GMOコインが加速する暗号資産事業・拡大戦略【CEOインタビュー】

インターネット事業と金融事業の拡大を進めてきたGMOインターネットグループが、ブロックチェーンと暗号化技術を活用したビジネス領域でも存在感を強めようとしている。

ブロックチェーンは、GMOインターネットグループ創業者の熊谷正寿氏が「人生で2つ目の大きな出会い」と呼んだ技術で、これを基盤とするプロダクトの一つがビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)などの暗号資産(仮想通貨)だ。

GMOコインはGMOフィナンシャルHDの子会社で、暗号資産交換業者として事業を展開している。2021年1~3月期には、約50億円の営業収益を計上し、約31億円の営業利益をあげた。ビットコインの価格高騰を背景に、収益は前年同期比で4倍以上となった。6月からは、お笑い芸人の「スギちゃん」を起用したテレビCMの放映をスタートさせるなどして、事業拡大のペースを加速させている。

一方、マネックスグループ傘下のコインチェック、ビットフライヤー、ビットバンクなどが国内の暗号資産取引サービス業界をけん引するなか、米暗号資産取引サービス大手のコインベース(Coinbase)が日本市場への参入準備を進めるなど、競争はさらに激化している。

GMOコインが仕掛ける戦略とは何か?石村富隆社長に話を聞いた。


GMOコインのアルトコイン戦略

GMOコイン・石村富隆社長

──GMOコインは2021年1~3月期で収益を大幅に拡大させた。効力を発揮した戦略は何だったのか?

石村社長:2017年9月に暗号資産交換業者として、金融庁に登録してから4年目になる。2017年終わりから2018年初めに起きたビットコインの価格高騰の時は、ほとんどの取引がビットコインで、収益の源泉はビットコイン取引だった。

昨年(2020年)末くらいから、ビットコインが全体の収益に占める割合は下がってきている。他のいろいろな銘柄(コイン)、いわゆるアルトコインの取引が増加してきた。リップル(XRP)もその1つだ。

これまで銘柄追加に力を入れてやってきた。日本のマーケットでは扱われる銘柄が少ないと、多くのお客様からの声が聞こえてきている。我々もコツコツと新しいコインを扱う努力をしてきた。

GMOコインは、ビットコイン取引に依存した収益構造からシフトすることができている。これが我々の事業と収益を拡大させた一つの要因だろうと考えている。

GMOのブランドと基盤

──GMOフィナンシャルHDの事業開発部隊の技術と知見は、GMOコインの事業拡大に貢献しているか?

石村社長:GMOコインはGMOフィナンシャルHDの子会社で、株とFX(為替)取引サービスを展開しているのがGMOクリック証券。GMOクリック証券のサービスを開発してきたエンジニアの技術と知見をフルに活かしながら、GMOコインのサービス拡充を進めてきた。

相対取引が基本のFX事業では、GMOクリック証券は多くのユーザーを獲得してきた。暗号資産で言えば、取引所を相手に取引を行う販売所取引にあたる。一方、トレーダー同士が取引を行う取引所取引は、我々にとっては一つのチャレンジだった。後発だが、2018年10月頃から開始した。

取引所取引サービスでは、お客様からの要望を中心に独自にノウハウを蓄積してきた。お客様のニーズに合致するように、サービスのチューンアップを繰り返してきた結果、取引ボリュームが徐々に増えてきている。

石村社長:もちろん、GMOとしてのブランドは、お客様獲得における強みであることは間違いない。GMOのファン層は大きい。まったくバックグラウンドがない中で進めるのは、難しいビジネスだろうと思っている。

安定的な運転資金は不可欠で、暗号資産交換業におけるレギュレーション(規制)は厳しい。GMOインターネットグループならではの事業対応が、GMOコインの背骨の一部であることは間違いない。

GMOコインは2021年7月1日現在、ビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)、リップル(XRP)ポルカドット(DOT)、ライトコイン(LTC)など13種類の暗号資産を取り扱っている。口座数は2021年3月末時点で37.4万口座で、預かり資産残高は1289億円。

手数料戦略は顧客ニーズを反映

──アルトコインの取り扱い拡充のほかに、コア戦略をあげるとしたら?

石村社長:できるだけ他社よりも手数料の部分で競争力を強めていく努力を進めてきた。我々のサービスは送金や出金の手数料が無料になっている。この点を評価して、GMOコインを利用するユーザーの方もいると思う。

我々が扱っているプロダクトの数も少ないので、他の取引所を併用するユーザーも多くいるだろう。取引所間の価格差を利用したアービトラージ取引(裁定取引)を行うお客様もある程度の数、存在しているだろうと考えている。

例えば、我々の所で買って、他の取引所で売るトレーダーもいる。従って、ある程度、資金移動がスムーズにできる方が、お客様にとっての利便性は高いだろう。そこで、送金・出金手数料ゼロがお客様のニーズをカバーすることになる。

アービトラージ取引を行うお客様は、全体では小さいポーションだが、取引ボリュームで見ると、ある程度の大きさになるだろう。

GMOコインの顧客の正体

GMOコインの拠点がある渋谷の街(写真:Shutterstock)

──メインの顧客ターゲットとは?

