中国、ブロックチェーンに投資する数多くの戦略的理由とは?

バーン・ホバート(Byrne Hobart)氏は投資家、コンサルタント、ライターとしてニューヨークで活動している。同氏のニュースレター「The Diff」は金融とテクノロジーの転換点を扱っている。

中央集権的な国、非中央集権的な技術

中国の習近平国家主席は2019年10月、中国はブロックチェーンを利用する「機会をつかむ」べきと述べた。仮想通貨支持者にとって、この発言はエキサイティング──そして、混乱を招くものだった。

なぜ中央集権化が進んだ国家が、本質的に非中央集権的な技術を使いたがるのだろうか? なぜ通貨を厳しく管理する国家が、新しく、実績のない通貨システムを試したがるのだろうか?

逆説的だがその答えは、習国家主席はエンジニアのように考えていないということだ(習国家主席は清華大学で化学エンジニアリングの学士を取得しているが)。

習国家主席はまったくもって異なる考え方をしている。つまり、ブロックチェーンコンサルタントとICO(新規コイン公開)詐欺師の中間のような考え方だ。

ブロックチェーン技術のインパクト

多くの技術的な概念と同様に、ブロックチェーンはそのトレードオフが成立する、一定の領域において有用だ。

すなわち、低スループットという欠点はあるが、信頼できる第三者が不要なシステムが必要なら、ブロックチェーンは素晴らしい。だが(金融サービスの大半の消費者のように)信頼できる第三者の存在に異存はなく、(既存の決済プラットフォームのように)多数の取引を同時に扱う必要があるなら、ブロックチェーンはそれほど素晴らしいものではない。

しかしブロックチェーンは同時に社会的技術でもある──本来なら退屈な問題をエキサイティングなものにする方法だ。

ブロックチェーンが伝統的な銀行にもたらした最大のインパクトは、決済のようなバックオフィス機能は最先端かつ投資価値があると銀行を短期的で説得したこと。

バックオフィス機能は最初に自動化されたため、通常は今は引退したか亡くなった人々によって設計された、かなり時代遅れの技術で運用されている(だから、まだプログラム言語COBOLを使っている人は、あちらこちらで人気になっている)。

大きな2つの理由

中国共産党の高官は、ブロックチェーンは人気の技術であることを知っており、彼らはおそらく、その利用範囲は今のところ限定的なものであることを知っている。しかし彼らは、過剰な期待を別のゴールに向けることができる。

国家のリーダーが国家のバックオフィスITシステムを少し最適化する方法に真に興奮することは普通ではない。しかし、習国家主席がブロックチェーンの利用に関心を持つ理由は2つある。

楽観的には、ブロックチェーンベースの権利システムは中国の貸付における大きな問題を解決できる可能性がある。

すなわち、今は借り手にとっては、同じ担保を再利用することは比較的容易。担保は査定が難しく(査定できるなら、解決できるだろう)、借り手が債務不履行に陥り、複数の貸し手が同じ担保を確保しようとするまで表面化しない。

悲観的には、新しいデジタル通貨は中国がドルの覇権から逃れるために有利なスタートを切らせてくれる。中国経済を一帯一路構想の投資の受け手およびロシアとより密接に結び付ける。

ドル覇権からの離脱

最も興味深く、重要なブロックチェーンの利用方法を提示しているのは後者のシナリオだ。今、国際貿易はドルに支配されている──ヨーロッパ内での貿易はユーロで行われ、日本は決済を円で行う。しかし、ユーロ圏に属していない国家間の貿易のほとんどは依然としてドルで決済される。

このことはアメリカに強力な外交政策ツールを与える。つまり、アメリカは政策目標を達成するために、個人や企業に対して制裁を利用する。ほとんどすべての国際的金融機関はドルを使う必要があるため、彼らはすべて制裁に従う。

これは、アメリカの規制当局がアメリカ企業の違反に対して制裁を行うことに限った話ではない。アメリカの制裁に違反したとして、取引がフランスでは合法にもかかわらず、アメリカはフランスの銀行を追及したこともある。台湾を国家として扱ったアメリカ企業を罰する中国の習慣にどこか似ている。

中国の場合、中国は国内でのビジネスに干渉することができる。アメリカの制裁の場合、アメリカは一方的に主要な国際的金融機関の機能を損なわせることができる。多くの金融機関はドルでビジネスを行い、より重要なことに、ドル建ての債務を抱えているからだ。

仮に中国が政策として、中国経済の脱ドル化を図っていると発表すれば、パニックを引き起こすだろう。ドルから離脱することは、非常にコストがかかり不便。だがもし、これを緊急に行いたいなら、彼らは危機のリスクを取るよりも、ドルベースのシステムに留まる方が恐ろしいとパニックを起こしていることを示している。

だがもし、中国は素晴らしい新技術、最新の分散型システムを検討しているなら、それはまったくパニックのようには聞こえない。開放性と進歩のように聞こえる。中国は貿易相手に対する管理を強めるのではなく、国民の金融取引に対する統制を緩めているように聞こえる。

習国家主席の本当の答え

もちろん、中国のデジタル通貨がどのようなものになるかはわからない。どれくらいの匿名性が実現されるのかはわからない。しかし、わかっていることもある。

つまり、ビットコインのような匿名の通貨システムは、人々が法定通貨と交換した時に匿名性を失う。FRB(連邦準備理事会)が仮想通貨でマネーロンダリングを行う人物を1人捕まえたなら、その人物の顧客を全員捕まえることができる。

中国共産党は中国の仮想通貨ユーザーの身元を特定できる最高のポジションにある唯一の組織。すでにオンラインでのすべての行動を徹底的に追跡し、スマートフォンでの顔認証を義務づけている。

ブロックチェーンに関わった人なら誰でも、過剰な熱狂に対する一定の懐疑心とそれを嗅ぎ分ける嗅覚を備えている。誰かが「ブロックチェーン」と言った時には、最初の質問は「本当は何が望み?」であるべきだ。

習国家主席の場合、その答えは平均的なものよりも興味深い。しかし中国でのプライバシーや世界での政治的な安定性について懸念しているなら、その回答はかなり気掛かりなものにもなる。

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Shutterstock
原文:China Has Many Strategic Reasons to Invest in Blockchain