“ビットコイン・スタンダード”は必然的な未来──12カ月で100万ドルもあり得る【JAN3・CEOインタビュー後編】

4月25日、東京・四谷にビットコイン(BTC)普及の拠点として「Tokyo Bitcoin Base(TBB)」がグランドオープンし、国内外からビットコイナーが集まった。CoinDesk JAPANはその1人、エルサルバドルなど各国政府にビットコイン戦略をアドバイスする企業JAN3のCEO、サムソン・モウ(Samson Mow)氏にインタビューを実施。昨日公開した前編では、国家ビットコイン準備金が持つ意味や重要性を聞いた。
後編では、主に同氏が「ビットコインは今後12カ月以内に100万ドルに達する可能性がある」と考えている理由について聞いた。
国境がないからこそ重要な物理的拠点
──東京ビットコインベース(TBB)のような拠点に対して、期待することは。
モウ氏:TBBのような拠点が果たすべき役割はとても大きい。というのも、ビットコインに対する関心と理解は、政府や金融機関だけでなく、一般市民や民間レベルからも醸成されていくことが重要だからだ。

私たちが期待しているのは、コミュニティの形成と学びの場を提供すること。つまり、ビットコインについて語り合い、知識を深め、互いに啓発し合う環境づくりの場となること。それが、国によるビットコイン導入を後押しする強力な世論形成につながるだろう。
また、海外からのビットコイナーがTBBを訪れ、日本の現状を理解し、議論を交わすことで、グローバルなネットワークが構築される。日本が世界のビットコイン・ハブの1つとして台頭する可能性を意味している。ビットコインに国境はない。だが、物理的な拠点は重要だ。
1年以内に100万ドルに到達する可能性も
──あなたは、ビットコインは100万ドルに達する可能性があると予測している。その理由や条件はなにか。
モウ氏:私の見解では、現在のビットコイン価格はインフレの影響で著しく過小評価されている。足元では10万8000ドルの過去最高値も視野に入ってきているが、同時にマネーサプライも大きく増えている。私が考える当面の適正な価格帯は20万ドル付近だが、そこに至るには心理的な壁がある。

10万ドルといった数字を見ると、多くの人は「そろそろ売ろうか」「これは高すぎる」と感じる。しかし、過去にも1000ドル、1万ドル、10万ドルのタイミングで同じようなことがあった。
つまり、これは心理的な障壁を一度突破すれば、価格は急速に上昇する可能性がある。ビットコインは現在、地球で5番目に大きな資産であり、おそらく1ビットコインが30万ドルを超えれば2番目に大きな資産になるだろう。
さらに50万ドルに達すれば、ビットコインの時価総額は金の時価総額の半分に達する。100万ドルで金を上回る。ただし重要な分岐点があり、私はこれを「ヴェブレンの閾値(Veblen threshold )」と呼んでいる。それが、50万ドルだ。
※編集部注:ヴェブレン財(価格が高くなるほど需要が高まる品物のこと)
20万ドル到達ですぐに倍増
モウ氏:50万ドルに到達し、金の半分の価値になれば、人々はビットコインに乗り換えるようになるだろう。ビットコインの成長曲線はきわめて明白だからだ。金は何千年もの時間をかけてその地位を築いてきたが、ビットコインはまだ16年しか経っていない。それにもかかわらず、すでに5番目の資産になっている。
ビットコインは、金とはまったく違っている。20万ドルに到達すれば、そこからすぐに倍増する可能性がある。そして50万ドルへ到達し、さらに倍増するだろう。
現在のマクロ経済環境はきわめて強気だ。多くの企業がビットコインを買い集め、米国政府さえも保有し始めている。仮にさらに数社の大規模プレーヤーが参入すれば、需給のバランスは完全に崩れるだろう。ETF(上場投資信託)だけでも、マイニングされるビットコイン供給量の20倍近い需要を生んでいる。すでにマイニングによって供給されるビットコインとは、大きな需給ギャップがある。
マイクロストラテジーやメタプラネットといった企業の需要を含んでいない、ETFの需要だけでもこの状況で、今後、需要はますます加速していくだろう。
さらに重要なのは、ビットコインを買っている企業、特に上場企業は、ほとんど売却していない点だ。

