大手暗号資産(仮想通貨)取引所のクラーケン(Kraken)が、イーサリアムのステーキングサービスを日本の個人顧客向けに開始した。資産を売買して利益を得るキャピタルゲインに加えて、保有しながら収益が得られるインカムゲインの機会が、暗号資産取引でも広がりそうだ。
クラーケン・ジャパンは2月4日、イーサリアムのステーキングサービス開始を発表。クラーケンで取引口座を開設している国内ユーザーは、保有しているイーサ(ETH)を同取引所を通じてステーキング(「預け入れる」「出資する」という意味)することで、報酬を受け取ることができる。
ステーキングとは何か?
ステーキングとは、端的に言えば、ブロックチェーンの運用を支えるために、そのブロックチェーンのネイティブトークンをネットワークに預け入れること。より優れたメカニズムに移行しようとしているイーサリアムブロックチェーンの開発においては、このステーキングの仕組みが不可欠である。
イーサリアムブロックチェーンは、「イーサリアム2.0」と呼ばれる新たなネットワークへの移行作業が進められている。現行のプルーフ・オブ・ワーク(PoW)から、プルーフ・オブ・ステーク(PoS)メカニズムを搭載したブロックチェーンに移行することで、数倍の効率性と拡張性、安全性を持つことができると言われている。
PoSは、発行済の全コイン総量に対する保有コインの割合によって、発言力が変動するように設計されており、コインの保有量が多いほど報酬などを得やすい仕組みだ。ビットコインが採用しているPoWとは異なり、膨大な電力やマイニング機器を必要としないことがメリットとされる。
PoSメカニズムへの移行は、早ければ今年中にも完了することが見込まれている。その第一段階となる試験フェーズの運用は2020年12月に、「ビーコンチェーン」上で始まった。ビーコンチェーンは、現行のイーサリアムとイーサリアム2.0ブロックチェーンのつなぎ役となるもの。
イーサリアム2.0では、マイナーに代わって「バリデーター」がブロックチェーン上の取引処理を行う。バリデーターになるためには、ノード(ネットワークにつながるコンピュータ)を24時間/365日安定的に運用し、最低32ETHをビーコンチェーンにステーキングしなければならない。
ネットワークとデータの安全性を担保する役割を担うバリデーターは、ETHでその報酬を取得する。報酬レートは原則、バリデーターが増えるに従って減少する。クラーケンやコインベース(Coinbase)などの暗号資産取引所も、ノードを運用することで、個人顧客がステーキングに参加できるサービスを提供することが可能だ。
Stakedの買収で強める事業基盤
クラーケン・ジャパンの発表によると、保有するイーサをステーキングする場合、イーサリアム2.0への移行が完了するまではトークンを引き出すことはできないが、取得できるリターンの想定は年利で4%以上。
クラーケンは本国で、11種類の暗号資産を対象にステーキングサービスを展開している。今後、日本市場でもステーキングできるトークンを増やしていく計画だが、クラーケン・ジャパンでは現時点で、イーサリアムを除くステーキング可能な暗号資産の取り扱いはしていない。
クラーケン・ジャパンの代表を務める千野剛司氏は、「現在、複数の暗号資産の上場申請を行っている。取り扱い通貨を増やしていきながら、ステーキングサービスを日本でさらに充実させていきたい」と話す。
ジェシー・パウエルCEO率いるクラーケンは昨年、ステーキングサービスを取引所や事業会社向けに展開するStakedを買収し、同サービスの事業基盤の強化を図った。Stakedはノンカストディアル(顧客資産の保管・管理を行わない)のステーキングのB-to-B事業を運営しているのに対して、クラーケンは顧客の資産を管理しながら(カストディアル)ステーキングサービスをB-to-C向けに展開している。
千野氏は、「ステーキングの事業基盤を固めることで、低コストでサービス運営を行うことが可能となった」とした上で、「結果的に、ステーキングを利用する顧客に対して、競争力のあるリワードレート(報酬率)を提供することができる」と述べた。
クラーケンとイーサリアムの関係
クラーケンによると、同社はイーサリアムステーキングにおいて取引所では最大のシェアを有しており、1月24日時点で同取引所を通じて約24億ドル相当のETHがステーキングされている。
イーサリアムのメインネットが稼働を始めたのは2015年7月だが、クラーケンはその翌月にはイーサの取引を開始。ETHを上場させた最初の大手取引所となった。
また、クラーケンはイーサリアム2.0の開発に対して積極的な支援を行う企業の一つで、昨年8月にはイーサリアム財団に2500万ドル(約29億円)の寄付を行っている。
|取材・テキスト:佐藤茂
|トップ画像:クラーケン・ジャパン代表の千野剛司氏/撮影:多田圭佑)