ロビンフッド株をロビンフッドで取得できるIPO:株取引アプリの価値はどれほどか【オピニオン】

私は非常に年老いた人間であるため、投資アプリを手がけるロビンフッドが、発表したばかりの新規株式公開(IPO)の一部を、自社アプリを通じてユーザーに提供する計画だと聞いた時にはもちろん、ラッパーで、2000年代には車番組「Pimp My Ride」のホストも務めたイグジビット(Xzibit)のことを考えていた。

イグジビットはかつて、キャデラック・エスカレードに水槽を入れるなど、楽しくてクレイジーなことをしていたが、顧客のリスクの中にさらにリスクを組み込むというロビンフッドのアイディアのインスピレーションは明らかに、彼から得たものかもしれない。

考えてみて欲しい。ロビンフッドのアプリを通じてロビンフッドのIPOを購入したら、株式の価値を積極的に2重に高めることになるのだ。株式への需要を高めるだけではなく、ロビンフッドに取引データと価格スプレッドを与え、同社はそこから利益を得ることができるのだ。秀逸、あるいは少なくとも、蛇が自分のしっぱを食べるのを見るような興味をそそるやり方だ。

高リスク投資の上に成り立つビジネスモデル

ちょっとしたデメリットは、リスクも難解な賭けに参加することになる点だ。ロビンフッドを維持しているのは、自らの投資と同じくらい複雑な、大量の独立した高リスクの投資なのだ。

ロビンフッドのIPO申請書類によれば、ロビンフッドユーザーの約半数は投資が初めての人たちだが、一方で、複雑なオプショントレーディングが、同社収益の38%を占めている。さらには、暗号資産取引収益の34%、収益全体の6%は、ドージコイン(DOGE)取引から来ている。

そのような事実は、少なくとも1つの悲劇につながった。20歳のアレックス・カーンズ(Alex Kearns)さんの死だ。カーンズさんはロビンフッドでオプション取引に手を出したが、ロビンフッドのユーザーインターフェイスの問題が一因して、75万ドル近い損失を出したと信じて自殺した。

ロビンフッドは先日、カーンズさんの家族と民事訴訟で和解。オプションデータの欠陥やその他の問題をめぐって、米金融取引業規制機構(FINRA)に7000万ドルの罰金を支払った。

伝説的投資家チャーリー・マンガー(Charlie Munger)氏が先週、米テレビ曲CNBCに対して、ロビンフッドは「軽蔑にも値しない」「まともな企業を装った賭場」であると語った理由も理解できるだろう。

取引高によって利益を出すような構造になっているため、ロビンフッドアプリは積極的で、熱狂的とも言えるような取引を推奨する。そのゲーミフィケーションは、SNSアプリの「いいね」から得られるのと同じような高揚感を与えるように設計されている。様々な仕掛けやデザインには、理由があるのだ。

「非常にコストの低いインデックスファンドを購入して、50年保有するように人々に勧めているのではない」と、バークシャー・ハサウェイ(Berkshire Hathway)でマンガー氏と長年パートナーを務めたウォーレン・バフェット氏も、同じインタビューで語った。「ロビンフッドでそのようなアドバイスを受けることはないと、保証できる」

ロビンフッドの投資家にとって解決できない問題は、それ自体が悪い事業ではないという点だ。個人投資家の中には、各種ツールをしっかりと理解し、それらを望んでいる人もいる。ソーシャルトレーディングは間違いなく、大きなトレンドとなるからだ。

ロビンフッドの投資家にとっての問題は、すべての20歳の若者世代に、彼らの未来がリスクの高い投資にかかっていると教育することが、社会的、財政的にマイナスの影響を持つという点ですらないのだ。

ロビンフッドの投資家に対する最大のリスクは、ロビンフッドが構造的に推奨するように動機付けられている取引でユーザーが損失を出し、そのような取引はやめるべきだと判断することなのだ。

尻すぼみが見込まれるこの先

IPOのタイミングが、このことを都合よく目立たなくしている。裕福なアメリカ人が家に閉じ込められ、政府からの給付金を使って株や暗号資産を取引する一方、株式市場も着実に値上がりし、高速のミーム株取引が最初に登場した時期に、ロビンフッドの収益は3倍以上となった。そのような実績が近くまた繰り返されると考える人がいるなら、騙されやすい人だと言わざるを得ない。

ゆくゆくは株式市場が値下がりしたり、ミーム株取引でいくつかの大きな失敗が発生したり、アマチュアのアクティブなトレーダーが、自分は損失を出していて、それに終わりはないという事実をついに受け入れるだろう。これらの一部、またはすべてが起きたら、ユーザーの多く、特にセロトニンによる安っぽい高揚感に影響を受けにくい人たちは、ロビンフッドを使うのをやめるだろう。

暗号資産市場をけん引し、株式公開を行ったコインベース(Coinbase)に、すでにその兆候が見られる。暗号資産がIPO後に低迷した時、コインベース株は25%以上値下がりした。

繰り返しになるが、ロビンフッドがひどい事業をしているというわけではない。一部の個人投資家は、オプションや投機を理解しており、彼らに対しては、どうぞ利益を確保してくれと言いたい。

しかし、そのような人たちはまれであり、それはつまり、ロビンフッドは、最近のデータにもとづく予測よりも、ずっと小さな事業になるということではないだろうか。

デイビッド・Z・モリス(David Z. Morris)はCoinDeskのコラムニスト。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:dennizn / Shutterstock.com
|原文:A Gamble Inside a Gamble: Robinhood’s Wild Memestock IPO