7分で分かるラップドトークン【基礎知識】

イーサリアムブロックチェーンでビットコインを取引しようとするのは、MacでWindows用のゲームをプレーしようとするのに似ている。この場合、Macに特別なソフトウェアをインストールしないと、うまくいかない。

ブロックチェーンの場合、有難いことに、「ラップドトークン(wrapped token)というもののおかげで、プロセスはかなりシンプルだ。しかし、ラップドトークンとは一体何なのか?その仕組みはどうなっているのだろうか?

ラップドトークンとは、簡単に言うと、異なるブロックチェーンやトークン規格の暗号資産(仮想通貨)を象徴するトークンで、オリジナルのトークンと同じ価値を持つ。オリジナルトークンとは異なり、ラップドトークンは特定のノンネイティブブロックチェーンで使うことが可能で、後でオリジナルトークンに交換することもできる。

ラップドトークンの大きなメリットの1つは、相互に対応していない暗号資産とブロックチェーンの間に、相互運用性を生み出すことだ。こうして例えば、DeFi(分散型金融)プラットフォーム上でのビットコイン(BTC)の貸付や、イーサ(ETH)の借入が可能になる。DeFiにより、多くの流動性が提供され、暗号資産の有用性が高まるのだ。

ラップドビットコイン

最も人気のラップドトークンは、ビットコインのERC-20版、「ラップドビットコイン(wBTC)」だ。

wBTCの時価総額は2022年2月1日時点で、100億ドルを超えた。暗号資産のカストディ(管理・保管)サービスを手がけるビットゴー(BitGo)が、同サービスを運営し、セキュリティを提供している。wBTCは、ラップドトークン市場の81%を支配し、第2位につけるrenBTCの時価総額は6億7200万ドルだ。wBTCは2019年、ビットゴー、カイバー(Kyber)、レン(Ren)が共同で立ち上げた。

wBTCは、ビットコインの投資家が自らの資産(より厳密には、ビットコイン価格に対して同じエクスポージャーを提供する合成資産)を、イーサリアム上のDeFIプロトコルで使えるようにするため、便利なのだ。

これによって、ビットコインを、利回りを獲得できる資産に転換する可能性が開ける。例えば、ユニスワップ(Uniswap)やヤーン・ファイナンス(Yearn Finance)上の流動性プールなどから、リターンを獲得することができるようになるのだ。

wBTCを手に入れるためには、ディバーシファイ(DeversiFi)、カイバー、レンなどのwBTC取扱業者を選び、手持ちのBTCをラップする。そのプロセスは次の通りだ。

まず、これらの業者がユーザーのビットコインをカストディアンへと送る。カストディアンはビットコインと1対1の割合でwBTCを新たに作成し、ユーザーが預け入れたビットコインを保管する。wBTCをビットコインに戻したい場合には、業者がカストディアンに焼却のリクエストを送る。そうするとカストディアンはwBTCを焼却し、ビットコインを返却する。

wBTCを作成、焼却するこのような仕組みによって、常に1つのビットコインが流通する1つのwBTCを裏付ける状態を確保できる。価値が法定通貨と連動するステーブルコインの仕組みと、根本的には同じである。

それ以外に、中央集権型、あるいは分散型取引所で、他の暗号資産を使ってwBTCを購入することもできる。

wBTCは、中央集権化の要素をもたらすため、完璧なソリューションとは言えない。wBTCを保有するということは、ビットゴーを信頼して自らのビットコインを預けることを意味するからだ。

ラップドイーサリアム

便利なラップドトークンはwBTCだけではない。2017年に0x labsが立ち上げたラップドイーサ(wETH)も、主要なラップドトークンの1つだ。

ビットコインをノンネイティブ・ブロックチェーン(現在はイーサリアムとトロンに対応)につなげることが唯一の目的であるwBTCとは異なり、wETHの主要な目的の1つは、イーサリアムブロックチェーン上でイーサを取引することにある。

つまり、wETHはイーサをERC-20トークンに変換し、DeFiプロトコルに対応できるようにしてくれるのだ。イーサそのものは、ERC-20の規格を遵守していない。

