JPモルガン、eコマース企業向けeウォレットを開発へ──アマゾン、Airbnb、Lyftなどに照準か

世界中で取引を行うeコマース運営会社やテクノロジー企業が、顧客からの支払いや払い戻し(リファンド)などの膨大な数の電子決済を扱う中、米銀最大手のJPモルガン・チェースは、これらの企業の決済方法に応じた電子ウォレット(eWallet)の開発を進めていることがわかった。

JPモルガンは現在、複数の顧客企業と協議を進め、それぞれの企業がeウォレットを通じて得られるサービスの検証を進めていると、JPモルガン(ニューヨーク)でグローバル・ペイメント戦略のマネージング・ディレクターを務めるマット・ルース(Matt Loos)氏が取材で明らかにした。

ニーズは企業ごとに異なるが、小売会社やホテル、航空会社などが展開する会員制プログラムや、大規模なeコマースプラットフォームの運営などを対象にした決済ソリューションの開発を行っていると、ルース氏は述べる。

“ペイメント・アズ・ア・サービス(PaaS)”としてのeウォレット

「(JPモルガンの)eウォレットは、取引がさらなる企業同士の交流につながるペイメント・アズ・ア・サービス(Payment-as-a-Service)」(マット・ルース氏)

顧客企業がJPモルガンのeウォレット・サービスを利用する代わりに、JPモルガンは、その企業が扱う決済処理や送金などの全てを行うというもの。言い換えると、eウォレット・サービスをペイメント・アズ・ア・サービス(Payment-as-a-Service=PaaS)として企業に提供しながら、銀行が得意とする決済や送金のノウハウを最大限に生かそうとする新たな戦略だ。

アマゾン・ドット・コムや民泊仲介サイト最大手のAirbnb(エアビーアンドビー)、配車サービスのLyft(リフト)などの企業は今後、米銀最大手が展開するPaaSの利用に踏み切るのか?

AI(人工知能)・IT・金融が融合したフィンテックを活用し、テクノロジー企業が金融業への参入を進める中、多くの伝統的な銀行は、競争力を維持することすら困難な事業環境に陥っている。

その一方、年間1兆円を超える予算をテクノロジー関連に投下するJPモルガンは、商業銀行、リテール銀行、投資銀行、資産運用の従来の金融サービスのノウハウと、最先端テクノロジーを掛け合わせることで、次世代型の“バンクテック”企業にトランスフォームしようとしている。

フェイスブック、グーグル、アップルの決済サービス・ラッシュ

「Apple Card」(AppleのHPより)

GAFAで知られる米国のプラットフォーマーは、独自で金融サービスを拡大する動きを強めている。例えば、米フェイスブックは2019年11月、米国市場で新たな支払い機能「Facebook Pay」を「Facebook」と「Messenger」上での提供を開始。今後は、「Instagram」と「WhatsApp」での利用も可能にし、サービスの提供エリアを広げていく。

グーグルは同月、米銀シティグループ(Citigroup)とスタンフォード大学の信用組合と共同で、グーグルペイ(Google Pay)アプリを介して当座預金サービスを始めると発表した。

またアップルは昨年、米国でリテールバンキング事業を強化しているゴールドマン・サックスと組み、「Apple Card」をスタートさせた。「iPhone」ユーザーには、同カードをApple Pay上で利用すれば、購入ごとに数パーセントのキャッシュバックが付与されるという。

また、巨大eコマースのアマゾンが遅かれ早かれ銀行業に参入するだろうとする憶測は、依然として市場から聞こえてくる。

「テクノロジーは、我々が顧客に提供する全てのプロダクトとサービスの基盤として支えている。eウォレットは、そのテクノロジーと、顧客企業と第3者を結ぶ我々のスケール(事業規模)を生かした施策の一つ」とルース氏。「eウォレットは、取引がさらなる企業同士の交流につながるペイメント・アズ・ア・サービス(Payment-as-a-Service)である」

アジアのスーパーアプリが拡大させる金融サービス

アジアのスーパーアプリの一つ、グラブ(Grab)は過去7年間で、東南アジアの主要都市において爆発的な人気を集めてきた。

2019年末、アジアの金融ハブ、シンガポールでもテクノロジー企業による金融サービス強化のニュースが注目を集めた。同国テレコム最大手シングテル(SingTel)が、タクシーの配車サービスをコア事業に置くグラブ(Grab)と連携して、オンライン銀行のライセンス取得を目指すと発表した。

アプリの「Grab」は、配車サービスに限らずフードデリバリーなどの他のサービスを一つのアプリで提供する「スーパーアプリ」として、東南アジア諸国でユーザー数を増やしている。グラブとシングテルは今後、合弁企業を設立して個人と中小企業向けのデジタル銀行サービスを展開していくという。

中国のアリババとテンセント、東南アジアのグラブなどが、スーパーアプリの一サービスとして金融事業を広げる中、JPモルガンはこの動きをどう捉えているのか?

ルース氏は、「決済を含む企業向けのサービスにおいて、JPモルガンは確固たる地位を築いている」と述べた上で、「JPモルガンは、個人から大企業まで、あらゆる業種の顧客企業が行う決済業務を支援してきた。この基盤を最大限に活用しながら、さらに決済における新しい手法を探求し、顧客企業のニーズに対応し続けていく」と加えた。

取材・文:佐藤茂
写真:Shutterstock