キャッシュは終わった。デジタル通貨、万歳!【世界経済フォーラム】

ダボスで開催された世界経済フォーラム(WEF)では、ある問題についてほぼ合意した。そう「キャッシュは終わった」。

移行は避けられない

「物質的なお金は終わった」とインド・パンジャブ州の経済顧問、B.S.コーリ(B.S. Kohli)氏は述べた。ヨルダンのムサンナ・ガライバ(Mothanna Gharaibeh)デジタル経済・起業大臣も同じ意見だった。

2020年からヨルダンでは税金から病院での支払いまで、政府のサービスに対する支払いをキャッシュで行うことはできないとガライバ大臣は述べた。銀行送金やモバイルウォレットなどの電子決済システムを使わなければならない。

「移行は困難なものになるだろう」と同国の貧しく、銀行口座を持たない層に言及して大臣は述べた。

「しかし、難民は国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のIDカードを使ってモバイルウォレットを取得できる。(中略)我々は(紙幣の)印刷をやめ、その代わりにモバイルアカウントや銀行口座に移行していくだけ」

ダボスに集まった多くのドル支配懐疑派とは異なり、ガライバ大臣はヨルダンの通貨ディナールを米ドルに連動させたことは小国ヨルダンでは数十年もうまく機能してきたと語った。大臣はお金を再発明する必要があるとは考えておらず、匿名性を取り除くだけで良いと考えている。

「脱税をなくす必要があるから」と大臣は語った。

ユヴァル・ノア・ハラリ教授の意見

ビットコインコミュニティーで熱狂的な人気を持つ『サピエンス全史』(原題:Sapiens)の著者で、イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ(Yuval Noah Harari)氏はビットコインに対して懐疑的と述べた。

「お金はより信頼性を求める方向に向かっている。ビットコインは不信に基づいている。ビットコインは根本的にはゴールドへの回帰」とハラリ氏は語った。

一方、ハラリ氏は金融におけるプライバシーの完全な排除は「きわめて早く」起こる可能性があると予測した。そして同氏はそれを「危険な」見通しと述べた。

WEFでどのエコノミスト、銀行家、政治家に金融におけるプライバシーについて質問しても、彼らはほとんど一蹴しただろう。衝撃的なほど少ない例外を除いて、ほとんどが金融データの収集と受動的な監視の増加は社会にとってメリットがあると述べただろう(さらに問えば、暗号化とデータへのアクセス規制の重要性を強調したかもしれない)。

レグテック(金融規制技術)の専門家で、投資銀行家からコンプライアンス・スタートアップのスエード・ラボ(Suade Labs)のCEOへと転身したダイアナ・パレデス(Diana Paredes)氏は、同社の公共および民間部門の顧客の間に広がっている心理は「キャッシュは終わった」だと述べた。しかし、消費者の利益を守ることは政治家の仕事と同氏は付け加えた。

「我々がなすべきことは、(電子決済をめぐる)プライバシーを規制すること。私は自分のデータを所有したい。私のデータは私に帰属すべき。銀行ではない」

ダボスにおけるビットコイン

だがビットコイン支持者が恐れることはない。ダボスのエリート全員がe-法定通貨の権威主義を推進しているわけではない。ビットコインが繁栄を続ける未来を見ているリーダーもいる。

「監視されている限り、ビットコインは素晴らしいアイデア」とインド・パンジャブ州の経済顧問、コーリ氏は述べ、ビットコインフレンドリーなスイスの銀行がすでに実施しているコンプライアンス標準を賞賛した。

フランスのブリュノ・ル・メール経済財務大臣は、ビットコインフレンドリーな政治家の1人。

ル・メール大臣は、仮想通貨カストディ・スタートアップのレジャー(Ledger)や、ビットコイン開発スタートアップのACINQのような組織が税金の支払いとコンプライアンス標準を守り続ける限り、仮想通貨はフランスの未来において果たすべき役割があると述べた。

「デジタル企業が主権国家のように独自デジタル通貨を発行することは望んでいない」とル・メール大臣は述べ、フェイスブック(Facebook)のリブラ(Libra)をさりげなく批判した。

