JPモルガンが再構築する国際送金──ビットコインはどうなる【インタビュー後編】

米JPモルガン・チェースのデジタル通貨「JPMコイン」を軸に、米銀最大手が新設したオニキス(Onyx)は、次世代のグローバル決済プラットフォームの開発を進めている。

オニキスが統括するブロックチェーンプロジェクトの1つであるLiink(リンク)は、各国の銀行がクロスボーダー決済・送金を行うための情報プラットフォーム。デジタル化が急速に進む世界で、Liinkは銀行間送金をどう変えていくのか?

オニキスでグローバル統括を務めるクリスティン・モイ氏と、ナヴィーン・マレーラ氏の二人に話を聞いた。


数日から数分に短縮できる

──Liink(リンク)は銀行間のクロスボーダー決済に関する情報のやりとりをより速く、低コストで実現させるブロックチェーンを基盤としたプラットフォームですね。Liinkはこれから国際送金をどう変えていくのでしょう?

クリスティン・モイ氏(J.P.モルガン オニキス(Onyx) Liinkネットワーク及びブロックチェーン グローバル統括責任者)
Liink グローバル統括責任者兼ブロックチェーン グローバル統括責任者のクリスティン・モイ氏(写真:JPモルガン提供)

クリスティン:Liink(リンク)はクロスボーダー決済に関わる問題解決のための情報のやりとりをするネットワークのことです。私たちが最初にローンチしたアプリケーション「Resolve」は、コンプライアンス照会に関する課題を改善する機能です。

たとえばアメリカと日本の間での取引では、いくつかのコルレス銀行を介したものになります。仮に佐藤さんが決済をしようとすると、間に入っている各コルレス銀行は佐藤さんのスクリーニングをする必要があります。

コルレス銀行とは:送金は、送金人と受取人がそれぞれの取引銀行を介して成り立つが、銀行は通常、SWIFT(国際銀行間通信協会)のプラットフォームを利用して送金情報のやりとりを行っている。送金銀行と受取銀行の間で通貨決済を完了させるには、当該国の銀行を介する必要があるため、コルレス銀行(コルレス=Correspondentの略)がその取引の中継役を務めている。

例えば、東京に居住するA氏がニューヨーク在住のB氏に送金する場合、A氏の取引銀行はコルレス銀行Aに送金依頼をする。依頼を受けたコルレス銀行AはB氏の取引銀行のコルレス銀行Bに送金し、B氏の取引銀行が資金を受領する。

銀行は主要通貨ごとにコルレス先を有している。例えば、米ドルの主なコルレス銀行はJPモルガンやシティバンク。ユーロはドイツ銀行。日本円は三菱UFJ銀行があげられる。

国際送金にはなぜ時間がかかる

(画像:Shutterstock)

クリスティン:銀行は「佐藤さんは制裁リストに載っている人ですか」などと確認する必要があり、本人確認のため追加情報を取得することになります。我々の調査によると、これまでこういった照会を解決するのに、2日、なかには数週間かかることもありました。間に入っている銀行が送金銀行にコンタクトをとったりと、体系だっていない方法で行われていたため、時間がかかっていました。

私たちは決済に関わるすべての銀行をネットワークでつなぐことができる仕組みをつくりました。このネットワークでは参加するすべての銀行に、たとえば「佐藤さんについて情報を持っている人はいないか」と問い合わせることができ、制裁対象者かどうかを確認できます。

結果として2日から2週間かかっていたものが数分でできるようになりました。さらに、こうした電話やメール等を使うよりも安全なチャネルを用いたネットワーク内でのコミュニケーションにより、安全性が保たれるようになりました。

Liinkは現在世界中の400以上の銀行に参加意思の表明をしていただいており、そのうち100行以上が使用を開始しています。

誰もが解決したいと思う課題

クリスティン:誰もが解決したいと思っているのに解決できていない一番の問題は、特に国際送金において、受取人の口座の状況の確認が事前に出来ないことでした。例えば、私がアメリカから日本の佐藤さんにお金を送るとして、口座番号が123だと思っているとします。現状、そのまま送金は実行されてしまいます。しかし、正しい口座番号が124だった場合、どうでしょう。送金は返金され、返金手数料や調査費用などがかかります。さらに正しい口座へ再送金するのにかかる時間やコストがかかります。

