テラ崩壊:サトシ・ナカモトのミッションの行く末は?【コラム】

ビットコイン(BTC)の最初のブロック「ジェネシスブロック」は、歴史上大切なものだ。その理由は、最初の50のビットコインが含まれていたからであるのはもちろんだが、そのハッシュコードに次のメッセージがコーディングされていたからでもある。

The Times 03/Jan/2009 Chancellor on brink of second bailout for banks(タイムズ紙 2009年1月3日 首相は銀行への2度目の救済措置の瀬戸際)」

ビットコインの生みの親サトシ・ナカモトが、2008年の金融危機にまつわるこの新聞の見出しを刻み込むのを選んだことは、間接的なミッションステートメントだと考えられている。

金融システムは再設計が可能で、お金はコードに書かれた変更不可能なルールに従い、操作を受けることなく、金融は申し分なくスムーズに流れることができるはずだ、というものだ。

しかし、暗号資産(仮想通貨)業界は、トラストレスで平等主義なデジタルエコノミーを構築する代わりに、内紛に悩まされているようだ。欲に突き動かされて、人々が複雑で危険な利益最大化戦略を追求するようになってしまった旧システムの、テック版を作ってしまっただけに見える。

それも、権力のある組織を持つメリット抜きで。

テラの没落

かつては時価総額第3位のステーブルコインであり、Anchorプロトコルでは預け入れに対して20%もの年利を提供したことで名を馳せ、多くの人を大いにリッチにするはずであったTerraUSD(UST)の破綻は、決定的なものとなりそうだ。税金による救済措置はないのだ。

テラの崩壊は、8.3%のアメリカでのインフレ率と相まって、暗号資産市場全体で売りを促した。ビットコインは今や3万ドルを割れ、アルトコインも同様に低迷している。

USTはそのアルゴリズム型の性質ゆえに、テラのネイティブトークン、LUNAと並んで値動きするようになっている。USTと米ドルのペッグが崩壊したために、LUNAの価格も暴落。わずか2日の間に99%以上値下がりし、1セントを割り込んだ。USTとLUNAは今年、時価総額が合わせて600億ドルにまで達していたが、今では70億ドルを切っている。

その波及的影響は、姿を見せ始めたばかりだ。USTを担保として使うイールド・アグリゲーター(預けたトークンで自動的に運用してくれるサービス)が存在しており、他にも今、USTを基盤としたどのような複雑な金融戦略がリスクにさらされているか、全貌は見えていない。人々は生涯をかけて貯めてきた資産を失い、涙を流す人も、落ち込む人たちもいる。

テラを手がけるテラフォーム・ラボ(Terraform Labs)のCEOドー・クォン(Do Kwon)氏は昨年、CoinDeskの「仮想通貨で最も影響力のある人物トップ10」に選出された。他の優れたテック起業家と同じように、彼もカルト的人気を誇り、人々はその成功を見て、USTが最も巧みに設計された金融プロダクトの1つだと考えていた。

USTの破綻の経緯や理由は、いまだに解明されている最中だ。しかしクォン氏は、分散型金融(DeFi)プロトコル「カーブ・ファイナンス(Curve Finance)」上の競合プロジェクトの流動性を枯渇させることで、USTを世界でも有数のステーブルコインの1つにするという、今年発表した計画によって、強力な敵を作ってしまった。さらにツイッター上でも威張り散らして、事態を悪化させた。

クォン氏は、LUNAの価格に数百万ドルの賭けをし、競合ステーブルコインのダイ(DAI)が「自らの手にかかって死ぬ」と宣言し、USTの設計に潜む脆弱性を指摘した批判的な人たちに悪態をついた。

ブロックチェーン分析によってすでに、USTの破綻の一因が妨害工作であったことが判明していることも驚きではない。テラフォーム・ラボがカーブ上の新しい「4pool」に資金を入れるために、資産を引き出した1分後に、誰かが8400万ドル相当のUSTを売却したようなのだ。それによって、USTはペッグを失い、パニック売りと清算が雪崩のように始まった。

初心を胸に刻んで

クォン氏と彼のチームは今、解決策を見つけようと奔走している。多くの人は、とりわけドルパリティ(1UST=1米ドルという等価)を回復するまでトレーダーがUST売買を繰り返すようになれば、もう救いようがないと考えている。

クォン氏は、暗号資産界のある有名人を思い起こさせる。ワンダーランド・マネー(Wonderland Money)の創業者で、有名な開発者のダニエル・セスタガリ(Daniele Sestagalli)氏だ。一連の清算と、彼のビジネスパートナーが有罪判決を受けた犯罪者であったという事実が明らかになったことで、彼のプロジェクトは完全に信頼を失った。セスタガリ氏はいまだに、復活できていない。

暗号資産業界は、サトシ・ナカモトの最初のメッセージを覚えておくのが良いだろう。暗号資産は、事態を改善させるためのものだったのだ。何度も何度も失敗を繰り返してきた第三者を信頼する必要なく、人々が手持ちの資産を保管したり、増やしたりできる方法を提供するはずだったのだ。

テラから学ぶ教訓によって、皆が共存する理想的状況がすぐに実現すると考えるほど、私も甘くはない。しかし、ビットコインには強さが見られ、ビットコインやその他の質の高い資産が今回の圧力にも耐えるだろうという確信も目にしている。その限りは、サトシ・ナカモトの夢は生き続けるだろう。

ネイサン・トンプソン(Nathan Thompson)氏は、暗号資産取引所バイビット(Bybit)の主席テクニカルライターを務めている。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Satoshi’s Mission, LUNA, UST and Where Crypto Went Wrong