。

Web3ネイティブの世界に話を戻すと、ゼロ知識証明(ZK)ロールアップとスケーリングソリューションがますます人気を集めている。より多くのプロトコルがこれらのレイヤー2スケーリングソリューションで展開され、高いガス代(取引手数料)やインフラレベルの効率性の問題に対するソリューションの利用が拡大している。

2024年には、これらのソリューションが成熟し、その普及が拡大し、DeFiに大きな恩恵をもたらすだろう。手数料は下がり、ネットワーク容量が増えることで、DeFiはCeFiとより互角に戦えるようになるはずだ。

加えて、オーダーブックモデルとAMMの長所を組み合わせるという大きな進歩がすでに進行中であり、個人的にはきわめて強気要因だと感じている。

この分野でのインテグレーションとイノベーションは、特にオンチェーン・オーダーブックの導入により、DeFiの資本と流動性の問題に対する確かなソリューションを提供している。そのようなモデルは、オンチェーンアプローチのトラストレスな性質と、オーダーブックの資本効率を兼ね備えている。

2024年には、より多くのDEX(分散型取引所)がこのようなモデルを模索し、導入することが予想され、メインストリーム普及への大きなハードルの1つが解決されることになる。

小規模なDeFiの強み

もうひとつ注目すべき点は、DeFiチームのキャッシュバーンレート(資金燃焼率:経営における消費コスト)がCeFiのライバルに比べて大きく低いことだ。

オンチェーンプロセスが日々の事務作業の大半を担っているため、DeFiチームは小規模にとどまる傾向があり、したがって弱気相場の中でもかなりの資金を投入できる。

資金調達環境は2024年に入っても、まだ厳しいままである可能性があり、同時に全体的な取引高も低水準で推移し、手数料ベースの収益に影響を与える可能性もある。これらの要因が重なると、中央集権型のCeFiは、より小規模で分散型のプロジェクトと比較して、より大きな課題に直面することになる。

簡単に言えば、DeFiは深く、長い冬を乗り切ることにより適しており、市場回復に時間がかかる中で優位に立つことができる。つまり、DeFiはまだ終わっていない。2023年は期待外れだったかもしれないが、これで終わりというわけではない。

DeFiは現状、まだCeFiに遅れをとっているが、2024年にはDeFiが一気に追いつく可能性がある。誰もが水面下で開発を進め、内部インフラを整え、有意義な業界パートナーシップを確立し、深めてきた。私は2024年は「DeFiの年」になると確信しており、まもなく何が起こるか楽しみでならない。

レイチェル・リン(Rachel Lin)氏:分散型デリバティブ取引プラットフォームSynFuturesのCEO。以前はドイツ銀行のグローバル市場部門でデリバティブを専門としており、アジア最大級の暗号資産ネオバンクであるMatrixportの創業パートナーでもある。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:DeFi Fumbled Its Post-FTX Advantage in 2023, but There’s Still Hope for 2024