パブリックイーサリウムの新しい利用法──MS、EY、コンセンシスが大企業に提案

大企業がパブリックチェーンを活用する時が来た──大規模な金融取引を行う場所としてではない。基幹ツールとして活用する。

基幹業務に使用

これがエンタープライズブロックチェーン分野の大手3社、アーンスト・アンド・ヤング(EY)、コンセンシス(ConsenSys)、マイクロソフト(Microsoft)の見解だ。彼らは基幹業務向けにパブリックイーサリウムのメインネットを企業の社内システムに接続して使用する新たな方法を考案した。

3社はそれをベースライン・プロトコル(Baseline Protocol)と呼んでいる。

イーサリウムを信頼できる情報リポジトリではなく、一種のメッセージ指向のミドルウェアとして用いる斬新なアプローチだ。退屈とさえ考える人もいるだろうとコンセンシスのWeb3Studioを率いるジョン・ウォルパート(John Wopert)氏は述べた。

「考え方を記録システムからミドルウェアに変えるということ。ブロックチェーンのかなり退屈な使い方だ。少し退屈でもいいと考えている」

わかりやすく言えば、イーサリアムを分散システムとインターフェースをつなぐメッセージングインフラの一種、つまり旧式のメッセージ・バス(メッセージ経路)のようなものと考えているとウォルパート氏は述べた。

イーサリアムは、いわばメッセージ・バスのきわめて発展したバージョンとなる。ウォルパート氏は「マジック・バス」と好んで呼んでいる。

このコンセプトでは、重要なデータはすべて自社のファイアウォール内に残っているため、大企業のチーフ・セキュリティ・オフィサーにとって魅力的なはずと同氏は付け加えた。また大規模ERP(統合基幹業務システム)とCRM(顧客関係管理)システムの統合には今、数億ドルが費やされている。

3社は一般的なツール一式を構築するのではなく、発注書などの比較・確認といった調達分野での特定のユースケースを選択した。これらの記録と付随するビジネスロジックの一部はトークン化される。

ベースライン・プロトコルのコードは3月後半にリリースされ、技術運営委員会も結成される。委員会にはEY、マイクロソフト、コンセンシス、スプランク(Splunk)、メーカーダオ(MakerDAO)、デューク大学、チェーンリンク(Chainlink)、ユニブライト(Unibright)、Envision Blockchain、Neocova、Core Convergence、Provide、W3BCloudなどが参加する。

「我々はメインネットをリファレンスの共通フレームとして使うことができる」とウォルパート氏は語った。

「私の発注書は、あなたが保有する発注書の記録と同じであることを証明する。レコードを変換するために採用し、新しいレコードを作るために使用するビジネスルールは、我々双方によって同じ方法で実行される」

しかし、こうしたトークンとパブリックブロックチェーンの話題は企業を神経質にしがちだ。変更できない記録の共有システムを作り、コストのかかる照合作業を排除することは通常、プライベートブロックチェーンに最適の領域だった。

EYのブロックチェーン責任者、ポール・ブロディ(Paul Brody)氏はプライベートブロックチェーンには根本的な欠点があると考えている。

「我々は以前からプライベートブロックチェーンはあまりうまくスケールしないと考えてきた。なぜなら企業にとって、他社のプライベートネットワークへの参加を考えることは難しい。実際、それが最大の問題であることを示す証拠は数多くある」

ゼロ知識証明で可能に

ここで誰もが認識しているが話題にしていない最大の問題はプライバシーだ。すなわち、ブロックチェーンはデータをさらけ出す。

しかしウォルパート氏が指摘したように、この問題はパブリックチェーン、プライベートチェーンの双方に共通だ。

「ブロックチェーンはITにおけるデジタルヌーディストの共同体の集まり、そしてプライベートブロックチェーンはプライベートビーチのヌーディストの1つの共同体にすぎない」

ベースライン・システムのトークン化部分はゼロ知識証明(ZKP)を使って行われる。いかなる属性を共有する必要なく、秘密に関与していることを数学的に証明する方法だ。

ブロディ氏はゼロ知識証明で大きな進展があったと説明し、EYのナイトフォール(Nightfall)プロジェクトと、ロンドンのテック系スタートアップ、Aztecがコンセンシスで行った活動に言及した。

ベースラインは、オフチェーンで保管されたトークンに関連したキーメタデータで保護された匿名化コントラクトを利用して、ゼロ知識証明に基づいてトークンを管理する。

しかしブロックチェーンとゼロ知識証明はうまくスケールしない。ゼロ知識証明 は多くの計算を必要とし、パブリックイーサリアムで実行する際には手数料を考慮しなければならない。

EYはゼロ知識証明をうまくスケールさせ、イーサリウムなどのブロックチェーンでのランニングコストを削減するために、ゼロ知識証明をまとめて処理する方法を探っている。

「ブロックチェーンのスケーラビリティのまわりには多くのFUD(恐怖、不安、疑念)がある。真実は、仮にトランザクションが完了するまでに4分待たなければならないとしても、ほとんどの企業は気づきさえしない」

翻訳:下和田 里咲
編集:増田隆幸
写真:Shutterstock
原文:Microsoft, EY and ConsenSys Tout New Way for Big Biz to Use Public Ethereum