「しかし、我々は(ビットコインは)国際決済のコストや遅延を減らすことができると考えている。(中略)我々はフィンテックを強く信じている」

同様に、ドバイ未来財団(Dubai Future Foundation)のマリアム・アル・ムハイリ(Mariam Al Muhairi)氏は、同氏のチームは2020年、デジタル資産の利用を望む企業の支援方法を検討していくと述べた。

「この分野の規制をサポートするため。(仮想通貨を)保有し、利用している組織もある」とムハイリ氏は述べ、チームはまだ調査段階にあることを強調した。

スエード・ラボのCEOのパレデス氏は、ビットコインのユーザビリティを守る最善の方法は具体的なユースケースについて規制当局を教育することと付け加えた。そうすれば、価値あるプロジェクトを損なうことなく、規制当局は法律やコンプライアンス標準を作ることができる。

サイファーパンク(暗号技術を使って社会や政治を変革しようとする人々)と銀行の間の見解の相違は、専門家が詳細を詰めるほど、より一層小さくなる。

テック大手への課税について議論するル・メール経済財務大臣ら
写真:Leigh Cuen for CoinDesk

銀行家との共通点

WEFに参加した仮想通貨関係者のほとんどは、銀行家と同じくらい中央銀行デジタル通貨(CBDC)に熱心だった。

例えば、以前は個人向け製品「ビットペサ(Bitpesa)」で知られていたアザ・フィナンシャル(Aza Financial)のCEO、エリザベス・ロッシエロ(Elizabeth Rossiello)氏は、中国人民銀行がCBDCを発行することについて「本当にエキサイトしている」と語った。ロッシエロ氏はこれをビットコインが同社の月間取引高の7%を占めるという事実を補完する新たな顧客接点になると捉えている。

メイカーダオ財団のCEO、ルネ・クリステンセン(Rune Christensen)氏も同じ意見だった。

「一般的に経済のデジタル化というトレンドにとって非常に良いことだと考えている。ブロックチェーンのさらなる普及に向けたステップに過ぎない」

同氏が取り組んでいるステーブルコイン、ダイ(DAI)はいつの日か、世界のCBDCの流動性のバックボーンとなる可能性があると同氏はCoinDeskに語った。

プライバシーを守る唯一の方法

一方、クラウドフレア(Cloudflare)のCTO、ジョン・グラハム-カミング(John Graham-Cumming)氏は、インターネットインフラ企業である同社は、銀行や公共部門における似たような組織をサポートしていても、一般的に対検閲性を推進するために積極的なアプローチを取ると述べた。

「弊社のネットワークで何が起きているかは我々には関係ない。それを把握することが我々の仕事とは思っていない。そんなことをしたらある意味不気味」とグラハム-カミング氏は述べ、同社はイーサリアムとIFPS(InterPlanetary File System)の双方へのゲートウェイを運用していると付け加えた。

グラハム-カミング氏の観点では、ビットコインは素晴らしい実験。なぜなら政治的、技術的な課題にも関わらず実際に機能し、機能し続けているから。それでも同社はイーサリアムにより重点を置いている。

「スマートコントラクトはプログラミング言語。我々は誰かがイーサリアムで何か面白いものを開発すると考えており、そうした人たちが我々のサービスを便利と感じてくれることを願っている」と同氏は述べた。

「人々が金融取引のために新しい組織を使い始めた時、そうした組織がセキュリティについてどう考えているかを確認する必要がある。(中略)我々は皆、何かに依存している」

デジタルキャッシュの世界でプライバシーを守る唯一の方法は、優れた規制政策と、エコシステムのアーキテクチャ全体でセキュリティを推進する標準的な「ベストプラクティス」の組み合わせにあるとグラハム-カミング氏は述べた。

「Web3の考え方は、レジリエントであるべきということ」と同氏は締めくくった。

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:COMPLIANCE NOW: RegTech expert Diana Paredes speaks at the 2020 Annual Meeting of the World Economic Forum. (Photo by Leigh Cuen for CoinDesk)
原文:Notes From the WEF: Cash Is Dead, Long Live Digital Cash
協力:Zack Seward