世界初「中銀デジタル通貨」決済の実用版、カンボジア中銀がソラミツと

カンボジアの中央銀行であるカンボジア国立銀行が、ブロックチェーンを基盤とした中央銀行デジタル通貨「バコン」を2020年早期にも正式に導入する見込みであることが明らかになった。

「バコン」は日本のブロックチェーン企業ソラミツが主導で開発を進める「ハイパーレジャーいろは」を活用しており、2019年7月から正式導入に向けたテストを行っている。ソラミツによれば、ブロックチェーンを活用した中央銀行デジタル通貨決済の実用版としては、カンボジアが世界で初めてという。

決済速度・処理能力が高くファイナリティがあるのが特徴

少額のリテール決済から高額の銀行間取引までできる「バコン」は、カンボジア国立銀行が運営を主導。現在のテストではすでに、カンボジア最大の銀行アクレダを含む9つの銀行などと接続して、数千人のユーザーが実際に送金や店舗での支払いを行っているという。タイ中央銀行やマレーシア銀行最大手のメイバンクと、バコンを活用した国際決済・国際送金システムの構築も進めている。

カンボジア国立銀行が各銀行に「バコン」を発行し、各銀行が利用者に「バコン」を間接的に発行する仕組み。利用者の口座管理や本人確認業務は従来通り各銀行が行うという。

従来の企業間送金では、決済事業者が売上金を加盟店の口座に振り込み、加盟店が着金確認をする必要があった(下図左)。加盟店にしてみれば、売上金が振り込まれるまで次の仕入れなどに売上金を使うことができないため、資金の流動性が低いことも問題だった。

しかし「バコン」はトークン型のデジタル決済で、「バコン」自体が現金と同等の価値を持ちファイナリティがあるため、リテール決済に使用する時でも、資金清算や後日の着金確認などの必要がないことが大きな特徴だ。

ソラミツ リリースより

「銀行口座がない」──15歳以上の8割弱

バコンの利用者は、送金先の銀行口座番号を知らなくても、相手の携帯電話番号宛てに直接送金したり、QRコードをスキャンして決済や送金ができる。無料で現地通貨のリエルや米ドルの決済・送金ができる。

世界銀行の統計によると、カンボジアの15歳以上の国民のうち78%が銀行口座を開設していないという(2017年)。一方でスマートフォンの普及率は150%のため、銀行口座のない相手に送金できるこの仕組みは重宝されるだろう。

ソラミツの宮沢和正COO(最高執行責任者)はCoinDesk Japanの取材に対し、カンボジアが中央銀行デジタル通貨を導入できる理由として「日本では既存のシステムを取り替えることは難しいが、カンボジアのような小さい国では新しいシステムを導入しやすい」などと述べた。

ブロックチェーン企業のソラミツは、2016年2月に設立された。2017年からカンボジアの中央銀行デジタル決済の開発に携わってきたほか、2018年にはモスクワ証券取引所グループのNSDとともに暗号資産の預託サービスを運用し始めたという。

文:小西雄志
編集:濱田 優
写真:Shutterstock