中国の国家ブロックチェーン構想:ChainlinkとCosmosが参画した理由

中国が進めるブロックチェーンインフラプロジェクト「BSN(Blockchain Service Network)」で、政府は2つの大きな課題を解決するために2社をパートナーに迎え入れている。

その1つはスマートコントラクト(SmartContract)で、チェーンリンク(Chainlink)のオラクルネットワークの基盤を成す企業だ。

オラクル:ブロックチェーンに、ブロックチェーン外の情報(データや出来事)を伝えること。

一方、アイリス・ファウンデーション(Iris Foundation Ltd)は、BSNの相互運用性、すなわち他のシステムとの連携を支援する。Irisはコスモス(Cosmos)と企業を統合する「インターチェーン」サービスを展開している。

「ブロックチェーンのインターネット」の基盤

両社のBSNへの参画は以前から知られているが、BSNは23日、2社の具体的な役割を明らかにした。2社はそれぞれの専門知識を提供し、BSNが描く「ブロックチェーンのインターネット」の基盤となる「サービスハブ」を構築する。

例えば、リアルタイムで物流を追跡するハイパーレジャーベースの分散型アプリケーション(Dapp)が、ハブにデータを送信すれば、ハブではイーサリアムベースの別のDappが情報にアクセスする。現状ではこうしたシステムの大部分は、互いにサイロ化(孤立し、連携できていない状態)している。

「ユーザーは、チェーンリンクを通じて株価や金融取引などの外部データを入手し、Irisnetによるクロスチェーンサービスを利用できるようになる」とBSNプロジェクトのキープレーヤーであるBeijing Red Date Technologyのイファン・ヘ(Yifan He)CEOは述べる。

「BSNとチェーンリンクの連携により、ユーザーは中国銀聯(China Union Pay)の金融取引情報など、多くの中国企業の外部データにアクセスできるようになる。そもそも、このような外部データは入手や分析が困難なものだ」

チェーンのチェーン

国家情報センターや中国移動通信(China Mobile)、中国銀聯、Red Dateが参加するBSNは、世界中のユーザーに、安価で使いやすいサービスを提供できるブロックチェーンインフラを目指している。

「毎月2、3のパブリックチェーンを統合している。コンソーシアム型チェーンはネットワークとの統合に時間がかかるため、ペースは遅くなっている」(ヘCEO)

専門家たちは、BSNが中国および国際的ブロックチェーンとの包括的な相互接続ネットワークになると期待する。また、政府とのコネクションによってチェーン間サービスにおける規模の経済を達成する組織になっていくだろうと注目される。

企業やソフトウエア開発者にとってのBSNのメリットは、統合されたシステムの幅広いメニューの中からコンポーネントを選択することで、ブロックチェーンアプリケーションを安価かつ効率的に構築できることだ。

拭えない懸念

しかし、最新の技術ホワイトペーパーにおいて完全なプライバシーを約束しているにもかかわらず、一部の専門家は、開発者がBSNに参加した場合のデータ保護についての懸念を口にする。

BSNは早ければ9月に、クロスチェーンサービスのデモンストレーションを行う予定だ。また、多くのクロスチェーン技術企業と協力して、インターチェーンサービスハブを拡大する計画で、ポルカドット(Polkadot)の基盤となっているチームを含む3社と提携を進めるための協議を開始した。

「我々は、開発者がハブの中から選択できる、少なくとも4つの異なるインターチェーンサービス技術フレームワークを揃える予定だ。インターチェーンサービスハブは、近い将来の国家ブロックチェーンインフラ開発における3つの重要な要素の1つだ」とヘCEOは言う。他の2つは、エンタープライズ・ブロックチェーンとパブリックブロックチェーンへの対応だ。

BSNは2020年4月、パブリックブロックチェーンのイーサリアムとEOSをBSNに取り入れる計画を発表した。

オラクルが持つ意味

チェーンリンクの特徴はオラクルだ。例えば、オラクルは、アメリカ大統領選挙の結果をスマートコントラクトに伝え、勝利した候補者に賭けたユーザーへの支払いのトリガーとなる。

BSNとの提携について、同社の共同創業者でスマートコントラクトのCEO、セルゲイ・ナザロフ(Sergey Nazarov)氏は、「チェーンリンクは安全なブロックチェーン・ミドルウエアを提供する。Dapp開発者はそれを使えば、外部情報と広く接続したスマートコントラクトを作成できる」と話す。

ナザロフ氏によると、ブロックチェーンはAPI(アプリケーションプログラミングインターフェース)に直接接続できず、外部情報と広く接続したスマートコントラクトによって、オフチェーンデータを使えるようになる。

例えば、貿易取引や金融商品、保険などのスマートコントラクトでは、外部データを取得し、商品やサービスを確実に実行できるようにする必要がある。

チェーンリンクの技術は、BSNのミッションを実現する上で、重要な役割を担うことになるだろうと、ナザロフ氏は言う。

翻訳:新井朝子
編集:増田隆幸、佐藤茂
写真:Oleg Zartdinov/Shutterstock
原文:How Chainlink and Cosmos Fit Into China’s Grand Blockchain Initiative
取材協力:William Foxley