コロナ禍で詐欺でお金を盗られるという件数が急激に増えました。佐藤さんへ送金しようとしたところ、「私は佐藤ですが、銀行口座を変えたので、こちらに送金してください」と(佐藤さんになりすました)誰かがメールを送ってきて、その口座に送金したらどうなるでしょう。あなたはお金を失うだけです。

ですから私たちが作り、今もうすでに使用可能になっているのは、銀行や事業会社、テクノロジー企業が、国内外両方の決済において口座情報を事前に送り、確認する機能です。

基本的には「このアカウントはその人のものだと確認できました」と返事が来る仕組みになっています。私が知る限り、現在こうしたシステムは国際送金では存在しません。

ステーブルコインと国際送金

──米ドルや日本円などに連動するステーブルコインは今後、クロスボーダー決済に広く利用されるようになるのでしょうか?また、多くの機関投資家や企業などはこれから、ビットコインや他の暗号資産に資金を投下するようになるとお考えですか?

ナヴィーン・マレーラ氏(J.P.モルガン オニキス(Onyx) Coin Systems グローバル統括責任者)
JPモルガン・Onyxで「Coin Systems」のグローバル統括責任者を務めるナヴィーン・マレーラ氏(写真:JPモルガン提供)

ナヴィーン:ステーブルコインは恐らく一定の実際に使用できるケースがあると思います。特にクロスボーダー取引の領域です。クロスボーダー送金の手数料はかなり高額で、平均して取引額の7%の手数料がかかります。

その理由は、ご存じのようにコルレス銀行に業務が集中してきており、一部の国ではAML(アンチマネーロンダリング)のリスクがあり、金融サービスが提供されていないことです。

ここがステーブルコインが活躍できる場面だと思います。特に、従来の銀行がサービスを提供していない領域においてです。コストが削減できるので効率的です。国境を越えた取引ならばなおさらです。

最近では、金融安定化理事会(FSB)や市場インフラ委員会 (CPMI)などがステーブルコインに関して様々な取り組みをし始めましたし、米国の通貨監督庁(OCC)の公開した書簡も、ステーブルコインに好意的でした。理解が広がっているのではないでしょうか。

様々な実用的なケースが登場することにより、国内の下地が固まりつつあります。しかしながら、一般的にステーブルコインの性質を考えると、実用化できるケースは限られたものになると思います。ゆえに、中銀デジタル通貨や商業デジタル通貨と共存し、エコシステムにつながるのではないでしょうか。

ビットコインが3年間で得たもの

(画像:Shutterstock)

クリスティン:結論としては、確かに多くの組織的な関心があり、規制の観点から多くの建設的な活動が行われてきたということだと思います。

たとえば、米銀行を監督する米通貨監督庁(OCC)が国に認められた銀行は、暗号資産の保管業務ができるという書簡を公開しています。ステーブルコインに対する認知の状況は先ほど話されたとおりです。さらに加えれば、米国の大手暗号資産カストディアンである「Anchorage(アンカレッジ)」は、銀行として認可されています

コロナのこともありましたが、多くのヘッジファンドが投資していることもあり、ビットコインは今追い風に乗っている状態だと思います。インフレヘッジを謳う人々がビットコインを次世代のデジタルゴールドと考えています。

ビットコインは2017年にも現在のような急騰を経験しました、当時の市場を思い出してください。当時は「ビットコインってなに?」という状態で、皆が不意をつかれましたが、今は違います。

私が言えるのは、市場はもっと成熟しているということです。時間をかけて何がリスク要因なのかを理解し、コンプライアンスのためにどのように対処すべきかを理解し、さらにすべての暗号資産会社がクリプト・ウィンター(暗号資産の冬の時代)を通して、インフラを構築し続けてきました。ですから、以前より社会の理解度は深まっているのだと思います。


インタビュー前編:JPモルガンのJPMコイン、世界の決済はこう変わる

|インタビュー・文・編集/佐藤茂