【FOCUS】10ドルからスタートアップに投資:米Republicになぜ人材と資金は集まる?

10ドル(約1100円)からスタートアップ企業に投資できるプラットフォームを手がける米リパブリック(Republic)が、資金と人材を集めている。

今では、ニューヨークやマイアミなどの住宅物件をポートフォリオに持つ不動産ファンドや、暗号資産(仮想通貨)・ブロックチェーンのプロジェクト、ゲーム開発企業にも、個人投資家が資金を投下できるプラットフォームに育ってきた。

2016年にニューヨークで生まれたリパブリックは、今月10月に1億5000万ドル(約170億円)を調達。テスラやスペースXに早くから出資してきたベンチャーキャピタルのValor Equity Partnersが、今回のシリーズBラウンドを主導した。

リパブリックはVCからの資金だけでなく、若い人材もひきつけている。スタッフのプロフィールには、金融界やテクノロジー企業で働いてきた多くのミレニアル世代やZ世代の人材がリパブリックに転職している。

リパブリックが作り上げようとしている未来の個人向け投資サービスの魅力とは何か?

4つの投資タイプから選べる

(リパブリックのHPより)

リパブリックの投資プラットフォームには、投資家が参加できる4つの投資タイプがある。

・スタートアップ企業:リパブリックは、投資プラットフォームに掲載するスタートアップを自ら選び、独自のデューデリジェンス(DD=投資先企業の価値やリスクを評価する作業)を行った上で、投資対象企業をリストに入れる。DDには当然、スタートアップの創業者、ビジネスモデル、市場規模や成長性、社会的インパクト、チーム構成、テクノロジーなどの項目が含まれる。

・不動産:マイアミやニューヨーク、ダラスなどのアメリカの主要都市別に、住宅物件などで構成されたファンドに投資できる。中には、適格投資家を対象にしたファンドもある。

・ゲーム業界:同じく、リパブリックが選定し、DDを行ったゲームアプリのデベロッパーが投資対象で、複数のゲーム会社で構成されるファンドもある。

・暗号資産(クリプト):文字通りブロックチェーンを基盤技術にする暗号資産をコアに置くプロジェクトに投資できる。

Kickstarter、Indiegogoとの違い

リパブリックの投資サービスの仕組みは、キックスターター(Kickstarter)やインディゴーゴー(Indiegogo)などの、アメリカの代表的なクラウドファンディング・サービスに似ているようにも思える。

しかし、リパブリックのプラットフォーム上で投資するユーザーは、投資先の成長に対するリターンを得るのに対して、通常のクラウドファンディングに参加する支援者は、実際に支援した企業からの特典や商品を受け取ると、リパブリックは説明する。

リパブリックを使ってスタートアップへの投資をする際、ユーザー(投資家)は投資先と「Crowd SAFE」と呼ばれる投資契約を結ぶ。

Crowd SAFEはリパブリックが発行する簡易契約書で、SAFE(Simple Agreement for Future Equityの頭文字をとった言葉=「未来の株式に対する簡易的な契約書」)は、ベンチャーキャピタルのYコンビネーターが始めたと言われており、今でもエンジェル投資家や多くのベンチャーキャピタルがスタートアップに投資する際に利用されている。

Crowd SAFEを手にした投資家は、投資先の「権益」のようなものを取得するが、すぐに株主になるわけではない。投資先企業にとって「トリガー」となる事象が起こった時、その権益は株式に転換される。主なトリガーは、企業の新規株式公開(IPO)やM&A(合併・買収)だ。

400以上のスタートアップ・リスト

リパブリックのウェブサイトには、400を超えるスタートアップ企業が投資対象のリストに並ぶ。気になる企業を見つけたら、その企業のピッチ(企業側のプレゼンテーションの概要)をチェックし、他のユーザー(投資家)の考えや意見をディスカッション・ボックスで確認したり、議論に参加することができる。

「レビュー(Reviews)」のアイコンをクリックすると、すでにその企業に投資したユーザーのコメントを読むことも可能だ。レビューで発信している投資家の写真の横には、その企業に実際に投資した日と金額も掲載されている。

パブリックのUIはシンプルでありながら、ユーザーの「投資ジャーニー」とも言うべき行動パターンに沿ったデザインが施されているように見える。投資企業をサーチして、ピッチを読み、リサーチを行う。第三者の意見を聞き、議論に参加する。最終的な投資判断を行って、投資のボタンをタップする。

これまで、ビリオネアやミリオネアでない限り、一般の個人が株式上場前のスタートアップに投資する機会は少なかったが、パブリックの投資プラットフォームはその機会を増大させることは間違いない。ベンチャー企業に投資する損失リスクは時に、上場企業の株式投資とは比べものにならないくらい肥大するが、当然その逆も大いにある。

|テキスト・編集:佐藤茂
|トップ画像:Shutterstock