【アフター・コロナ】金融業界はどう変わるのか、どう変わるべきか──元ファンドマネジャー・大島和隆

元祖カリスマファンドマネジャーとして知られ、楽天投信投資顧問代表取締役社長、バークレイズ・ウェルス ISSヘッドなどを経て独立した大島和隆氏。現在は、主宰している情報提供サイト「ファンドガレージ」で、市場の分析や注目のビジネス・トレンドなどを発表しており、足元のコロナ相場についても積極的に考察を披露している。ファンドマネジャーとして、金融機関のトップ、会社経営者として、運用から販売まで、機関投資家のみならず、個人投資家とも向き合ってきた大島氏が考える、これからの金融業界のあり方とは。

プロフィール
1961年生まれ。85年太陽神戸銀行(現・三井住友銀行)入行、三井住友アセットマネジメントでさくら日本株オープン(三井住友・日本株オープン)などの運用を担当、ファンドオブザイヤー獲得。楽天証券経済研究所チーフストラテジスト、楽天投信投資顧問社長兼チーフ・インベストメント・オフィサー、バークレイズ・ウェルス ISS(インベストメント・ソリューション・スペシャリスト)ヘッドなどを歴任。現在は独立し、経験を伝えるための情報提供サイト「ファンドガレージ」主宰。著書に『97%の投資信託がダメなこれだけの理由』(ビジネス社)などがある。

2月中旬までは好調だった株式市場が一変、恐怖指数はリーマン時以上に

2月中旬までは新型コロナウイルスの話などまったく眼中にないかのように値を飛ばしてきた株式市場であったが、感染拡大が欧米にまで及ぶと状況は一変した。

最初は欧州が災禍に見舞われた。取り分けイタリアでの感染拡大が目を見張るものがあった。だが、株式市場が震撼としたのは、それが米国に上陸してからだ。

嫌な予感がしたのは、米国サンフランシスコ沖に停泊したクルーズ船に関する一報を聞いた頃だった。感染した乗客がそれと知らずにサンフランシスコ・ベイ・エリアに散らばってしまったというのである。

それから数日後、多くのシリコンバレーの企業がリモートワークを推奨し始めたことが聞こえてきた。その頃には株価の下げは加速。その勢いがニューヨークに飛び火するのに時間はかからなかった。ニューヨーク証券取引所のフロアからは、ついには人の姿が消えた。悪い話は重なるもので、OPECと非OPECの間で減産合意ができず、原油価格が20ドル台まで暴落したことも悪材料を加速させた。

こんな話の中で株価が持ち堪えられるわけがない。VIX指数(恐怖指数)は一時リーマン・ショックの時以上の水準にまで跳ね上がり、株価は奈落の底に落ちるかと思われた。事実、日経平均株価は3月19日に安値1万6,358.19円にまで沈み、NYダウも3月23日の取引時間中に1万8,200ドル台まで墜落した。

その後はボラティリティが極めて高い状態が続きながらも、世界中の政策当局や中央銀行が矢継ぎ早に繰り出す経済対策などを受けて、緩やかながら戻り歩調に入ったかにも見える。

金融業界・金融機関・金融パーソンに求められる姿とは

online meeting, business person
GaudiLab / Shutterstock.com

この未曾有の状況の中で、働き方を含むライフスタイルは大きく変わりつつある。もとより働き方改革は国の旗振りで進められていたが、新型コロナウイルスの感染拡大を抑止するため、ITなど一部の業界で浸透していたテレワーク、リモートワークが一気に広がっている。この動きは、なかなかテレワークが進まなかった金融業界・金融機関でも同様だ。

たとえば証券会社などでは外務員に外訪を禁じたり、隔日出勤などの措置をとったりしているところもある。アポイントを取ろうにも、お客様から「この時期はちょっと……」と面談を断わられる場合も多いようだ。だがこんな時だからこそ、不安を抱えたお客様に寄り添うのがあるべき姿だろう。今なら多くのSNSでビデオ通話できる。コンプライアンスも重要だが、顔を見ながら会話をする方法に、もっと弾力的でも良いと思う。

こうした変化は、相手が機関投資家なら問題はない。従来からやり取りは電話だけで行われるのが基本であり、対面する必要があまりない。

しかし個人投資家は違う。販売する側にしても、大切な資金を投じてもらう以上、しっかりと理解してもらいたいところ。リテールでは、どこまでいっても対面でお客様の理解度を確認しながらの説明が求められるのだ。

