高頻度取引はクリプト取引所業界の新たな主戦場か。引き寄せられるアルゴリズム・トレーダーたち

高頻度取引はクリプト取引所業界の新たな主戦場か。引き寄せられるアルゴリズム・トレーダーたち

Brady Dale
公開日:2019年 7月 15日 08:30
更新日:2019年 7月 15日 11:13

重要なポイント

  • 伝統的な市場で長年にわたって行われ、物議を醸してきた高頻度取引(HFT=high-frequency trading)は仮想通貨市場においても一般的になってきている。
  • 取引サーバーを取引所のマッチングエンジンから物理的に近いところに置くことで、スピードの面で有利になることができる。これが、HFT企業がレガシーマーケットで巨額の利益を得るのに役立っている。
  • エリスエックス(ErisX)、フォビ(Huobi)、ジェミニ(Gemini)といった仮想通貨取引所は、コロケーションサービスを提供することで大口のアルゴリズム投資家を惹きつけようとしている。
  • コロケーションサービスへの需要は高いが、仮想通貨市場の構造が原因で、その利点については議論の余地がある。

高頻度投資家を心から歓迎しているのは一握りの仮想通貨取引所だ。

シンガポールに拠点を置くフォビ、シカゴのエリスエックスはそれぞれ、顧客のサーバーを取引所のサーバーと同じ施設または同じクラウドに置くコロケーションサービスの提供を始めたと、各取引所の担当者がCoinDeskの取材に対して語った。これによって投資家は最大で100倍の速度で取引を実行することができ、市場の他の投資家たちよりも優位に立つことができる。

これら2つの取引所は、ニューヨーク地域で人気のデーターセンターでコロケーションサービスを提供した最初の仮想通貨企業の一つで、2か所目となるシカゴでもこのオプションが利用できるようにサービスを拡大しようとしているジェミニに加わるかたちになる。

注目すべきことに、これらの取引所は同サービスを差別化の手段と考え、無料で提供している。「我々の競争上の強みです」とフォビ・ロシアの責任者アンドレ・グラチェフ(Andrey Grachev)氏は言う。

確かにそのようなサービスは、長らく個人投資家が多数派を占め、最近になってヘッジファンドやファミリーオフィスといった機関投資家からの注目を集め始めたばかりの仮想通貨業界では珍しい。

しかしこれらの取引所の動きは、従来の金融市場で長年にわたって行われ、物議を醸してきた高頻度取引(HFT)が徐々に仮想通貨業界にも浸透してきていることを示している。仮想通貨取引所マウントゴックス(Mt Gox)の頃から仮想通貨業界に「ボット」は存在していたが、コロケーションはアルゴリズム取引を別のレベルへ引き上げる。

ナスダック(NASDAQ)に買収されたフィンテック企業のシノーバー(Cinnober)で、仮想通貨・ブロックチェーンの責任者を務めたエリック・ウォール(Eric Wall)氏はCoinDeskの取材に対して次のように語った。

「大きなビジネスです。私が話をした取引所を運営する人は皆、こういったタイプのリクエストをするウォール街タイプの人間によってアプローチを受けています」

仮想通貨取引所の大部分はこのような要求を満たす準備ができていない、とウォール氏は続ける。「伝統的な世界での経験がない、個人客にフォーカスした多くの取引所にとっては、非常に新しいコンセプトのようです。」

1日に80万件の取引

グラチェフ氏によれば、フォビがロシアオフィスを開設してから6か月の間に、約50の顧客が取引所と同じクラウドにサーバーを設置し、同じドメイン・ネーム・サービス(DNS)を使用することによってコロケーションサービスを活用している。

コロケーションのオプションによって、他のユーザーよりも70〜100倍の速度で取引を行うことができる、とグラチェフ氏は述べ、次のように続けた。「あるお客様は1日におよそ80万件の取引を行いますが、そのようなお客様がどんどん増えてきています」

クラウドベースのサーバーを使う多くの仮想通貨取引所とは異なり、エリスエックスはハードウェアのマッチングエンジンを所有しており、それはニュージャージー州セカーカスのエクイニクス(Equinix)のデータセンターにあると、同取引所のマシュー・トルドー(Matthew Trudeau)最高戦略責任者は述べた。

