ブテリン氏はイーサリアムを放っておくべきだ【コラム】

ヴィタリック・ブテリン氏に会うたびに、私は彼の知的好奇心と、その根底にある真面目さに感銘を受ける。

知的好奇心はまれだ。真面目さに関してはありがたいことに、多くの向上心に燃えた人と共通している。その多くは、アメリカの政治の中心地ワシントンD.C.や、シリコンバレーなどの「知的パワーの中心地」とされる場で働いている。

メディアで耳にすることとは裏腹に、彼らのほとんどは金銭的富や名声を築くことに主眼を置いていない。その大半は、正しいことをしようとしており、とりわけ十分なサービスを受けていないコミュニティの人たちの暮らしをより良くするための製品やサービスを作ろうと尽力している。それは良いことだ。

(ここでお察しの通り、「しかし」の登場だ)

しかし、ブテリン氏をはじめとする紛れもなく善意を持ったまともな人たちが、他の人たちの利害や判断と衝突して、居心地悪く感じるという事態がたびたび起こる。自分が作ったものが、予期せずあまり好ましくない方向に使われると、自由市場を疑うようになるのだ。

ブテリン氏のような人が、肝の銘じるべきとりわけ大切な点がある。個人の関心や、それが根底となる決断、そこから生じる行動が自由市場を機能させているが、自由市場は予測不可能で、不公平ともなり得るが、人間を前進させるものだということだ。

自分の時間、エネルギー、資源をどのように使うかについて、何十億もの人々が自ら決定することが、世界の時間、エネルギー、資源を分配する最善の方法なのだ。

ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)は、この分配を改善させる前例のないチャンスを提供してくれる新しいテクノロジーである。

人間味のなさがビットコインの魅力

ビットコインは、ブロック検証という、止めることのできない冷徹なプロセスによって、これを実現する。人間の介入や影響なしに、10分ごとに1と0が前へと進んでいく、シンプルなプロセスだ。

ビットコインはすべてのブロックを平等に扱い、個々のブロックの長所や、ブロックが進む方向を評価することはない。参加者すべての私的な決定をまとめ上げ、「うーん、このブロックの向かう先はどうかな?」などと疑問に思ったりはしない。

先日『タイム』誌に発表されたインタビュー記事からも明らかな通り、ブテリン氏は、コンセプトとしては人間味のない分散化を好むが、実際的にはそれほど好きではないようだ。

ビットコインのような分散型ネットワークの力を頭では理解しているが、心では、彼にとって大切な正しいことをして欲しいと願っているのだ。だからこそ彼は、イーサリアムを生み出す手助けをした。

「通貨としてだけ(ビットコインを)使うことは、無駄使い」と、他の多くのビットコイナー同様に考えたからだ。イーサリアムは優れたテクノロジーであり、個々の人間のクリエイティビティが花咲くには素晴らしいプラットフォームである。

しかし、それも永遠には続かないかもしれない。ブテリン氏によれば、「何年もほったらかしにすることはできず」、暗号資産全般、そしてイーサリアムが「間違って使われる」ことを許すことはできないのだ。

「即座に利益を出すもの」に重点を置くことは許されず、「声を上げる」必要がある。「ヨットやランボルギーニを買っているだけの人々がたくさんいるのは間違いない」のだ。(ヨットやランボルギーニを作っている人には申し訳ないが、ブテリン氏がOKを出すモノやサービスを提供する仕事を見つけられるはずだ)

さらに一般的に、ブテリン氏の言葉で言うと、「暗号資産のゴールは何百万ドルもの猿の画像でお遊びすることではない。実世界で意義のある影響をもたらすこと」なのだ。(猿の画像や、その他人々が買いたがるコンテンツを作って生計を立てる方法を見つけたアーティストには申し訳ない)

皆にとって何が最善か?

ブテリン氏やイーサリアムチームの仲間たちは、大きなチャンスを作り上げ、世界に大いなる成功をもたらしたし、それはこの先何年も続いていくだろう。彼らがいてくれて、私たちは本当に幸運だ。

しかし彼らは、自分たちが皆のために何がベストかを知っていると思うのを止めなければならない。自分たちが作ったプラットフォームで他の人たちがしていることをジャッジするのを止めなければならない。

人々は、真っ直ぐに右肩上がりに前進してはいかないし、イノベーションのクネクネとした展開は、線にすら見えないだろう。前述の「知的パワーセンター」は、人類の繁栄を最大限にするために、他の人たちの時間、エネルギー、資源がどのように分配されるべきかを知っていると考える、賢く善意のある人たちであふれている。しかし、彼らはそんなことを知らないし、知り得ない。誰もそんなことを、知ることはできないのだ。

ブテリン氏とイーサリアム支持者たちはすでに、自らが正しいと考える結果を生じさせるために、集団で自分たちの好む方に物事を進めようとする意志を見せた。

この先、同じようなことが繰り返されないことを、私は願っている。彼らがイーサリアムを自由に発展させ、ユーザーベースにその方向性を決めさせることを願っている。しかし、ブテリン氏の次の発言からは、そうはならないと感じている。

「テック系の仕事、リサーチ、開発、公共財が、結果として生まれてくれば最高だ。だからこそ今、戦いが起こっている。私たちはしっかりと意図を持って、正しいことがより多く起こるようにしなければならない」

エリック・シール(Eric Seal)氏は、プロの不動産開発業者で、アマチュアのビットコイン推進者である。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:CoinDesk
|原文:Vitalik Buterin Should Let Ethereum Be Ethereum