ここで言うトークン規格とは、他のイーサリアムベースのサービスやプラットフォームに対応できるように、トークンが従わなければならない一連のルール、と考えれば良いだろう。ノン・ファンジブル・トークン(NFT=非代替性トークン)やファンジブル・トークンなど、特定のサービスに対応する様々な資産グループを作るために、様々なトークン規格が使われている。

wETHは、イーサ保有者に対して、まったく新しいDeFiの世界への扉を開く。wETHを使えば、他のイーサリアムベースのアルトコインと直接取引を行い、DeFiプロトコルに資産を預け入れることができるのだ。

wBTCとは異なり、イーサは実際に「ラップ」される訳ではない。wETHを手に入れるためには、スマートコントラクトを通じて、あるいはメタマスク(MetaMask)などのデジタルウォレット上で、イーサをwETHに交換するだけだ。

wETHを手がけるチームは、イーサリアムのコードベースがアップデートされ、イーサがERC-20トークン規格を遵守したものになるか、ERC-20の規格が見直されることで、wETHがゆくゆくは無くなっていくことを願っている。

ブリッジ

ラップドトークンは、暗号資産を異なるブロックチェーンに移動させるための唯一の方法ではない。

ポリゴン(Polygon)やアービトラム(Arbitrum)、オプティミズム(Optimism)などのブリッジを使えば、イーサリアムから資産を移動させ、これらのネットワーク上で低コストかつ高スピードで取引ができるようになる。

例えば、オスモーシス(Osmosis)のグラヴィティ・ブリッジ(Gravity Bridge)を使えば、コスモス(Cosmos)ベースの分散型取引所で、ERC-20トークンを取引でき、テゾス(Tezos)のラップ・プロトコル・ブリッジ(Wrap Protocol Bridge)を使えば、資産をイーサリアムとの間で移動させることができるようになる。

ワームホール(Wormhole)をはじめとする大規模ブリッジは、多くのブロックチェーンに対応している。例えばワームホールでは、イーサリアム、ソラナ(Solana)、テラ(Terra)、バイナンス・スマート・チェーン(Binance Smart Chain)、ポリゴンに対応。さらにNFTにも対応しているので、ソラナNFTをイーサリアムへと移動させることもできる。

しかし、2月2日、ワームホールのブリッジには攻撃が仕掛けられ、12万wETH(当時3億2600万ドル相当)が盗まれた。この事件は、ブリッジというテクノロジーの深刻な欠陥を浮き彫りにしている。

よりニッチなラップのサービスを手がけるプロジェクトも存在する。エンブレム・ヴォルト(Emblem Vault)は、様々な資産の入ったウォレットをNFTに変換するサービスを提供しており、トレーダーは、2014年にプロトコルのカウンターパーティー(Counterparty)上で作られたビットコインNFTを、イーサリアムベースのNFTに変換したりしている。

ロニン・ブリッジ(Ronin Bridge)は、NFTゲーム「アクシー・インフィニティ(Axie Infinity)」のための専用ブリッジである。

暗号資産のデータを手がけるデューン・アナリティクス(Dune Analytics)によると、イーサリアム対応のブリッジには合計で、232億4000万ドル相当の資産が存在している。

市場を独占するのはポリゴン、アバランチ(Avalanche)、ファントム(Fantom)で、それぞれの市場シェアは23%、22%、18%。ブリッジに預け入れられた資産の約25%(約60億ドル相当)は、wETHで保有され、22%(52億ドル相当)は、米ドル連動型ステーブルコインのUSDコイン(USDC)で保有されている。

ブリッジはまもなく、DeFi市場を席巻するかもしれない。個々にラップされた暗号資産を取引するよりも、一カ所でラップドトークンを取引した方が楽だからだ。

しかし、DeFiでは将来的に、ブロックチェーンを超えたトークン取引がシームレスとなり、ユーザーはブリッジやラップドトークンを使っていることに気づかないほどになるかもしれない。そんな「金融の未来」のさらなる未来が、待ち受けているのだ。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:What Are Wrapped Tokens?