ステーブルコイン、いつ出る? 何が変わる? 何を変える?【JBW Summit at IVS Crypto】

7月4〜6日、京都で開催された「IVS Crypto/JBW Summit」、注目のセッションをダイジェストで紹介する。

セッション名:ステーブルコインの現状と展望
日時:7月6日 16:15〜
登壇者
Japan Open Chain Co-Founder 近藤秀和氏
日本銀行 FinTech副センター長 デジタル通貨検証グループ長 鳩貝淳一郎氏
ソニー銀行 CFO 渡邉尚史氏
JPYC CEO 岡部典孝氏
N.Avenue/CoinDesk JAPAN 神本侑季(モデレーター)

神本:ステーブルコイン、あるいは広義のデジタルマネーの最前線で何が起きているのか。まずそれぞれの取り組みについて、一言ずつ紹介してほしい。

近藤:Japan Open Chain(JOC)は、日本企業が運営するイーサリアム互換のブロックチェーンで、さまざまな銀行と協業して、ステーブルコインを発行しようとしている。

鳩貝:日本銀行で、CBDC(中央銀行デジタル通貨)のプロジェクトを進めている。CBDCフォーラムをつくり、国内64社の民間事業者の方々と一緒になって、新しいお金のプラットフォームについて検討している。

渡邉:ソニー銀行は最近、Web3にかなり注力していて、ステーブルコインについても動き始めている。先進的な新しい価値を届けるというミッションをWeb3分野でもやっている。

岡部:JPYCは社会のジレンマを突破するというミッションを掲げて、ステーブルコインを発行している。三菱UFJ信託銀行と信託型のステーブルコインを企画したり、自社でもJPYCというステーブルコインを出そうとしていたり、いろんな取り組みをしている。

全方位戦略のJPYC

神本:世界ではUSDCやUSDTなど、ステーブルコインの流通市場は大体20兆円規模になっている。一方、日本では昨年6月の改正資金決済法で、世界に先駆けてステーブルコインの法的な定義が明確化された。JPYCは法改正前からステーブルコインに取り組んでいた。その理由を岡部さんに説明してもらいたい。

岡部:JPYCはステーブルコインを2019年ぐらいから準備し始めた。スタートアップ企業にとっては、従来の決済手段は手数料の高さがネックになることがある。手数料がほぼゼロの決済手段があれば、もっとイノベーションが起きやすくなるだろうと確信し、ステーブルコインに人生をかけて取り組んでいる。

具体的には、現在プリペイド形式でステーブルコインを発行し、実績を積み上げている。これから資金移動型のステーブルコインも出そうと準備している。

ほかに、三菱UFJ信託銀行の信託型ステーブルコイン発行にも、企画者として関わらせていただいている。預金型ステーブルコインに関しては、青ヶ島の組合を通じて準備をしている。また、電取業のライセンスを取って、JPYCの株主であるサークルが発行しているUSDCも日本で扱えるようにしようとしている。

また、預金型デジタル地域通貨を出している北国銀行と一緒に、それでステーブルコインを買えたり、最終的には逆方向もできるようにできないかという共同検討もしている。ステーブルコインに関して、全方位的に取り組んでいる。

神本:USDCを日本で流通させるのと、日本発ステーブルコインを作るのは、どちらが早く進むのか?

岡部:必要なライセンスが違う。資金移動業があればステーブルコインが発行でき、電子決済手段等取引業があればUSDCを販売できる。どちらが早いかは、金融庁の認可次第だ。

日本企業の信頼性を基盤にしたJOC

神本:JOCの取り組みをもう少し詳しく教えて欲しい。

近藤:私はもともと1年間ソニーでEdyやFelicaに携わり、実は古くから決済系に取り組んでいたキャリアがある。その後ウェブブラウザ「Lunascape」を世に出すため独立、起業し、その縁で世界最初のウェブブラウザを作ったティム・バーナーズ=リー(Tim Berners-Lee)氏と会った。

彼はDID(分散型ID)と決済が結びついていないから「Webはまだ不完全だ」と言っていた。たしかに従来のカード決済などは古い仕組みを使っていて、手数料も高い。Web3はインフラ自体がブロックチェーンになっていくという点が、革新的にすごいところだ。

なぜ、我々のようなスタートアップが何千億円もかけて作られた旧来システムと同じようなことを実現できるかというと、そのための仕組みが世界中のコミュニティによって作り上げられていて、我々もそこに相乗りできるからだ。ただ、速度面であったり、日本の法規制に適合するという観点でいくと、条件を満たすブロックチェーンは見つからない。それがJOCを立ち上げた経緯だ。