同施設には様々な主要従来型取引所、ブローカー、投資会社のマッチングエンジンがあると、トルドー氏はCoinDeskの取材に対して語った。つまり、データセンターにサーバーをコロケーションした投資家は、そちらでエリスエックスのマッチングエンジンに接続することができるのだ。(同取引所は2019年4月にいくつかの仮想通貨でスポット取引を開始し、最近になって先物取引のための認可も取得している)

2014年にキャメロンとタイラーのウィンクルボス兄弟(Cameron and Tyler Winklevoss)によって創立されたジェミニもまた、エクイニクスに主要な取引プラットフォームを設置し、そこでコロケーションサービスを提供している。ジェミニのウェブサイトによれば、ジェミニは近々、エクイニクスのシカゴデータセンターでもコロケーションオプションの提供を開始する予定だが、このシカゴのデータセンターには複数の証券取引所、そしてそのHFT顧客がハードウェアを設置している。

声明の中でジェミニのジャニーヌ・ハイタワー=セリット運営担当マネージングディレクターは、ジェミニは「お客様のニーズに合わせた様々なコネクティビティオプションを提供しています。すべてのお客様がそれぞれのオプションを無料で利用することができます」と述べた。

米大手仮想通貨取引所のコインベース(Coinbase)も競争に参加しかけたが、コロケーションを含む高頻度投資家用のサービスに取り組んでいたシカゴの部局を2019年に閉鎖した。閉鎖当時、コインベースは、他の機関投資家向けサービスを優先させることを閉鎖の理由に挙げた。

コインベースは本記事に対するコメントを拒否した。(ジェミニはつい最近シカゴにオフィスを開設し、そこでコインベースの元従業員を何人か採用している)

物議を醸す取引

これらすべてのことを踏まえ、ウォール街での歴史を考慮すると、HFTが不透明で変動しやすい仮想通貨市場の抱える問題をさらに悪化させる可能性があるのだろうか?疑問は浮かぶ。

金融ジャーナリスト、マイケル・ルイス(Michael Lewis)氏の著書『フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち(Flash Boys)』に記されているように、アルゴリズム取引を行う投資家は、取引所のサーバーから物理的に近距離に自らのサーバーを設置することで、他の投資家よりも素早く取引を実行し、ほんの数秒で市場間の裁定取引で利益を得る。

ルイス氏が説明するように、HFTの問題点は、一部の投資家が通常のユーザーよりも何百倍も速く取引を行える市場では、それらの投資家が不公平な優位性を得ることになり、アルゴリズム取引を行わない普通の投資家たちにはより不利な価格オプションが残ることになるという点だ。

証券監督者国際機構(IOSCO)がまとめた2011年の報告書によれば、HFTの別の問題点としては、市場のボラティリティを著しく高めてしまう可能性があることが挙げられる。

具体的に言えば、HTFは2010年5月6日のいわゆるフラッシュクラッシュにつながった。フラッシュクラッシュでは、アメリカの多くの株価が数分で劇的に下落、回復を見せ、一般投資家がHFTと同じような速さでは対処できないようなより高いリスクにさらされた。

シカゴ連邦準備銀行は2012年、高速取引が企業に何億ドルもの損害を与えたその他の技術的問題につながったと指摘し、「高速取引投資企業の中には、一部の取引所の持分所有権を保持しているものもある」と述べた。

成熟した市場

しかし、エリスエックスのトルドー氏は、高頻度の裁定取引や自動取引は概して、市場にとってプラスになり得ると主張した。(同氏は『フラッシュボーイズ』のヒーローである、証券取引所IEXの初期の従業員の1人であったことにも言及する必要があるだろう)

それらの取引は時間とともに異なる取引所間の値開きを縮め、仮想通貨市場を含む市場をより効率的にするのに役立つと、トルドー氏は述べ、こう説明した

「取引がより電子的になり、自動化されるに従って、この現象は他の資産クラスでも起きてきました。マーケットメイカーやアービトレィジャーはより効率的に投資することができ、そうすれば価格形成、価格発見、流動性が改善します。裁定取引の機会はより少なく、つかの間のものとなっていくかもしれませんが、それはより効率的で成熟した市場のサインです。」

しかし、取引所と高頻度投資家が市場に公表されていない優遇条件で取引をしているかどうかをチェックすることが重要だと、トルドー氏は指摘した。

エリスエックスに関しては、「透明で標準化した価格と、コネクティビティオプションをお客様に提供しています。すべてのお客様に同じ条件のアクセスと料金を提供しています」とトルドー氏は話す。

