暗号資産が嫌われる理由【オピニオン】

ツイートで始まり、ツイートで終わった。人気メッセージプラットフォーム、ディスコード(Discord)の創業者兼CEOジェイソン・シトロン(Jason Citron)氏は11日、ディスコードに暗号資産(仮想通貨)機能を組み入れることはないと、ユーザーを安心させた。

激しい反発を受けて

今回のツイートは、ディスコードが暗号資産受け入れに傾く可能性をめぐって、月額有料会員制度ニトロ(Nitro)のメンバーシップを解約すると脅したり、実際に解約したことを示すスクリーンショットをシェアするなど、ユーザーからの反発を受けてのものであった。

シトロン氏は8日、ディスコードがイーサリアム機能に取り組んでいることを示唆するツイートを投稿。ツイートされたスクリーンショットには、暗号資産ウォレットのメタマスク(MetaMask)と、多くのモバイル暗号資産ウォレットで使われているツール「ウォレットコネクト(WalletConnect)」が、既存のユーチューブ、レディット、フェイスブックのウィジェットと並んで、統合される可能性のあるものの中に並んでいた。

「たぶん、何でもない(Probably, nothing)」とシトロン氏はツイート。これは暗号資産ファンが、何かすごいことがある時に使う反語的な言い回しだ。事実、これが実現したらすごいことになっていた。

人々はこのツイートを読んで、ディスコードがまもなく、ノン・ファンジブル・トークン(NFT)や自律分散型組織(DAO)に便利なネイティブツールを追加するかもしれないと解釈した。すでに多くのウェブ3プロジェクトに選ばれているディスコードが、分散化の軍団に加わろうとしているように思われたのだ。

しかし皆が、消費者の行動の変化と、ゲームに重点を置いたディスコードの価値のシフトを反映する、この新しい方向性を快く思った訳ではなかった。暗号資産価格が高騰し、ベンチャーキャピタリストのお気に入りとなり、重要な文化・経済的分野になっても、暗号資産業界が象徴するものが好きではない人たちが、かなりの数いるということを思い起こさせてくれる、意義のある展開だったのだ。

スラックティビスト(自己顕示や自己満足のために表面的に社会運動に参加する人たち)は、シトロン氏のツイートに対して、ディスコードを見限り、広告によって収入を得ることを拒否してきたディスコードの主要な収入源の1つである、有料会員を解約するよう呼びかけた。

多くの人が、イーサリアムはエネルギー消費量が多いという主張を繰り返し、暗号資産詐欺がディスコード上で蔓延っていると指摘。「NFT界隈の人たち」の不愉快さを指摘する人たちもいた。

ディスコードはそれらの声に耳を傾けた。シトロン氏は10日、ディスコードは暗号資産ウォレットをアプリに組み込むことを「現時点で計画していない」と表明。そもそも、暗号資産機能の追加が正式に発表された訳ではなく、スクリーンショット上のツールはおそらく、ハッカソン(開発者らが短期間で集中的にコーディングを行うイベント)の一環だったのだろう。

「ウェブ3テクノロジーの可能性、そしてとりわけ環境に優しく、クリエーターに重点を置いたウェブ3コミュニティーがディスコード上で集まっているポジティブなあり方にワクワクしている」と、ディスコードはテクノロジーメディアTechCrunchに語り、次のように続けた。

「しかし、取り組まなければならない問題があることも認識している。今のところは、ユーザーをスパム、詐欺などから守ることに重点を置いている」

超資本主義的?な暗号資産

ユーザーが自らのデータを保有し、使うツールに権限を持つことのできる、ブロックチェーンベースの新しいインターネットの形を表すウェブ3は、好ましい展開である。独占的なインターネット巨大企業に法的に対抗する以外では、「監視資本主義」に抵抗する最善の方法は暗号資産だ。

しかし、無批判にすべてを受け入れない人たちにとっては、暗号資産は超資本主義的、資本主義以上のもののように見えるようだ。暗号資産は、解決策を見つけたり、一般市民を守るために、国家よりも市場を優先する。すでにリッチな人たちが、侮辱的なほど多額のお金を稼ぐための手段でもある。金融化、グローバル化、あらゆるもののコモディティ化に向けた「新自由主義的動き」を進展させるものだ。

「デジタル主権」という言葉に現れる通り、暗号資産は多くを約束するが、誕生してからの10年で、(3兆ドルの時価総額は除いて)あまり多くを実現してはいない。

これは、NPOの電子フロンティア財団(Electronic Frontier Foundation:EFF)の支持者たちが先月、デジタル権利に重点を置いたEFFが、暗号資産の規制の行き過ぎに反対する立場を表明したと怒りを表した時に、繰り返し指摘された点である。

EFFはツイッターで、暗号資産ユーザーは規制による「存在の危機」に「立ち向かう」べきと主張した、テクノロジーロビー団体Fight For The Futureとブロックチェーン協会(Blockchain Association)のトップらによる論説をシェア。人々は、主に環境面での懸念と詐欺の横行を理由に、これに腹を立てた。EFFに金銭的援助を決して行わないと誓った人たちもいるほどだ。

このような人たちは、デジタル権利やプライバシーの観点から暗号資産を支持する可能性のある人たちだ。しかし、怒れるディスコードユーザーたちと同様、暗号資産業界についての態度をもう決めてしまったようだ。どちらの事例でも、彼らはインターネットに精通したユーザーで、暗号資産を即座にはねつけている訳ではない。

暗号資産に懐疑的になるにはもっともな理由がある。現在のプライバシーの問題(すべてがブロックチェーン上に保管される)や、カーボンフットプリントは、解決可能だ。現状の経済にこれまで以上に多くの人が懐疑的となっている時に、暗号資産の資本主義的目標(ビットコインはすべての人のためと言うのは構わないが、お金は嘘をつかない)を調和させることの方がより困難だろう。

暗号資産は既存の金融システムを転覆させるのか、それとも助長させるのか?暗号資産が生み出す不調和は、価値を加えることになっているのか?今のところ、大半の人にとっては、「たぶん、何でもない」のだろう。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock.com
|原文:‘Probably Nothing’: Why People Still Hate Crypto