5つのチャートで分かる暗号資産決済の現状

2009年に誕生したビットコイン(BTC)には、オンラインでのピアツーピア取引において、信頼できる第三者が必要なくなるという熱い期待が寄せられていた。ホワイトペーパーの概要の最初の文言も、それに関するものだった。

それから13年間のビットコインの進化、そして取引手数料の高騰を受けて、オンライン送金の手段として、様々な暗号資産(仮想通貨)プロジェクトやプロトコルが、ビットコインやその他のブロックチェーン上に登場してきた。

ビットコインのライトニング・ネットワークの普及や、各種ステーブルコインの著しい成長を見ても、暗号資産が決済の問題を解決することに大いに焦点を当てていることは、否定できない事実だ。

そんな暗号資産決済の現状を、データとともに見ていこう。

ライトニング・ネットワークのキャパシティ

ライトニング・ネットワークは、ビットコインブロックチェーン上に築かれた「レイヤー2」ネットワーク。ユーザーが生成したマイクロペイメントチャンネルを使って、取引を瞬時に実行するものだ。

そのようなチャンネルの生成のために、ユーザーはビットコイン(BTC)を一定期間、ネットワークに差し出す。こうしてライトニング・ネットワークに差し出されたビットコインの数は、キャパシティと呼ばれる。キャパシティが大きいほど、ライトニング・ネットワークを通じて流れる支払いの容量が大きくなる。

2019年から2021年半ばまで成長が鈍化した後、ライトニング・ネットワークのキャパシティはここ12カ月間、急速に増大しており、2400BTCも増加した。その成長率は195%だ。

ちなみにこのデータは、公表されたチャンネルのキャパシティを示すもので、公表されていないプライベートチャンネルも存在する。そのため、ライトニング・ネットワーク全体のキャパシティは、この数字よりも大きいことになる。

パブリック・ライトニング・ネットワークのキャパシティの推移
出典:Bitcoin Visuals

ライトニング・ネットワークの成長

ライトニング・ネットワーク上での取引は、普通のブロックチェーン上にあるため、一般向けに発表されてはいない。つまり、ライトニング・ネットワークの実際の使用率は、分からないのだ。しかし、支払い高や支払い件数を推測するのに、公表されたデータを使うことはできる。

アーケーン・リサーチ(Arcane Research)のデータによれば、2020年初頭以来、支払い高と支払い件数は着実に増加している。この持続的成長は、ビットコインがライトニング・ネットワークを通じて、ピアツーピアのデジタルキャッシュとしての、当初宣言していたユースケースとして足場を固めていることのサインだ。

2021年11月の支払い高の減少は、ビットコイン価格が6万6000ドルから、12月には4万6000ドルまで下落したのと同時期に起こっている。一方、ライトニング・ネットワーク上での支払い件数は、値下がりにも関わらず、上昇を続けた。

ライトニング・ネットワークの支払い高と支払い件数推移
出典:Arcane Research

決済高はコインごとに大きく異なる

下記チャートに含まれる7つのコインは、CoinDeskインデックスのデジタル資産分類スタンダードに準拠し、主な目的が通貨として機能し、支払いを行うためのものだ。

コインごとの米ドルでの決済額と取引件数
出典:Coin Metrics

取引移動価値(移動した価値を米ドルで表したもの)と、取引件数を組み合わせて見ると、各暗号資産の使用状況について洞察を得ることができる。

暗号資産は、多くの取引を抱えて、活動が活発なこともあり得るが、その活動を米ドル建てで表現した時にその数字が極めて小さければ、そこには何か別の意味があるのかもしれない。

これが、ビットコインSV(BSV)の場合に当てはまる。BSVでは、他の暗号資産よりも数百万件多く価値の移動が起こっているが、各取引の価値は、比較的小さい。平均すると、BTCでは取引ごとに4万ドルが移動するのに対して、BSVでは25.95ドル。このチャートの中で、次いで取引ごとの価値が少ないのは、ダッシュ(DASH)で、取引ごとの移動価値は485ドルだ。

しかし、平均は大口取引によって歪められる可能性があるため、米ドル建ての中央値を見ることが、これら暗号資産が実際に支払いのためにどれくらい使用されているのかを見極めるためには、極めて有益だ。

ビットコインを使って移動した価値の中央値の30日間移動平均は、94ドル。BSVの場合は0.0005ドルだ。これらの数字はコマースのための上限値と下限値の方に傾いているため、少額の気軽な暗号資産による支払いは、ドージコイン(DOGE)とライトコイン(LTC)で行われている可能性もある。これらのコインはそれぞれ、取引ごとの金額の中央値が11ドルと16ドルだ。

1つ注意すべきは、ジーキャッシュ(ZEC)と、比較的低いその移動価値の中央値だ。ジーキャッシュはプライバシーコインであるが、プライバシー機能を使うためには、ユーザーがわざわざ選択する必要がある。

通常のジーキャッシュ取引は「シールド」されておらず、「t」取引と呼ばれる。ユーザーは取引を「シールド」して、すべての情報が公開されることのない「z」取引に変更することも可能だ。そのため、私たちのデータにはシールドされていない取引しか含まれていない。ジーキャッシュ取引の約3分の1がシールドされていないところを見ると、データが歪んでいる可能性が高い。

取引ごとの移動価値の中央値
出典:Coin Metrics

ステーブルコインの供給量

ステーブルコインは、米ドルなどの法定通貨の価格にペグされている。なかでも、米ドル連動型ステーブルコインは、ボラティリティの低さと、米ドルの世界的に受け入れられるステータスのために、支払いにおいて大切な役割を果たす。

最初のステーブルコインであるテザー(USDT)は、誕生以来長らく、支配的なステーブルコインとなっており、現在では800億ドル相当以上のテザーが流通している。その人気を受けて、USDコイン(USDC)やterraUSD(UST)など、他のステーブルコインも登場した。米ドル連動型ステーブルコインは合計で、時価総額が1800億ドルを超えている。

それは見事な数字だが、ステーブルコインの多くは、ピアツーピアの支払いではなく、暗号資産トレーディングや分散型金融(DeFi)で使われていることに注意が必要だ。

ステーブルコイン流通量の推移
出典:Coin Metrics


決済は普及の決め手に

決済のためのプロジェクトがこれほど多数存在することから分かるように、決済の改善は、暗号資産が普及する決め手となるユースケースの1つである。

実際、通貨は人類最古のテクノロジーの1つであり、その通貨を使って取引を行うことは、通貨の成功にとって不可欠な要素である。第三者の仲介業者を排除するものであれ、スピードや、ボラティリティリスクに重点を置くものであれ、消費者が暗号資産を通じてデジタル決済をするためのオプションは、市場にあふれている。

どのネットワークでも、どれほど信頼するかを決断する際には、使用状況と関連する指標を理解することが大切だ。ブロックチェーンの透明性のおかげで、そのような洞察を得ることは、インターネットさえあれば簡単だ。

現状を表すデータから得られる主要な教訓は、暗号資産決済がメインストリームになるにはまだまだ先は長い、ということのようだ。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:A Brief Overview of Crypto Payments in 5 Charts