ビットコイン時代に突入する、スイスの銀行

スイスの銀行業界は古くから、プライベートバンキングで知られている。そのため、ビットコインはスイスの金融業界にとって自然なものと考える銀行家もいる。

仮想通貨関連サービスを提供

そうした銀行家はまだ少数派かもしれないが、チューリッヒに拠点を置くSEBA Bank AGは2019年11月、一般的な銀行ライセンスに加え、法定通貨の保管から仮想通貨カストディ、買い物をした時にバックエンドで自動的に法定通貨に交換する仮想通貨と連携したデビットカード、モバイルアプリを通じた仮想通貨取引といった一連のサービスを開始した。

SEBAのCEO、グイド・ビューラー(Guido Bühler)氏は、同行はブラック・リバー・アセット・マネジメント(Black River Asset Management)の創業者ガイ・シュワルツェンバッハ(Guy Schwarzenbach)氏などのエンジェル投資家から1億スイスフラン(約110億円)を調達したと述べた。

シュワルツェンバッハ氏は、国際的な取引所とのバックエンドAPIでの統合によって実現したSEBAアプリでの取引価格は、店頭取引に比べて「非常に競争力のある」価格を提供していると述べた。

「SEBAについて私が本当に楽しみにしていることは、間もなく始まる、オプションやデリバティブを含む信用取引と融資事業の展開」とシュワルツェンバッハ氏は述べた。

SEBAは、スイス初のビットコイン・フレンドリーな銀行というわけではない。例えば、ファルコン・グループ(Falcon Group)は2017年、ビットコイン・マネジメント・サービスをローンチした。WEF(世界経済フォーラムの金融システムの責任者、マシュー・ブレイク(Matthew Blake)氏は、仮想通貨フレンドリーで完全にライセンスを受けた銀行は新たに登場しつつあるトレンドと述べた。

「機関投資家がヘッジのために利用できる」とブレイク氏は指摘した。

同様にスイスの仮想通貨スタートアップ、ビットコイン・スイス(Bitcoin Suisse)もまた、ステーキングサービスからローンまであらゆるものを提供することを目標に銀行ライセンスを申請した。

「我々は、他の銀行と同じような存在になるためだけに銀行ライセンスを申請しているのではない。我々は真のパイオニア」とビットコイン・スイスのマーケティング責任者、イアン・シンプソン(Ian Simpson)氏は述べた。

「我々はもちろん、顧客に現金口座を提供する。(中略)我々は、デジタル証券、ステーブルコイン、そしてミニ先物や主要な仮想通貨を空売りできる商品のようなシンセティック型商品の取引を開始できるようになる」

DeFi(分散型金融)の可能性

しかし、今のところSEBAはそうした銀行の中で、ユニークな機能を提供している。米ドル、香港ドル、シンガポールドルなどの多くのさまざまな法定通貨を使って、ビットコイン、イーサリアム、ステラルーメンスなどの仮想通貨をすぐに取引することができる。

「電話で15分で口座を開設できる。適格投資家であれば、スイスに行く必要はない」とビューラー氏は述べた。

「銀行には必須となる側面がある。その最初のものは顧客の秘密鍵の保管」

超小型PCのラズベリーパイ(Raspberry Pi)を使って作った独自のライトニング・ネットワーク・ノードを運用し、自身をリバタリアン(自由主義者)と呼ぶシュワルツェンバッハ氏にとって、ビットコイン・バンキングは、物理的なセキュリティー上のメリットから合理的なもの。同氏は、誰かにビットコインを奪われ、傷つけられるリスクを望んでいない。

ビューラー氏は、創業まもないSEBAはすでに、アメリカを除く世界中の富裕層や機関投資家、さらにいくつかのブロックチェーン・スタートアップを顧客としていると語った。

シュワルツェンバッハ氏は、メーカーダオ(MakerDAO)にインスパイアされたオープンソースのDeFi(分散型金融)プラットフォームは、最終的に一般の人々と、有名な1%の人々の双方に対して、同等の金融インフラを提供する可能性があると付け加えた。

「私の望みは、我々がそうした(DeFi)インフラを開発・提供できるようになること。そして市場の成熟に伴って、標準が自然と登場すると私は期待している」とシュワルツェンバッハ氏は述べた。

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Shutterstock
原文:Swiss Banks Enter the Age of Bitcoin