幻滅期を越えたエンタープライズブロックチェーンが向かう先:イーサリアム、ハイパーレジャー、コルダ

幻滅期を越えたエンタープライズブロックチェーンが向かう先:イーサリアム、ハイパーレジャー、コルダ

「エンタープライズブロックチェーンは、その生き残りをかけた協調と方向転換を強いられる現実に直面している」

これは、米CoinDeskが5月11日~15日に開催したバーチャルカンファレンス「Consensus: Distributed」で、エンタープライズブロックチェーンを議論したセッションにおける支配的な意見だ。

金融から始まり、多くのビジネスプロセスを変革させるこの技術は、2015年頃に過剰なまでの興奮を巻き起こした。

ブロックチェーンは、ガートナーのハイプサイクルで知られる「幻滅期」に入った後、予想通り再調整のフェーズに突入した。そして、この領域は3つのエンタープライズブロックチェーンに絞り込まれていく:R3のコルダ(Corda)、ハイパーレジャー(Hyperldger)、エンタープライズ・イーサリアム。

ブロックチェーンを活用する企業が、縄張り意識のような考えを捨て、他のブロックチェーンを利用する企業と強調する動きが目立つようになった。

ライバルとの連携

ブロックチェーン・クラウドサービスのカレイド(Kaleido)が5月12日に発表した、R3とのパートナーシップ契約はその動きの1つだろう。カレイドを支援するのはイーサリアムに特化したコンセンシス(ConsenSys) で、これまでエンタープライズ・イーサリアムとR3のコルダは、強いライバル関係にあった(同日の報道では、カレイドは4月にコンセンシスから独立したことも明らかになった )。

2019年後半にフィリピンでの業務を終了するなど、コンセンシスが業務を縮小していることは周知の事実だ。フィリピンはカレイドがユニオンバンク(UnionBank)と「i2i」決済・送金プロジェクトを進めていた国だ。

R3にとっては大きなチャンス。今、カレイドからi2iプロジェクトを奪えるポジションにある。

Consensus: Distributedのワークショップでそうした計画の可能性について質問されたR3の共同創業者トッド・マクドナルド(Todd MacDonald)氏は、自らがi2iプロジェクトに好意を持っていることは認めたが、それ以上は明らかにしなかった。

カレイドのスティーブ・カーベニー(Steve Carveny)CEOは、i2iプロジェクトは「問題ない」と述べた。

成功した方向転換

相互運用性は、誰もが望みながらも実現がきわめて難しいコンセプトだ。だが実現へ向けての動きもある。

リナックス・ファウンデーション(Linux Foundation)のブロックチェーンプラットフォーム「ハイパーレジャー(Hyperledger)」は先日、カクタス(Cactus)と呼ばれる「DLT(分散型台帳技術)統合プロトコル」を発表した。

カクタスはハイパーレジャーを、ハイパーレジャー・ベイス(Hyperledger Besu)、ハイパーレジャー・ファブリック(Hyperledger Fabric)、コルダ、クォーラム(Quorum)などの複数のブロックチェーン台帳と接続可能にする技術だ。

ハイパーレジャーのエグゼクティブ・ディレクター、ブライアン・ベーレンドルフ(Brian Behlendorf)氏は、小規模企業は独自台帳を開発するよりも、他のブロックチェーンで運用可能なソフトウエアの開発にシフトした方がよい結果を得られるだろうと述べた。

独創的なブロックチェーン企業であるデジタル・アセット(Digital Asset)に学ぼうと、ベーレンドルフ氏は語った。デジタル・アセットは、複数のシステムでの運用が可能なスマートコントラクト言語「DAML」の開発で、方向転換に成功している。

