
- コインベース(Coinbase)の第1四半期の収益は予想を下回り、4月の取引高は第2四半期の一段の低迷を示唆した。
- ウォール街のアナリストらの見通しは分かれており、短期的な収益圧迫が指摘される一方で、29億ドル(約4200億円、1ドル=145円換算)でのデリビット(Deribit)買収は暗号資産(仮想通貨)デリバティブにおける戦略的な一手として評価されている。
- ステーブルコインの収益と、カストディやトレーディングテクノロジーのようなインフラサービスの成長は、不安定な市場に対するヘッジを提供する。
ウォール街のアナリストらは、コインベースの第1四半期決算が予想を下回ったことと29億ドルでのデリビット買収について様々な判断を下し、短期的な予測を下方修正する者もいれば、長期的な戦略的勝利を指摘する者もいる。
「第1四半期決算は予想をやや下回り、(サブスクリプションとサービスの)収益と4月の(取引)高に関する前向きなガイダンスは、軟調な暗号資産市場とリベートによって影響を受けた」と、「中位」の格付けを維持したバークレイズ(Barclays)のベンジャミン・ブディッシュ(Benjamin Buddish)氏は報告書で指摘し、次のように続けた。
「それ以外の点では、コインベースは第1四半期にスポットと先物の両方で取引シェアを大きく伸ばしており、かなり楽観的な見方を維持している」。
米国を拠点とする暗号資産取引所のコインベースは、前四半期から予想を上回る12%減の20億3000万ドルの収益を計上した。
取引収入は約19%減の13億ドルで、今期にも赤信号が灯っている。キーフ・ブリュイエット&ウッズ(Keefe, Bruyette & Woods)やJPモルガン(JP Morgan)などの複数のアナリストは、手数料率の低下と機関投資家の活動の低迷を理由に、第2四半期と通年の収益予測を下方修正した。
リテール取引は堅調に推移したが、機関投資家からの収益は減少した。JPモルガンは、機関投資家の取引高が前四半期比で30%減少し、機関投資家向け手数料が4.1ベーシスポイントから3.1ベーシスポイントに低下したことを指摘した。インセンティブ、リベート、そして高頻度トレーダーの存在がその要因となっている。
それでも、世界有数の暗号資産デリバティブ取引所であるデリビットの29億ドルでの買収は、デリバティブの未来に対する大胆な賭けとして際立っていた。
コインベース株を「アウトパフォーム」評価しているバーンスタイン(Bernstein)は、デリビットの年間取引高1兆2000億ドル、建玉残高300億ドルを考慮すると、この買収額は妥当な評価だとした。
コインベース株に「買い」評価を与えたカナコード・ジェニュイティ(Canaccord Genuity)は、この買収はコインベースに国際的な強みを与え、暗号資産オプション取引に関して米国で規制当局から認可を受けるための準備になると述べた。
取引収益が低迷する中、コインベースは他の成長手段に傾注している。サブスクリプションとサービスの収益は9%増の6億9800万ドルで、ステーブルコインの採用が後押しした。
コインベースのUSDコイン(USDC)残高は約50%増の123億ドル、オフプラットフォームの残高は39%増の420億ドルに急増した。ユーザー1人当たりの平均残高は2023年6月以降3倍になったと、カナコードは指摘している。
コインベースの戦略には、暗号資産市場への参入を目指す機関投資家向けにホワイトラベルのインフラを提供する「コインベース・アズ・ア・サービス」モデルの拡大も含まれている。
カナコードのアナリストによると、これは収益の重要な柱となり、不安定な取引サイクルに対するヘッジを提供する可能性があるという。
「この業界が急速に発展すれば、(開発ではなく)購入という戦略が最も可能性の高いシナリオであるという逸話的なデータを、現時点で伝統的金融(TradFi)や暗号資産ネイティブのインフラ企業から数多く聞いている」とカナコードのアナリストは述べ、次のように続けた。
「このようなサービスとしてのインフラからの収益は、四半期ごとの取引収益の変動を滑らかにするのに役立つと同時に、市場における同社の基軸となるポジショニングをさらに強固なものにするだろう」。
バークレイズと、コインベース株を「アウトパフォーム」評価しているオッペンハイマー(Oppenheimer)は、関税関連の不透明感や、4月と5月のこれまでの取引高を押し下げたセンチメントの低迷など、マクロ経済リスクを強調した。
規制の明確化への期待は、GENIUS法(ステーブルコインに焦点を当てた米上院法案)が今週初めに否決されたことで裏切られた。
にもかかわらず、JPモルガンは、経営陣は8月の休会前に法案に関する進展が再開される可能性があると楽観的な見方を維持していると述べた。
コインベースは依然として自社を、進化する暗号資産エコシステムの中心的存在であると考えている。目先の見通しには、取引高の少なさと手数料の圧迫によってかげりが見えるが、多くのアナリストは、コインベースの広範な商品群、米国市場での圧倒的な地位、デリバティブとインフラにおける早期参入者の優位性によって、長期的には好位置につけていると述べている。
カナコードが言うように、コインベースは短期的には不安定な状況を切り抜けなければならないとしても、機関投資家、リテール投資家双方にとってデジタル資産参入の「ゴールド・スタンダード」であり続けている。
|翻訳・編集:山口晶子
|画像:Iryna Budanova / Shutterstock.com
|原文:Coinbase Divides Wall Street Analysts After Earnings Miss, Deribit Takeover