ビットコイン先物取引所・Bakktはなぜ始まらないのか?【独占:米CFTC委員長】

ハイライト

  • 米商品先物取引委員会(CFTC)に申請中のビットコイン先物取引所のBakktについて、当局はいまだに承認の判断をしていない。
  • CFTCのクリストファー・ジャンカルロ(Christopher Giancarlo)委員長は具体案件に対する言及を避けたが、同委員長の暗号資産における規制に関するコメントは、Bakktの申請をめぐる当局の姿勢を読み解くヒントになるだろう。
  • 申請内容に述べられたビットコインの保管方法と、Bakktの親会社が保有するクリアリングハウス(決済の事前準備を行う機関)による取引処理の方法は、承認が棚上げされる理由に関係しているようだ。
  • 同申請は規制の権限・領域において物議を醸しそうだ。また、他のクリアリングハウスからの反対も予想される。

「Bakktはいつになったら承認されるのか?」

ニューヨーク証券取引所の親会社、インターコンチネンタル・エクスチェンジ(Intercontinental Exchange=ICE)は2018年夏、新たに設立した子会社Bakktを通じてビットコイン先物取引プラットフォーム構想を発表。実現すれば、仮想通貨はより多くの一般投資家に受け入れられ、その存在感は増すことになる。しかし、Bakktはそのプラットフォームの開始時期を2度延期。昨年末にはそれを無期限に伸ばした。

Bakktの取引所構想の遅れの直接的な理由は定かではないが、その原因が技術的なものではなく、規制の問題であることは広く知られる。憶測や風説、匿名情報筋による多くの記事がインターネット上にあふれた。

確かなことは、Bakktが始まるにはCFTCの最終承認が必要であるということ。Bakktの最高経営責任者(CEO)であるケリー・ローフラー氏は以前に同社が規制当局と連携して進めていると述べたが、詳細に言及することはなかった。

一方のCFTCは当然、この件に関して沈黙を守り続けており、Bakkt構想は依然としてベールに包まれている。

CoinDeskは、CFTC委員長・クリストファー・ジャンカルロ氏にインタビューを行なった。ジャンカルロ氏は、仮想通貨は社会に悪影響を及ぼすものではないという姿勢を堅持して、同業界の規制づくりに貢献してきた人物である。

ジャンカルロ氏は具体的な申請案件に対する言及を避けながら、新たな暗号資産商品が直面する規制上の課題について語った。

80年続いた古いプロトコル

「クリプト(仮想通貨などの暗号資産)の世界では、全てが特定のプロトコルの下に機能している。法律も言うなればプロトコル。その古いプロトコルの上で色々なことが進められている。我々(CFTC)のケースで言うと、それは80年続いているもの(1936年商品取引所法)で、数千ページにも及ぶ詳細が記されている」とジャンカルロ委員長は語り始めた。

連邦と州の長い歴史的先例が多く残るこの法律は、その起源を1860年代までさかのぼる。そして、デリバティブ(金融派生商品)の規制は連邦と州に分岐したと、同委員長は説明する。

「どう決まってきたかと言うと、連邦政府は取引所とデリバティブ商品、特定の中間業者、クリアリングハウスを監督する。一方、現金を含む金融商品を保管(カストディ)する機関は、州法または国家憲章の下で銀行または信託銀行として規制される」

州当局または米農務省が規制するコモディティ商品の保管業者を含むカストディアンは、原資産を管理し、先物取引の満期時に顧客に引き渡す。

「CFTCが規制するクリアリングハウスでさえも、資金と証券の保有においては州が規制するカストディアンもしくは、米通貨監督庁が規制する銀行を利用する」とジャンカルロ氏。その上で、企業はそのクリアリングハウスの中で資産管理を行う方法を選ぶことになる。

現物決済のビットコイン先物

CFTCが直面する挑戦の一つは、先物取引所による仮想通貨の保管方法をどう評価するかということだと、ジャンカルロ氏は指摘する。先物取引が現物で決済される場合、満期時には実際の商品は買い手に受け渡される。

CMEグループとCBOE(シカゴオプション取引所)が2017年に開始したビットコイン先物は、現金で決済されるというもの。それに対して、Bakktはビットコイン(現物)で決済を行う先物商品を上場しようとしている。

