スイス、デジタル証券の拡大で新法施行──シンガポールとの“覇権”争い続く

スイスでは今月、ブロックチェーン上のデジタル証券を従来の証券と同様に取引できる新しい法律が施行された。

スイス議会は、新しい制度を作るのではなく、分散型台帳技術(DLT)の特徴を既存の法的枠組みに当てはめる方針を進めることにした。ブロックチェーン条項により、デジタル証券は新たな資産クラスとして認められ、その法的所有権はブロックチェーンを介して自動的に移転されることになる。

「新たに権利が明確にされたことで、法的な確実性が明確になった。ブロックチェーン上で適切に移転されれば、ウォレットに権利を保管する所有者は、権利の明確な所有者となる」とスイスの法律事務所、Meyerlustenberger Lachenalのアレクサンダー・ボーゲル(Alexander Vogel)氏はコメントした。

法改正により、スイスは暗号資産(仮想通貨)を含むデジタル資産において世界で最も進んだ法域としての地位をさらに高めることになる。唯一匹敵するのは、シンガポールのみと言えるだろう。

とはいえ、すべての制約が排除されたということではない。スイスの規制当局から必要なライセンスを取得するには、相当の時間と労力がかかる。

業界をリードするシグナムとセバ

スイスの2つの暗号資産銀行のシグナム(Sygnum)とセバ(SEBA)は、この機会を捉えてデジタル証券を発行した。

シグナムは2月1日、ファイン・ワイン・キャピタル(Fine Wine Capital)の投資価値の高いプレミアムワインをトークン化したと発表。

ワインをデジタル証券化
出典:Sygnum

一方、セバは、シリーズBの資金調達ラウンドの株式をERC20-トークン(イーサリアム規格に準拠したトークン)で発行している。

デジタル証券の新法施行について、セバのマシュー・アレクサンダー(AMtthew Alexander)氏は、「スイスの戦略は新しいデジタル経済への架け橋を提供し、銀行業務と証券保証における法定通貨を使った従来の方法から移行させることだ」と述べた。

次世代金融におけるアジアのハブ

スイスのすべての証券発行者は、新しい法律のメリットを生かすことができるとアレクサンダー氏は話す。例えば、同国の大手銀UBSは、スイス証券取引所「SIX」で証券を発行している。

今回の法改正は、SIX傘下のデジタル取引所「SDX」がサービスを軌道に乗せ、デジタル証券市場に対応するための起爆剤となるだろう。

「SDXはまだ構築中であり、ローンチまでには時間がかかる。しかし、デジタル証券への全般的な移行の時は訪れる」(セバのアレクサンダー氏)。

一方、シグナムとセバはシンガポールとのパイプを持っており、シンガポールのDBS銀行が既に稼働を開始したデジタル取引所において、取引をスタートさせる方針だ。スイスのSDXは今後、開発を急ピッチに進め、サービスの開始時期を早めていくことが予想される。

弁護士のボーゲル氏は、今回のスイスにおける新法がシンガポールにも魅力的に見えるだろうとコメントした。

|翻訳:山口晶子
|編集:増田隆幸、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Switzerland’s Tokenized Securities Law Ushers In New Chapter for Digital Assets