貿易金融のブロックチェーン

「多くの企業、特に資金があまり潤沢ではない小規模企業はおそらく、デジタル・アセットのような動きに続くことになるだろう」と同氏は語った。

スキューチェーン(Skuchain)も貿易金融ブロックチェーンの初期からのプレイヤーとして、相互運用性を重視するアプローチを取った。

スキューチェーンは、バンカーズ・アソシエーション・フォー・ファイナンス・アンド・トレード(Bankers Association for Finance and Trade:BAFT)と連携し、新しいデジタル標準としてDLPC(Distributed Ledger Payment Commitment)を作成した。DLPCは現在、4月のR3との合意を受けて、R3のコルダで採用されている。

スキューチェーンはConsensus: Distributedのパネルディスカッションに参加し、HSBCと共同で行った約5000万ドル相当の新型コロナウイルス対策のためのPPE(マスクなどの個人用防護具)の取り組みを紹介した。

この取り組みは、スキューチェーンがR3ベースの貿易金融ネットワーク、例えば、複数の銀行によるコンソーシアムであるマルコポーロ(Marco Polo)などとの相互運用が可能になったことを意味するのか?これに対して、スキューチェーンの創業者スリニバサン・スリラム(Srinivasan Sriram)氏は、「まだそこまでは行っていない」と答えている。

マスターカードとリブラ

マスターカードはConsensus: Distributedに参加し、独自のエンタープライズブロックチェーン技術を披露した。同社は2019年10月、自社開発のブロックチェーンと、食品トレーサビリティシステムを手がける企業エンビジブル(Envisible)のホールチェーン(Wholechain)システムとの統合を発表している。

マスターカードは、ハイパーレジャーやエンタープライズ・イーサリアムを利用するのではなく、独自のブロックチェーンソリューションを構築する姿勢を示していた。

また、2019年10月にリブラ協会を脱退したことについて、マスターカード・ラボ(Mastercard Labs)のケン・ムーア(Ken Moore)氏は、リブラが規制上の妥協策を模索するなか、マスターカードはプロジェクトの進展を「注意深く見守っている」と語った。

「我々は、まさに我々のブランドが世界の規制当局からどのように見られているかについて慎重でなければならない」とムーア氏は述べ、リブラに再び参加することは不可能ではないことを示唆した。

セールスフォースの独占

その他、Consensus: Distributedのエンタープライズ関連で注目すべきことは、セールスフォース(Salesforce)と、そのライバルのディフィニティ(Dfinity)が一緒に登場したことだ。

ディフィニティのドミニク・ウィリアムズ(Dominic Williams)CEOは、イーサリアム財団(Etherum Foundation)の「ワールド・コンピューター」という初期の野心を思い出させるような「インターネット・コンピューター」を提唱し、大企業のやり方を打破したいと考えている。

ディフィニティは1月、リンクトイン(LinkedIn)のオープン版にあたるリンクトアップ(LinkedUp)を発表。さらにセールスフォースの完全分散型バージョン「セールス・マシーン(Sales Machine)」の開発にも取り組んでいる。ウィリアムズCEOはセールスフォースを「貪欲な独占企業」と呼んでいる。

これに対し、セールスフォースのブロックチェーン・新興技術責任者アダム・カプラン(Adam Caplan)氏は、同社は15万人の顧客のためのイノベーションというミッションに忠実であり続けると述べた。

コンセンシスのジョン・ウォルパート(John Wolpert)氏とEYのポール・ブローディ(Paul Brody)氏が手がけるベースライン(Baseline)も、巨大企業を揺さぶろうとしている。ベースラインは、パブリック・イーサリアムブロックチェーンを大企業の調達業務に活用する取り組みだ。

ブローディ氏は、エンタープライズブロックチェーンが普及していない理由について、他社が開発したプライベートネットワークに参加したいと考える企業は少ないと指摘した。

ほとんどのエンタープライズブロックチェーンにおいて、平均参加メンバーはわずか1.5社とブローディ氏は言う。このデータはエンタープライズブロックチェーンがきわめて人間的な問題を抱えていることを示している。

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸、佐藤茂
写真:Shutterstock
原文:Staying Alive: Why the World of Enterprise Blockchain Has Turned to Collaborations

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