今の情勢で考えられる方法としては、十分な感染予防をしたうえで直接訪問し、ごくごくわずかな時間で面会するか、ウェブ電話などでしっかりと説明をするという方法だろう。どうしてもお客様のお顔を拝見しながら、その表情から理解度を読み取る必要がある。

ここで問われるのは、説明する側の営業担当者の理解度だ。特に、銀行における金融商品の窓販が始まって以降、売り手自身が販売している金融商品のことを知らないという指摘をされることがある。だが、銀行の窓口担当者に限らず、果たして金融商品を販売している営業担当者のすべてが、商品のことをしっかり理解して販売しているのかというと疑問だ。

販売する側も人気のレバレッジ投信のリスクを理解しているのか?

たとえば最近、投資信託業界では「レバレッジ投信」が人気だという。これは指数の動きの数倍の動きをするよう計算された商品だ。今のように相場が激しく上下する中では、こうした商品が魅力的に見えるのもうなずける。

しかしこの手の商品のリスクは相当高い。単に値動きが荒くなることだけではない。実は筆者も楽天投信投資顧問の社長時代、3倍のレバレッジ・ファンド(いわゆるブルベア・タイプ)を設計開発したことがある。これは日経平均が上昇すると思えばブル型を、下落すると思えばベア型を投資家が選ぶペア商品だった。この場合、投資家自身が相場を読んで、指数の3倍のリスクを取ってもらうことになる。

この商品の目論見書には、図解と共に投資家に絶対に理解してもらいたい中医学が目論見書に書かれている。単純な算数で説明できる話なのだが、レバレッジが掛かっていると、ただ上下を繰り返すだけで元本が目減りしていく計算になるため、長期投資には不向きだということだ。

こうした注意書きを正しく理解して投資家に買わせている営業担当者がどれだけいるのだろうか?言葉で説明するだけは非常に分りづらいものもある。そしてそもそも販売する側の営業担当者が理解しているか怪しい。

売る側の理解が十分でないのに、買う側がしっかり理解できるはずがない。さらにコロナウイルスの感染拡大措置のため、面会できても時間はわずかしかないだろうし、ウェブ電話はどこまでいっても直接の対面ほど情報が伝わらない。そうした中で、決してリテラシーの高くない投資家に、特にデリバティブなどを使ってレバレッジを掛けたような商品を理解してもらうための説明ができるかというと、まず無理だろう。

コロナウイルスを言い訳にせず、本当の意味で顧客のために

ここであらためて考えるべきなのは、金融庁がかねてより金融機関に求めてきた“フィデューシャリー・デューティー”だ。これは直訳すると「受託者が委託者および受益者に果たすべき義務」のこと。Fiduciary(受託者)とduty(責任)を組み合せた言葉で、主に金融業界で使われる概念だ。受託者責任などと略され、顧客本位の業務運営をすべき根拠とされる。

顧客本位の業務運営をするための原則が7つあるとされ、「顧客の最善の利益の追求」「利益相反の適切な管理」「手数料等の明確化」とともに「重要な情報の分かりやすい提供」「顧客にふさわしいサービスの提供」も含まれている。

営業・販売の仕方が変わりつつあるが、働き方改革の影響であったとしても、コロナウイルス拡大の影響であったとしても、金融機関に求められること、営業担当者に求められる姿は変わらないはずだ。これまでどおり、いやこれまで以上に、本当の意味での“フィデューシャリー・デューティー”を果たすようにしなければ駄目だ。コミュニケーションの方法が対面からウェブや電話、ネットに変わっても、その原則は変わらない。

金融機関には、テレワークや訪問自粛・禁止を言い訳にせず、むしろこれまでなかなか進まなかった効率化を図る機会に、そして顧客本位の業務運営を推進する機会として欲しい。私自身も現在運営しているファンドガレージなどを通じて、ウェビナーなども含めて今後は個人投資家側の投資リテラシーの向上と、それと同時に、普段多忙を極める金融パーソンのために効率的な商品知識の向上のお手伝いをしたいと考えている。

文・プロフィール写真提供:大島和隆
編集:濱田 優
画像:Peshkova, GaudiLab / Shutterstock.com