「法規上、我々が新たな現物決済の仮想通貨を規制することは許されている。しかし、顧客資産をクリアリングハウスで管理せず、認められた信託会社または銀行を利用する企業に関しては冷静に考える必要があるだろう」とジャンカルロ氏は言う。

この点においては、Bakktの申請を承認する上で、CFTCが時間をかけて審査を行なっている理由が理解できる。

過去の発表内容を見てみると、Bakktは当初、自前のデジタル保管機関を通じてビットコインの保管を計画した。しかし、ICEは銀行でもなければ、州が認めるカストディアンでもないことから、この計画が認められるには規制に対する例外措置が必要になるだろうと言われていた。そして、4月半ば、Bakktがニューヨーク州から(恐らく信託会社としての)免許を取得する方向で動いていると、ブルームバーグが報じた

課題は他にもありそうだ。

クリアリングハウスの役割

クリアリングハウスという機関は、デリバティブ市場において売り手と買い手の仲介人の役割を果たす。売り手と買い手の両サイドがいかなる取引においても公平であることを保証する。加えて、クリアリングハウスは取引におけるコストとリスクを軽減させる役割を備えていると、ベン・バーナンキ元FRB議長は以前に説明している。

リスクが完全に取り除かれることはない。リスクはクリアリングハウスのメンバー企業らで相互的にするものである。よって、クリアリングハウスが仮にビットコインを保有する場合、そのメンバーたちはビットコイン価格の変動リスクにさらされることになる。

「ビットコイン先物を見てきて考えられる挑戦としては、クリアリングハウスにおける他の資産クラスを扱う参加者が、従来のコモディティ商品先物や金利のリスクを、仮想通貨を保有する者と相互化することを常に望むわけではないということだ」と、ジャンカルロ氏は話す。

CMEとCBOEが2017年にビットコイン先物取引を始めた当初、多くの企業がそれを待ち望んでいたわけではない。クリアリングハウスの一業界団体のフューチャーズ・インダストリー・アソシエーション(Futures Industry Association)は、公開文書の中でCFTCがビットコイン先物取引を承認したことを批判した。同業界団体は、ビットコインの価格変動の大きさを主な懸念材料として挙げた。

Bakktのこれまでの発表内容を読むと、Bakktは、同社親会社の傘下にあるICE Clear USを通じてビットコイン先物(1日限り)の決済・清算を行う計画だ。Bakktがどうビットコインを保管するかにかかわらず、資産はICE Clear USを介して買い手に送られることになる。ICE Clear USのメンバー企業がこれをどう考えているか?

CoinDeskはICE Clear USのメンバーに取材を試みたが、半数以上はそれに応じなかった。また、他の数社はコメントを控えている。

多くのメンバー企業が沈黙を守る中、ICE Clear USのメンバーで、債権・為替・コモディティを扱うウェドブッシュ証券(Wedbush Securities)のエグゼクティブ・バイス・プレジデント、ボブ・フィッツシモンズ氏は、ICEがビットコインを管理することに対する懸念はないと述べた上で、「我々が(Bakktの構想を)理解するに、当社は現金決済のビットコイン、スポット・ビットコイン、スポット・デジタル通貨のいずれの商品を取り扱うものではない」と述べた。

ウェドブッシュ証券の見方は大勢を代表するものではないのかもしれない。同社はすでに仮想通貨領域で活動をしており、2013年にはビットコインに関する調査レポートをまとめている。

現物決済のビットコイン先物商品を考案しているのはBakktに限った話ではない。2014年に設立されたレジャーX(LedgerX)は2017年、ビットコインのデリバティブ商品においてCFTCから承認を受けている。同社は過去2年にわたりスワップとオプションを中心とするデリバティブ商品を提供してきた。レジャーXは現在、現物決済の先物商品を計画している。

翻訳・抜粋:CoinDesk Japan
編集:佐藤茂、浦上早苗
写真:J. Christopher Giancarlo image via Marc Hochstein for CoinDesk
原文:CFTC Chair Giancarlo Hints at What’s Holding Back Bakkt’s Bitcoin Futures