イーサリアムには競争が必要だ【オピニオン】

ミーティングの場で私が指摘している通り、ブロックチェーンは製品やサービスに対して、トークン化やスマートコントラクトなどの極めて優れた新しいアプローチを生み出したが、それらはすべて中央集権化システムでも再現できるものだ。

ブロックチェーンの肝心で欠かすことのできない価値提案は、真の分散化にある。それ以外のものはすべてオプションに過ぎない。

エンタープライズユーザーにとってこの価値提案は、中央集権型市場運営者の権力、そして彼らが通常たどる、便利な有用性のあるものから、搾取的な独占者への変貌に対する、根拠の確かな懸念と関係がある。

だからこそプライベートブロックチェーンは、バカげたアイディアであり続けているのだ。分散型のフリをしても、システム運営者が将来的に搾取的な独占者になる可能性のある存在に過ぎないという事実は変わらない。

ライドシェアリングから消費財まで、ここ10年間のデジタルエコノミーのストーリーは、ほとんど不動のデジタル独占企業たちの台頭についてのものであった。独占に至る過程で、それら企業の一部は、自社ネットワーク上で実施される取引から受け取るシェアを増やしてきた可能性もある。

これは一般的に、マーケットプレースの価値提案が「より良いシステム」から「ただ単により大きいシステム」へ、そして最終的に「顧客やサプライヤーに届くのに効率的な規模を持った唯一のシステム」へとシフトしていくに従って起こることだ。

規制による独占防止

ウェブ2の世界も歴史的にはまだ新しいものだが、これは新しい問題ではなく、過去に解決されたこともある。ただし解決策は分散化ではなく、規制によってだ。

1895年、アメリカには電話事業者が推計6000社存在していた。各社が独自の料金を設定することができ、相互接続のためには互いに合意が必要であった。現代のデジタル独占企業同様、大企業はさらに大きくなっていった。

最終的には、1885年にアレクサンダー・グラハム・ベルとその義理の父が創設した会社を引き継ぐことになったAT&Tが、唯一の支配的企業として残った。

AT&Tを規制し、小規模で競争力を持った電気通信企業にとって公平な条件を整えるために、1934年の通信法では、電話サービスは公共サービスであり、この事業に参加する企業はコモンキャリア(電気通信事業者)であると定められた。

コモンキャリアと認定されることは、その企業が相互接続を含め、製品やサービスを国民に公平な条件で提供しなければならないことを意味していた。つまり、最大規模のネットワークを持ったコモンキャリアは、より小規模な競合を締め出したり、あるネットワークから別のものへと電話を接続する場合に、法外な手数料を課すことはできなかったのだ。

強制力を持つ相互接続のルールや手数料を伴うこのようなルールが、プライベートブロックチェーンに適用された場合を想像してみよう。そうなると、プライベートブロックチェーンのユーザーは、他のどんなユーザーやプライベートブロックチェーンとも相互接続し、やり取りができるのである。

チェーンの大きさに関わらず、最大規模の企業はただ大きいという理由で、マーケットシェアを増やすことはできない。より優れている必要があるのだ。それはつまり、より高速、より安全、あるいはより信頼できる、ということを意味するのかもしれない。

このようなアプローチには大きな魅力がいくつかある。最も重要なのは、多くの点で、はるかに競争的でダイナミックなマーケットプレースを生み出せる、ということ。中央集権型のプライベートブロックチェーン事業者は、ベストになろうとしてお互いに競い合うだろう。

デメリットは、競争の質が限られることだ。トークンやスマートコントラクトがプライベートチェーン間で相互接続されるには、根本的に同じか、ほとんどの目的において区別できないくらいに似ている必要がある。

ISP(インターネットサービスプロバイダー)の競争が主に、スピードと価格に関するものだけになってしまったのと同じように、コモンキャリア的な競争の質は、極めて限られたものになる傾向がある。

ベルシステムは1984年、規制を受けた一連の地域事業者へと分割され、それらは長距離電話事業者とは分けられていた。利用者は市内通話向けに月額料金を支払い、長距離電話は1分ごとに課金されていた。

消費者や事業者は、好きな長距離通信事業者を選ぶことができ、長距離通信事業者はすべて、コモンキャリアルールのおかげで、市内通話ネットワークに平等にアクセスすることができた。

その結果、10年間で長距離電話のコストを40%も下げることになる競争による変容が起こった。最終的に、ネットワーク接続や演算のコストが激減したことで、電話料金はほぼゼロとなり、現在もそのままとなっている。

競争がもたらすもの

これらのことはなぜ重要なのか?なぜなら、温かみがあってフレンドリーで、コミュニティ中心のイーサリアムは、グローバルなデジタルコマース独占者になるところからそれほどかけ離れていないかもしれないからだ。

イーサリアムはすでに、他のどのブロックチェーンエコシステムよりもはるかに価値があり、最も多くの開発者およびユーザーを抱えている。これによって、どんなに良いプロジェクトであっても、競合が台頭することがますます困難になっている。イーサリアムネットワークの力は、時とともに大きくなっていくばかりだろう。

イーサリアムが搾取的な独占者となって、手数料を吊り上げ、ユーザーからお金を搾り取る可能性は低い。イーサリアム財団が、ニューヨークシティに巨大な本拠地を構えるとも思えない。

しかし、どれほど意図が素晴らしいものでも、どれほどガバナンスが民主的でも、競争の欠如が文化と行動を形作る可能性はあるのだ。現状に満足してしまうことが、ゆくゆくはイノベーションのペースにもダメージを与える可能性がある。

競合に追い上げられることは、非営利のものも含め、あらゆる組織にとって良いことだ。コモンキャリア規制は、プライベートブロックチェーンの世界を取るに足らないものから、競争力のあるものへと一晩で変容させるかもしれない。

イーサリアムはすでに優れているが、真剣な競争が一段と優れたものとし、その向上を助け続けるだろう。

ポール・ブローディ(Paul Brody)氏:EY(アーンスト・アンド・ヤング)のグローバル・ブロックチェーン・リーダー。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Ethereum Needs Competition