いまは、ブロックチェーン上でステーブルコインを発行したい金融機関に向けて、コインスタジオというSaaS型のサービスを提供している。このサービスを使えば簡単にステーブルコインを発行できるようになっている。

地銀との取り組みも進んでいて、きらぼし銀行、みんなの銀行、四国銀行などと実証実験を進めている。我々は銀行型ステーブルコインも、信託型ステーブルコインも両方扱っている。タイミングは認可次第の部分もあるが、今年から来年初めには各行から実際にステーブルコインが出てくるはずだ。

神本:地方銀行がステーブルコインを出す理由を教えてほしい。

近藤:銀行にとってステーブルコインは、預金と同じようなものだ。いずれ全銀行が始めることになるだろう。そうなれば、ステーブルコイン同士の競争が激化するはずだ。たとえば、持っていると金利が付くとか、テーマパークのNFTチケットがもらえるとか、そうしたサービス競争が起こってくるだろう。海外ではすでにそうした動きが起きている。

特に地銀の場合は、地元支援という側面も出てくるだろう。たとえば、一定エリアでコインを使うとちょっと安くなるとか、融資もステーブルコインだと何かメリットがあるとか、そういったことも考えられる。

神本:ステーブルコインの発行側が、他のチェーンではなくJOCを選ぶメリットは?

近藤:たとえばイーサリアムでは、ハードフォークが起きたときの法的問題や、MEVの弊害としてのフロントランニング問題があると言われている。我々の仕組みではこうした問題は起きず、他チェーンに比べた場合の優位性があると考えている。

グループとのシナジーを活かすソニー銀行

神本:ステーブルコインについて、ソニーの取り組みを教えてほしい。

渡邉:ソニー銀行は最近、「Borderless Digital Banking for more”Fun”」という新しいスローガンを出した。セキュリティ・トークン(ST)を昨年から手掛け、ST投資家にNFTをプレゼントするなど、Web3の取り組みも進めている。

ステーブルコインについては今春から実証実験中で、Polygon Lab(ポリゴンラボ)、ベルギーのスタートアップSettleMint NVとコンソーシアムを組んだ。ここではブロックチェーンの検証だけではなく、様々なシステム基盤開発の検証もしている。ゼロ知識証明などの新しい技術も含めて、日本でどのようなユースケースがあるのかを考えながら進めている。

NFTは、ソニーグループの一社としてソニーミュージック、ソニーピクチャーズ、そしてプレイステーションとコラボし、魅力的なデジタルコンテンツを作って提供している。そうしたデジタルアセットのウォレットを目指す「Sony Bank CONNECT」というアプリを今夏に出す予定だ。

また、ソニーグループとしては、エンターテインメント、ゲーム、映画、音楽などのコミュニティで、安心・安全に使えるようなステーブルコインの世界があったらいいと考えている。なかでもクリエイターやアーティストと、ファンを結びつけるような、新しい決済を生み出していきたい。

クリエイターは生み出したIPを素早くキャッシュ化し、さらなる創作につなげるための決済手段がほしい。ファンは楽しく「推し活」をするため、安心安全・簡単便利な決済手段がほしい。そうしたニーズに、ステーブルコインはマッチするのではないか。

日銀が描くデジタル通貨の世界

神本:鳩貝さんは、フォーラムでCBDCを研究されている立場として、現在の動きをどう捉えているのか。

鳩貝:CBDCは中央銀行が発行するデジタル通貨で、ステーブルコインとは別のものだ。日本ではパイロット実験を行っており、その一環として、CBDCフォーラムにおいて64社の民間事業者の方々とディスカッションを進めているが、現時点で発行する計画はない。

仮に中央銀行がCBDCを出す場合は、安心・安全で、どこでも誰でも使えるという部分が大事になるのではないか。一方で、いまは民間事業者の皆さんが、創意工夫によって新しいマネーを作っている。今日のテーマに引き付ければ、そうした中から、例えばCBDCをバックアセットにするステーブルコインが出てくるかもしれないし、別の「面白いお金」が出てくるかもしれない。そして、仮にCBDCが発行された場合には、多様なお金が橋渡しされていくという世界があるのかもしれない。

日本円ステーブルコインのニーズはあるか?

