セキュリティ・トークンは「暗号資産」や「NFT」と何が違う? 野村證券の専門家が初心者むけにわかりやすく解説

CoinDeskJAPANは「セキュリティ・トークンを学ぶ!入門シリーズ」の動画を5月9日に公開した。動画はCoinDeskJAPANのYouTubeチャンネルで視聴できる。

野村證券株式会社 デジタル・アセット推進室の坂本祥太氏が、セキュリティ・トークンの特徴についてわかりやすく解説した。坂本氏は同社セキュリティ・トークン・グループのリーダーとして、セキュリティ・トークンビジネスの企画、開発、推進を担当している。

セキュリティ・トークンは「伝統的金融」と「ブロックチェーン経済圏」の双方の利点を併せ持つ

坂本氏は下図を示しながら、セキュリティ・トークンは「新しい金融市場の先駆けとなる商品」だと説明した。図の左側は伝統的金融のイメージ。それに対して右側はブロックチェーン経済圏のイメージだ。

坂本氏は、暗号資産のようにブロックチェーン上で発行・管理される商品は「近年、目覚ましい発展を遂げている」が、その一方で「資産流出などの事件も起きている」と指摘する。

そこで注目されているのが「セキュリティ・トークン」だ。

坂本氏は「堅牢性であったり、安心、安全といった伝統的金融の良さと、ブロックチェーン上で比較的シームレスに商品が買えるといった、ブロックチェーン経済圏の効率性。こういった双方の利点を兼ね備えた金融商品というところで、セキュリティ・トークンは近年拡大を遂げている」と話す。

これまでの金融商品との大きな違いは「裏側の管理の仕組みにブロックチェーンを用いているところ」で、これにより伝統的金融とブロックチェーン経済圏が組み合わさってできる「新しい金融市場」の発展が期待されていると坂本氏は強調する。

ブロックチェーンを使う理由は?

続いて坂本氏は、伝統的な中央集権型のデータ管理と、分散型台帳技術(ブロックチェーン)との違いを解説した。

坂本氏は、「これまでの中央集権型のデータ管理方法は、中央に大規模かつ堅牢なシステム(データサーバー)を設置して、 参加者それぞれがこのデータサーバーにアクセスするという形態」だったが、対するブロックチェーンは「複数のコンピュータが同時に同じデータを共有、更新、記録、管理できる技術」だと紹介した。

ブロックチェーンは「複数の参加者がブロックチェーン上のデータを同時に閲覧・記録・参照・共有する形のため、データを一元管理するサーバーや管理者が不要になる」と説明。参加者の相互監視によって信頼性が保たれる点や、暗号技術によってデータ改ざんが困難になるといった特徴があるという。

セキュリティ・トークンは「暗号資産」や「NFT」と何が違う?

暗号資産やNFTと比べ、セキュリティ・トークンの最大の特徴は、それが「金融商品取引法」に準拠した金融商品で、取り扱うのが「金融商品取引業者」に限られる点だと坂本氏は話す。

こちらが3つを比較した図だ。

「もうひとつの大きな違いは、NFTや暗号資産が主にパブリック型のブロックチェーン上で発行されていること。パブリック型は便利な一方で、ときおり、暗号資産の不正流出やハッキング被害も起きたりしてしまっている」と坂本氏。

他方で(国内の)セキュリティ・トークンは、ブロックチェーンの形態としては、コンソーシアム型またはプライベート型のみで、チェーンにアクセスできるのは「1社または信頼ある複数の金融機関などに限定」されている。

「そのため、ブロックチェーンの技術の利点を活かしつつ、お客様にとってはこれまでと変わらないような形で、金融機関が管理する商品に投資ができる」仕組みになっていると坂本氏は話す。

つまりセキュリティ・トークンは、「金融機関が、きちんとした法令に則ってお客様に提供している投資の選択肢の1つ」ということだ。

なぜ「セキュリティ・トークン」なのか?

