フィンテックで激変するのか、日本の3つのコア領域──インフキュリオンCEOが2020年を予測

人工知能(AI)・金融・ITが融合したフィンテックは、世界中のあらゆる産業を変えてきた。

日本では2019年、キャッシュレス決済の利用者が急増し、スマートフォン決済の「PayPay」や「LINE Pay」を使って買い物をする人を見るのも日常的になった。

一方、リープフロッグ型の経済成長を遂げる隣国の中国では、デジタル化の波はさらに強い。アリババとテンセントが独自のスーパーアプリを爆発的に普及させ、企業価値をさらに上げれば、中国政府はデジタル人民元の開発を進め、米ドルの基軸通貨体制を揺るがすほどの国家戦略を打ち出している。

2020年、テクノロジーは日本の多くの産業構造を変化させていくだろう。「失われた20年」が「失われた30年」と呼ばれるほどに、慢性的な経済の低成長と高齢化が続く日本で、フィンテックが大きく変える分野とはいったいどこなのか?

「お金のデジタル化は爆発的に進む」と予測し、2006年に創業したインフキュリオン・グループを訪れ、共同創業者兼CEO(最高経営責任者)の丸山弘毅氏に話を聞いた。

「モビリティ」はさらに進化する

東京・山手線の新駅「高輪ゲートウェイ駅」では、QRコードに対応した改札機を導入される。(Shutterstock)

社団法人Fintech協会・代表理事会長でもある丸山氏が、注目する産業エリアの1つはモビリティだ。

電車やタクシー、飛行機の交通機関は、キャッシュレス化・ロボット化が進む余地が、まだまだあるという。

JR東日本は2019年12月、山手線の新駅「高輪ゲートウェイ駅」で、QRコードに対応した改札機を導入すると発表。新駅では、無人の決済システムを活用した店舗を開き、警備や清掃にロボットを活用するとしている。

「そのうちに生体認証を基にしたサービスが出てくるだろうと思っています。モビリティでは、支払うという行為と、乗っても良いという権利が一体化してきている。この一体化はデジタルで可能になります」

丸山氏は、タクシーの料金支払いでも生体認証を使うことは可能だと述べる。自動運転タクシーが今後商業化される社会になれば、乗車時に生体認証し、降車時に自動決済されるシステムも可能になる。「まだまだ未来感が残る世界かもしれないが、技術的には実現可能な世界だ」と丸山氏。

インフキュリオンは、決済領域における幅広いテクノロジー開発を進めているが、同社は今後、BaaS(バンキング・アズ・ア・サービス=銀行サービスをクラウドサービスとしてAPIを介して提供する)事業も強化していく。

「病院」は会計待たずに「薬局」へ

「個人のデータが仮にオンラインで決済手段と紐づいていれば、患者は会計を待たずに薬局に移動できる」(インフキュリオン・丸山氏)

国内の医療施設では、診察を終えた多くの患者たちが、待合エリアのシートで「会計」を待つ光景をよく目にする。

診察券や保険証を事前に受付に提出する病院で、個人のデータが仮にオンラインで決済手段と紐づいていれば、患者は会計を待たずに薬局に移動できると、丸山氏は述べる。

また、薬手帳と薬局がオンラインで連結していれば、患者は、スマートフォンアプリで訪れる病院を指定する。患者のデータは病院から薬局に送られ、患者は薬局に行けば薬を受け取ることができる。

「こんな仕組みの一部は既に活用されつつあります。高齢化が都心よりも進む地方においては、面倒な手続きがなくなってくるのであれば、今の日本に適しているのではないでしょうか」

高齢化は今では、世界の多くの先進国の課題になりつつあるが、日本特有の社会課題。この課題を解決する意味でも、病院や薬局でのキャッシュレス化は進んでいくだろうと、丸山氏は予測する。

「デジタルバンク化」と「IoT」で地銀が日本の工場、農場を変える

北海道・ニセコの大豆畑(Shutterstock)

丸山氏が、デジタル化で大きく変わる産業の3つ目に挙げたのは、地方銀行だ。

地方の経済と産業を熟知した金融機関が、「デジタルバンク」にトランスフォームして、IoT(Internet of Things=モノのインターネット)をフルに活用すれば、日本の課題の一つである地方再生に繋げられるのではないかと、丸山氏は言う。

現在、国内の地方銀行は厳しい経営環境下にある。経営破綻のリスクに直面する地銀も出てきてもおかしくない。しかし、丸山氏は、地銀の重要性と可能性は今後、さらに増してくると述べる。

「地方経済の未来を考えた時、ローカルの店舗や事業社に対してどういう金融サービスが必要なのかを、改めて考える時期なのかもしれません。日本の地銀がデジタルバンク化し、工場や農場、店舗の売上管理や売上予測をして、その事業社の経営状態をリアルタイムに把握する。経営をより良くするための、金融サービスを提供できれば、未来の地銀の役割は重要になるのではないだろうか」

デジタルバンク化した地銀が、IoTで繋がるデータをフル活用すれば、低コストで地方経済を担う金融サービスを継続できると、丸山氏は強調する。IoTが地方都市の工場や農家の生産状況や、家畜の飼育状況を把握し、レストランの予約状況を把握する。多くの産業における事業社に、タイムリーな金融サービスを、動的なデータを活用しながら提供することができるようになる。

「冷蔵庫」「洗濯機」のサブスクリプション・サービス

「今までは、モノを購入して所有することを『買う』と呼んできました。これからは、『使う』という概念に変わるモノが多く出てくるのではないでしょうか」(丸山氏)

「IoTやシェアリング・エコノミーが普及する中で、データを利用する事業社側のインフラは、これからもっと変わっていくだろう」と丸山氏は加える。IoTを基盤とする社会では、モノを買う概念が弱くなり、利用した分だけが課金されるようになる。

例えば、10万円以上を支払って買い替えてきた洗濯機。入居した住宅には、洗濯機が設置されていて、利用する度に課金される。テレビや冷蔵庫も、サブスクリプション型サービスで利用できるようになる。

「今までは、モノを購入して所有することを『買う』と呼んできました。これからは、『使う』という概念に変わるモノが多く出てくるのではないでしょうか。決済は、『レジ』から『IoT』に繋がった『機械』や『デバイス』に移っていくのだろうと思っています」


丸山弘毅氏:インターネット全盛期の1999年にJCBに入社。決済データをAIで分析して、不正防止やマーケティングの最大化を図る事業に約8年間、従事。「お金のデジタル化が爆発的に起こる」と予想し、2006年にインフキュリオン・グループを共同創業し、決済領域における幅広いテクノロジーを開発を進めてきた。同社の社員数は現在、約120名。そのうち、約30名がエンジニアやデータサイエンティストなどの技術者。


インタビュー・構成:佐藤茂
撮影:多田圭佑