神本:日本円にペグされたデジタルマネーのニーズとは何なのか、あらためて説明してほしい。

岡部:サークルやJPYCは、世界中のステーブルコインを同じ規格にしたいと考えている。サークルは最近フランスでヨーロッパのライセンスを取り、ユーロのステーブルコイン「EUROC」を出した。EUROCはUSDCやJPYCと同じ規格になっている。最終的には全世界のステーブルコインを同じ規格にしたいと思っている。規格が共通化されれば相互の決済がより素早く、より低い手数料で可能になるからだ。

これを実現するためには、ライセンスの相互互換性が必要だ。例えば銀行は各国にライセンスがあり、日本でいう「電取業」のようなライセンスや、ステーブルコイン発行のためのライセンスが各国で整備されている。そして、ステーブルコインを交換するためのライセンス整備が、今各国で進められている。実現までに5年もかからないと見ている。

神本:日本円にペグされたデジタルマネーは、海外からもニーズはあるのだろうか。

鳩貝:一般に、円建てのものを何か買いたいとか、円建てで投資をしたいといったとき、海外から円へのニーズが出てくるだろう。将来的に、ブロックチェーンの円建てのデジタル財への需要が高まった場合に、これと交換が容易な日本円に連動するブロックチェーン上のお金が求められる、といったシナリオはイメージできる。

ステーブルコインの未来は?

神本:ステーブルコインはどんな「決済の未来」を実現するのか? それぞれの立場から教えて欲しい。

近藤:たとえば給与の支払い・受け取りなどには、当たり前のようにステーブルコインが使われるようになるだろう。暗号資産業界では、もはや海外の仕事はUSDCでの取引になっていて、銀行口座を使わなくてもほぼ問題がない。そんな世界がこれから来るのではなく、「もうある」ことを知ってほしい。ただ、PayPayのような少額決済など、ブロックチェーンがあまり向いていなくて、影響が少ない分野もあるだろう。

鳩貝:決済の未来については、今日ご紹介いただいた各社の取り組みをはじめとして、多様なマネーが共存し交換が容易になる中で、社会全体のフリクションが減るイメージがある。その多様なマネーの中に、もしかするとCBDCも入っているのかもしれない。

日銀の貨幣博物館に行くと、貝や布、お米など様々なものがお金として使われてきたことがわかる。展示の中には、大勢の人が「これはお金だ」と思うものが、その時代その地域で「お金」として使われてきた、といった趣旨の文言があるが、中央銀行のお金や民間事業者のお金の共存のイメージを踏まえると、非常に示唆的だ。

CBDCの検討のためには、スタートアップも含めた大勢のみなさんとの対話が必要だ。こうした取り組みが、豊かなエコシステムにつながれば素晴らしいと思っている。

渡邉:ユースケースという意味では、Play To Earnがキーワードだと思っている。「使えば使うほど楽しい」という素敵な仕組みを作っていきたいと思う。

マーケット拡大時に大事なことは2つある。ひとつは多様性で、選択肢がそれなりにあること。そして、もうひとつは適度な競争だ。より良いものを作って届けようと、多様なプレイヤーが適度な競争でより良いものを作っていくことが必要だ。ステーブルコインの世界でも、それは成し遂げられると思っているし、ソニー銀行として、そこに少しでも貢献したいと考えている。

岡部:JPYCはいま2つの作戦を考えている。ひとつは、サービスやモノでお返しするステーブルコインにしたいという考え方だ。私は青ヶ島に移住して2年経ち、漁師に弟子入りしてマグロを釣ったりもした。例えば、JPYCを持っていたら、野菜や魚が届くというような世界を実現して、銀行が出すコインとは違うメリットを出していきたい。

もう1つの作戦は、AIフレンドリーで「色のない」お金にしていきたいということだ。当社は企業系列もないので、誰でも使いやすい……例えば起業したばかり人や個人でも使える、使い勝手のいい民間のお金として普及させていきたい。

神本:法施行から1年経ち、今後ステーブルコインが続々と登場し、さまざまなユースケースも出てくるだろう。進捗を楽しみにしたい。

なお、CoinDesk JAPANを運営するN.Avenue株式会社は、7月5日・6日に一般社団法人JapanBlockchainWeekと「JBW Summit at IVS Crypto」を共催。また、7月31日まで続く「Japan Blockchain Week」のメイン・メディアパートナーを務める。

|文:渡辺一樹
|編集・写真:増田隆幸
※編集部より:一部本文を修正し、更新しました。