そもそも、セキュリティ・トークンは「有価証券をデジタルデータで表したもの」だと坂本氏は言う。セキュリティ・トークン・オファリング(STO)というのは、セキュリティ・トークンを使った資金調達のことだ。

セキュリティ・トークンには、どんなメリットがあるのか?

1つ目が投資対象資産の多様化だ。

ブロックチェーン技術による効率化で、大規模案件の小口化や、小規模プロジェクトの取引がしやすくなった。そのため「これまで非上場だったオルタナティブなプロダクトやアセットをセキュリティ・トークン化して、個人のお客様に投資対象としてお届けすることが可能になった」と坂本氏は言う。

2つ目が非金銭リターン・サービスだ。

坂本氏は「投資家様の事前の同意は必須」としつつも、ブロックチェーン上で情報を記録・更新することで、誰がそのセキュリティトークンを持っているのかを、トークンを発行する企業などが「タイムリーに把握しやすくなる」と説明する。それによって「クーポンや限定利用権など、何かしらの非金銭的なリターン・サービスを、タイミングよく投資家に届ける」ことが容易になるわけだ。

つまり、単にお金を払うだけでは得られないプレミアムサービスを購入者限定として提供するなど、柔軟な商品設計ができる。工夫次第では、企業と投資家とのつながりを深めて「ファンマーケティング」につなげられる可能性もあるという。

3つ目は一定程度の流動性

これまで、主にオルタナティブ・アセットを投資対象とする非上場の金融商品は、流動性がかなり限定的だった。しかし、セキュリティ・トークン化すれば取引がしやすくなり、「運用期間中の売買も一定程度可能になり得る」という。

4つ目が少額投資だ。

坂本氏によると、これまでオルタナティブ・アセットを投資対象とする非上場の金融商品は、投資家の数が膨大になるような、少額・小口の投資商品を作ることが難しかった。しかし、「セキュリティ・トークン化によって、そうした商品への少額投資が実態として可能になってきている」という。

まとめるとセキュリティ・トークンは、投資家にとっては「新たな投資の選択肢」に、そして、発行体にとっては「新たな資金調達やファンマーケティングの手段」になるということだ。

次回はもう一段階掘り下げて、「実際に投資できるセキュリティ・トークンには、具体的にどんな商品があるのか」を紹介していく予定だ。

■出演者

坂本 祥太氏| 野村證券株式会社

坂本 祥太氏| 野村ホールディングス株式会社

Vice President セキュリティ・トークン・グループ・リーダー/デジタル・アセット推進室
2012年野村證券入社。投資家向けコンサルティング営業、J-REIT等の資金調達等をサポートする投資銀行業務に従事した後、2019年より未来共創カンパニー(現在のデジタル・カンパニー)にてセキュリティ・トークン(ST)ビジネスの企画・開発・推進を担当。

神本 侑季 | N.Avenue 代表取締役CEO(モデレーター)

神本 侑季 | N.Avenue/CoinDesk JAPAN 代表取締役CEO(モデレーター)

2013年にヤフー株式会社(現Zホールディングス株式会社)に入社。Yahoo!ニュースを中心にメディア・広告のビジネス開発に従事した後、海外のテックベンチャー企業と共に新規事業立ち上げを担当。2018年より、グループの投資ファンドであるZコーポレーション株式会社にてブロックチェーン領域のリサーチ、事業開発に従事。 2018年より、同社の出資により設立した次世代金融領域の情報発信を行うメディア企業、N.Avenue株式会社の立ち上げを担い、現在は代表取締役社長。世界有数の暗号資産・フィンテックメディアCoinDeskの日本版「CoinDesk JAPAN」や、国内最大級のブロックチェーンカンファレンス「btokyo」などを運営する。

|テキスト:渡邉一樹
|編集:CoinDesk JAPAN
|写真:N.Avenue