フォビについては、すべてのユーザーが「平等な場で競争する」状態を確保しようと努力していると、フォビのグローバルセールス・法人向け業務担当責任者のレスター・リー(Lester Li)氏は述べる。

「ユーザーは、我々が悪質な取引行為を監視していることを知っています」とリー氏。「ユーザーに対しては、取引をするときにはいつでもリスクがあることを継続的に伝えており、だからこそ我々は、ユーザーに対して身の丈にあった取引を行い、取引に伴うリスクを心に留めるように強くすすめています」

個人投資家を守る

それでも、CoinDeskが取材を行ったその他の取引所は、アルゴリズム取引を行う投資家に対して特別なサービスを提供していないと強調した。

2019年初頭にローンチされた機関投資家向けの小規模取引所エルジーオーマーケット(LGO Markets)のヒューゴ・ルノーダン(Hugo Renaudin)CEOによれば、同取引所は全員の取引プロセスを意図的に減速させるという、正反対のアプローチをとった。

マッチングされる前に注文はバッチにまとめられ、すべてのバッチのハッシュがビットコインブロックチェーンに記録される。各バッチの形成には約500ミリ秒かかるので、これが取引の「スピードバンプ」のような役割を果たす、とルノーダン氏は語る。結果として、「すべての投資家はプラットフォームのアクティビティに対して同じフィードバックを得ることになる」

同じような姿勢をとる仮想通貨取引所のクラーケン(Kraken)のスティーブ・ハント(Steve Hunt)技術担当副社長はCoinDeskの取材に対して、クラーケンはHFTの客に対して特別に異なった対応をしてはいないと語った。

「サイズや規模に関わらず、すべてのお客様に私たちのマーケットプレースに平等のアクセスを持って欲しいと考えています」とハント氏は言う。

世界最大の仮想通貨取引所バイナンス(Binance)のアナトリー・コンダコフ(Anatoly Kondyakov)アカウントマネージャーは、モスクワで開かれた「エリート投資家」向けの集まりで参加者に対して、バイナンスはコロケーションの提供を検討してはいないと述べた。同氏は2つの理由を挙げている。

まず、「私たちは個人投資家を守ろうとしています」と、参加者からの質問に答える形でコンダコフ氏は語った。次に、コロケーションとは特定の法的管轄域に公式に存在することを意味するが、バイナンスは現時点ではそのようなことを望んでいない、と同氏は述べた。

時期尚早?

さらに、仮想通貨市場は、コロケーションサービスをHFT企業に提供することに大きな意味があるほどまでには従来型の金融業界に追いついていない、と主張する人たちもいる。

「現在のところ、仮想通貨市場の構造はまだ発展途上にあります。株式市場やFX市場でのHFTというようなものは、本当には存在していません」とサンフランシスコに拠点を置く取引所オーケーコイン(OKCoin)の金融市場担当責任者のウィルフレッド・デイ(Wilfred Daye)氏は述べる。

伝統的な市場から仮想通貨市場へと参入する投資家たちは確かにコロケーションを求めるが、「そのようなリクエストは単発的なもので、仮想業界においてよくあるリクエストではない」ため、オーケーコインはコロケーションサービスを提供していない、とデイ氏は話す。

市場データプラットフォームのコインルーツ(Coinroutes)の共同創業者で、CEOのデイビッド・ワイズバーガー(David Weisberger)氏には、仮想通貨市場におけるHFTに対して懐疑的になる理由が他にもある。仮想通貨市場は非常に分散していて変動しやすく、株式市場で上手くいくものがビットコインでは上手くいかないのだ。

HFTフロントランニングというコンセプトは、取引所間での価格の相違が伝統型の市場よりもずっと大きな仮想通貨業界には無関係だ、とワイズバーガー氏は述べる。

また、仮想通貨取引所は世界中に散らばっていて、「一つの取引所にコロケーションして、バイナンスがアップデートするのを何秒か待たなければいけない」ようでは意味がない、とワイズバーガー氏は加えた。

仮想通貨取引所にコロケーションを求める声があるのは単純に人間の本質だ、と同氏は結論づけ、次のように語った。

「人はいつでも一つ前の戦争を戦う。人は慣れ親しんだことをするのです。」

翻訳:山口晶子
編集:佐藤茂
写真:Shutterstock
原文:High-Frequency Trading Is Newest Battleground in Crypto Exchange Race