彼らはマイクロストラテジーの戦略、「資金を借り入れてビットコインを購入し、保有分は売らない」という戦略を採用している。結果として、今後はビットコインを合理的な価格で購入できなくなる供給不足の危機が近づいている。価格は急速に上昇し始めるだろう。
100万ドル到達は 今後12カ月以内かもしれない。これほどの需要があるのに、価格が上昇しないのはおかしい。常に買い注文が大量に入っているのを見ると、正直、理屈に合わない。物事が理屈に合わないときは、たいてい最終的に調整が入り、大きな価格変動が起きることになる。
トランプ関税の影響と36兆ドル超の米債務残高
──トランプ大統領の関税政策が注目されているが、世界経済とビットコイン市場にどのように影響するだろうか。
モウ氏:すべてがビットコインにとって好材料だと思う。そもそも関税の目的は、金利を下げて経済を刺激し、あるいは市場に不安を与えることで、人々を安全資産に誘導することだったと考えている。しかし、その目論見はうまくいかなかった。
そして、今ではメンツの問題になっている。政府は方針を撤回せず、中国に対して強い交渉ポジションを維持しようとしているが、中国側も一切動いていない。
結果として市場が動き、まず金に資金が流れ、今はビットコインにも波及している。最終的には、その流れがすべてビットコインに収束するだろう。なぜなら、現行の金融システムを根本的に修復できる手段は、物理的には存在しないからだ。
関税や省庁の効率化など、現在行われている取り組みはすべて応急処置にすぎない。トランプ政権は「我々は経済を立て直せる、財政赤字を減らせる、すべてうまくいく」とアピールしようとしているが、米国の債務総額はすでに36兆ドル(5220兆円、1ドル145円換算)を超え、修復は不可能だと私は考えている。唯一の解決策は、ビットコインのような新しく、より堅固な資産へと移行することだ。
通貨が崩壊した世界をビットコインが修復
──最後に、あなた自身について伺いたい。なぜこれほど長い間ビットコインに関与し続けているのか、モチベーションはどこにあるのか。
モウ氏:ビットコインには世界を修復し、多くの人々の苦しみを和らげる現実的な可能性があると考えているからだ。

過去数十年にわたる多くの苦しみは、通貨に対する不信と政府が無制限に通貨を発行できる構造に起因している。今日では、多くの若者が家を購入することも、家庭を持つことも難しい。将来に希望を持てない状況は、やがて社会的な混乱へとつながるだろう。
さらに言うなら、ある通貨から別の通貨への移行は、歴史的に見ても常に混乱を伴ってきた。近年でも2016年、インド政府が一部の高額ルピー紙幣を突如廃止したことで、医療費を払えずに命を落とす人が出たほか、紙幣交換の行列の中で亡くなった人もいた。
もし今後、ドルや円など主要な法定通貨が崩壊し、世界が急速にビットコインへ移行するような事態が起これば、混乱は計り知れない。多くの人がビットコインへの移行手段を知らず、社会全体が混乱に陥る可能性がある。
だからこそJAN3は、各国政府と連携しながら、国によるビットコイン導入と並行して、ビットコインの使い方などの教育活動を推進している。人々があらかじめ知識を備え、混乱なくビットコインに移行できるようにすることが目的だ。
すべての人が同時にビットコインに殺到すれば、詐欺の温床にもなる。別のものを本物だと信じて購入してしまうこともあるし、価値が最終的にはゼロに向かう可能性のあるアルトコインに投資してしまう可能性もあるだろう。
だからこそ、「ビットコイン化された人口(Bitcoinized population)」を増やし、人々が正しい知識と判断力を持てるようにすることが不可欠だ。私たちの取り組みの多くは、ビットコイン・スタンダード(編集部注:ビットコインを価値の基準とする考え方・体制)に向け、秩序ある移行を実現するための準備であり、ビットコイン・スタンダードは必然的に訪れる未来だと考えている。
|インタビュー・文:橋本祐樹
|撮影:CoinDesk JAPAN編集部
|トップ画像:JAN3のサムソン・モウ氏