グローバルで不統一なステーブルコイン規制、対応に現れるテザーとサークルの違い
  • TradFi(伝統的金融)が暗号資産に押し寄せ、国際的な規制の違いが出てきたことで、Tether(テザー)やCircle(サークル)などのステーブルコイン発行者は対照的な反応を示している。
  • サークルは、アメリカの政治家の不作為を非難し、国家間の暗号資産ルールの整合性を高めることを望んでいる。
  • 発展途上国に重点を置くテザーは、暗号資産に関わる犯罪に関して法執行機関の動きが遅いことに不満を抱いているようだ。

最大規模の米ドル連動型ステーブルコインを発行するTether(テザー)とCircle(サークル)は、伝統的な金融ルールに縛られたシステムが暗号資産エコノミーにますます食い込んでくる中で、どのように進化し、拡大していくのだろうか? これは興味深い質問だ。

これまでのところ、2つの暗号資産大手は異なる道を歩んでいる。

自らをコンプライアンス・フレンドリーな選択肢と位置付けるCircleは、グローバルな協調を求める多くの規制当局の声に同調している。一方、Tetherは、特に犯罪との戦いに関して、各国の違いに柔軟に対応できる実践的で反応的なアプローチを採用している。

ステーブルコインに関するルールは、細かく分裂されるのではなく、調和されるべきと、Circleのグローバルポリシー責任者兼最高戦略責任者ダンテ・ディスパルテ(Dante Disparte)氏は語った。

「これらの国々が間違いを犯しているとか、間違ったことをしていると言いたいわけではない。アメリカの政策不作為が実際には空白を生んでいる」のであり、他国がそれを埋めようとしているのだとディスパルテ氏。

「つまり、予想される傾向は、より多くの国が障壁を築き、自国に有利なルールを確立することで、業界の分裂化が進むことだ」と続けた。

ディスパルテ氏によれば、デジタル資産取引にトラベル・ルールが適用されたことで、暗号資産のエンドポイントが守られるための基準ができた。

「もし今、ステーブルコインにも法律が適用され、そのステーブルコインが連動する通貨が、金融の健全性、金融犯罪、コンプライアンス、その他多くの基準に関する期待値の下限を定めたとしたらどうなるだろう」とディスパルテ氏は問う。

Tetherはアメリカの顧客にサービスを提供しておらず、今後も提供する予定はないだろうが、ステーブルコイン市場をユーロダラー(主にヨーロッパの銀行に預けられた米ドル)のイメージで捉えている。ユーロダラー預金は米国外で保有されているため、米国の規制の対象とはならない。Tetherは新興国市場や銀行口座利用が少ない国に将来性を見出しており、法執行機関との連携について独自のアプローチを策定している。

Tetherは米国の法律機関には同社に対する管轄権がないと主張することもできるが、それは愚かなことだと同社のパオロ・アルドイノ(Paolo Ardoino)CEOは語った。

実際、同社は連邦捜査局(FBI)や司法省(DOJ)のような米当局や、世界中の約40の法律機関に自発的に協力しているとアルドイノ氏は語り、次のように続けた。

「米財務省は積極的にステーブルコインと協力すべきだと思う。流通市場で何が起ころうと、それを追跡するチェイナリシス(Chainalysis)のようなツールがある。ほとんどの国で、ステーブルコインの発行者が流通市場に責任を持つという法律は存在しない。しかし、それでも監視することは我々の義務だと考えている」

スピードの必要性

アルドイノ氏によれば、犯罪にスピーディかつ実践的に対処しようとすることは、暗号資産業界にとってフラストレーションの源だという。

同社は法執行機関と直接協力することによって、競合他社と比較して先回りしたアプローチをとっており、最長6カ月かかり、その間に資金が分散してしまう可能性がある長い司法手続きの必要性を回避していると同氏は述べた。法執行機関からの連絡を受けてから資金を凍結するためには、迅速に行動したほうがいいとのことだ。

「司法省が資産を凍結する必要があるときは、我々に連絡がある」

さらに同氏は、米国の法執行機関と協力して6億ドル(約924億円、1ドル154円換算)相当以上のテザー(USDT)の凍結に成功していると述べた。

「我々は、外科医のような正確さで資産を凍結する能力を持っている。しかし、財務省が制裁対象者を外国資産管理局OFAC)のSDNリストに追加すると、対象者はすぐに消え去ってしまう。理想は、『これらの個人を調査しており、制裁を科す予定だ。公表する前に、彼らの資産を凍結できないか』と事前に我々に問い合わせてくれることだ。そうすれば、効果的に資金を封鎖できる」

2社とも苦労を重ねてきた。時価総額が1070億ドルにのぼる最大のステーブルコインであるUSDTの健全性については、何年にもわたって多くのことが指摘されてきた。

CircleのUSDコイン(USDC)は時価総額がUSDTの3分の1で、米国の銀行システムと結びつきがあるCircleの耐久力は、2023年のシリコンバレー銀行の破綻の際、一時はかなり危うく見えた。

Terra(テラ)の狂気

伝統的な金融価値観を持つ人たちに対するCircleの魅力と、Tetherの実践的で反応的な暗号資産へのアプローチの差異は、Terra(テラ)のステーブルコインUSTとその裏付け通貨であるLuna(ルナ)の崩壊についての彼らの態度にも反映された。

Terraが崩壊する少し前、Tetherのアルドイノ氏はこのプロジェクトは「悪いアイデア」と示唆した。だが、同氏の批判は軽蔑の目で見られた。当時、「アルゴリズム型ステーブルコインに否定的なのは当然だ」と多くの人に言われたことをアルドイノ氏は覚えている。Tetherのシェアを奪おうとする競争相手だったからだ。

「Terra/Lunaは崩壊し、Tetherは大きな圧力にさらされ、空売りと取り付け騒ぎで破綻するのではないかと多くの人が言っていた。しかし、我々は48時間で70億ドル、20日間で200億ドル以上を換金できた」

一方、Circleのディスパルテ氏は、暗号資産の回避可能な「オウンゴール」と、比較的若い業界がこのような「波瀾万丈の実績」を経ていることを嘆いている。

「アメリカでは州ごとの定められている電子マネーのルールや送金のルールを遵守していれば、例えば、Terra/Lunaのケースでも、元本を守ることはできただろう。額面割れは防げたはずだ」とディスパルテ氏は語った。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Tether, Circle Diverge on How to Tackle Global Patchwork of Stablecoin Rules