石村社長:我々のプロダクトはシンプルで、販売所取引では我々がコインの売値と買値を出して、お客様は売りか、買いを行う。取引所取引は原則、お客様同士が板の上で取引を行う。それぞれに、現物とレバレッジ取引がある。お客様のタイプは取引形態で異なってくる。

アービトラージ取引を行うお客様の多くは、取引所取引を行っている。恐らく、他の資産クラスの取引経験があって、取引を独自のシステムで行うことが可能な方々だろう。

取引所の現物で買って、他に持っていくことをしている。レバレッジ取引では、なかなかアービトラージ取引を行うことは難しいが、独自のシステムで売買を繰り返しながらリターンを稼ぐトレーダーたちだ。

石村社長:一方の販売所取引の現物では、案外、ビギナーな方が多くいる。ビットコインの価格が動いたときに、多少なりともビットコインを持っておこうと口座開設を行うお客様だ。

また、元々は為替取引を行っていた方も多くいる。同じインターフェイスで違うプロダクトを扱いたいと考えるお客様で、為替相場が動かないときに、暗号資産取引にシフトする傾向にある。

今後の日本市場と重点戦略

──日本のクリプト市場がこれから大きく変化し、例えば、機関投資家の資金が市場に流入するようなことになれば、事業戦略も大きく異なってくるだろう現時点で予想できる範囲で、今後重点を置く戦略とは何か?

石村社長:暗号資産のボラティリティは、我々のビジネスでは重要なファクターの一つだ。暗号資産の場合、ビットコイン価格が動かないときでも、イーサリアムやリップルなどの他のコインの価格が動くことがある。

昨年末から今年の初めにかけても、我々で言えば、月ごとに収益源となるプロダクト(コイン)が変わる現象が起きた。例えば、昨年11月にはリップルの取引が活発になっただとか、12月にはエンジンコイン(ENJ)が良かっただとか。

従って、銘柄(コイン)を増やしていくことは重要な戦略の一つになる。お客様も銘柄が増えれば、複数のマーケットにアクセスできるようになる。我々の経営的にも、銘柄を増やすことは収益源の多様化につながるだろう。

日米の市場格差をどう考える?

──北米市場では、機関投資家のマネーがクリプト市場に入ってきている。適格投資家向けのファンドがいくつも組成され、個人投資家向けの取引サービスに限らず、カストディを含む機関投資家向けの事業は拡大した。今年4月にはコインベースが株式上場を行うまでに至った。日米の市場形成を比較すると、ギャップはさらに広がっているように思える。

石村社長:日本が北米市場をフォローすべき点はあるだろうと思う。日本におけるレギュレーションの厳しさもあるものの、業者としても顧客保護であったりだとか、金融当局が求めるところに対してフィットさせないといけない。

業者側でもやるべきことはあるだろうと思っている。やはり、日本では暗号資産にまつわるいろいろな事件が起きてきた。懐疑的に思う人はいまだ存在するだろうし、金融当局が業者に対して要求することは然るべきだと思う。交換業者全体が、大丈夫だと思われる状態にしないといけない。

日本市場をステップアップさせるためには、業者側はさらにやるべきことをやり続けて、納得感を確実なものにしていく必要があるだろう。

日本の機関投資家は極めて慎重であるが、(暗号資産に)興味を持ち始めているのは確かだ。米国ではステート・ストリートやバンク・オブ・ニューヨーク・メロンなどが暗号資産のカストディ事業を始めようとしている。機関投資家の需要があるから、既存の金融機関が新たな取り組みをスタートさせている。

環境が徐々に整ってくれば、日本の機関投資家が動き始める期待はふくらんでくるのかもしれない。

スギちゃんのテレビCM

──なぜ、TVコマーシャルに芸人の「スギちゃん」を?

石村社長:我々のお客様は男性が圧倒的に多い。女性のお客様は全体の20%弱。暗号資産に限った話ではないだろうと思うが、株でもFXでも日本の場合、男性が圧倒的に多い状況にあるだろう。

日本では、複数の企業がGMOコインよりも早く暗号資産交換業者として事業を始めている。我々は後発組で、顧客数でも先発組を追う立場にある。暗号資産の認知度もまだまだ上昇の余地があるなか、GMOコインの認知度もさらに上げる必要があると思っている。

なぜスギちゃんと聞かれると、様々な企画を検討した結果、GMOコインのお客様である20~40才代の男性の認知度が非常に高く、誰からも好かれているタレントとして、「ワイルドだろぉ?」でお馴染みのお笑い芸人の「スギちゃん」に出演をオファーした。

今回のCMキャンペーンによって、GMOコインの認知がさらに拡がり、1人でも多くのお客様がGMOコインで暗号資産取引を始めることを目指している。

|インタビュー・コピー・構成:佐藤茂
|フォトグラファー:多田圭佑