過酷な「ダウンラウンド」に備える【オピニオン】

ベンチャーキャピタリスト(VC)というのは、暗号資産(仮想通貨)個人投資家と同様、基本的には直感にもとづいて投資を行う。

時にこれは、「モメンタム(勢い)」とも呼ばれる。成長中の企業や、値上がりしているコインはこれまで上手くいっているのだから、これからも好調に違いない、ということだ。

VCやトレーダーは時に、基準を設定し、プロジェクトに投資する前には、この基準が達成されているかをチェックする。ベンチャーキャピタルでは「デューデリジェンス」と呼ばれ、暗号資産の世界では、自分でリサーチするということだ。

「ダウンラウンド」のダメージ

投資には明らかに、心理的な側面がある。スタートアップが「ダウンラウンド」で資金調達をすることほど、個々の会社や広範な市場心理にとって悪影響を与えるものはほとんどない。

ダウンラウンドとは、以前より低い評価額で資金調達をすることで、過去の投資ラウンドで支払った株価が、値下がりしていることを意味する。

「シリコンバレーのベンチャー資金調達において、『ダウンラウンド』はなんとしてでも避けたいものだ」と、ウォール・ストリート・ジャーナル誌は伝えている。「スタートアップでは、ダウンラウンドのダメージは、採用やすでにいる従業員の士気、顧客、パートナーなど、多岐にわたると懸念している」と説明する。

デジタル資産に特化したメディア、ザ・ブロック(The Block)のフランク・チャパロ(Frank Chaparro)氏は、暗号資産レンディングを行うブロックファイ(BlockFi)が、10億ドルの評価額で資金調達をすると報じた。これは、前回の資金調達ラウンドにおける30億ドルの評価額を下回るものだ。

これは、今回の暗号資産市場下降サイクルが始まって以来、最も大きな会社のダウンラウンドだ。弱気ムード、差し迫った金融引き締め政策、そしてトークン市場を加速させてきたベンチャーキャピタルからの資金の撤退の可能性を象徴している。

チャパロ氏は、「わずか数カ月前のベンチャーキャピタルの活発な活動」を考えれば、「驚くべき展開」だと指摘している。

ブロックファイの場合には、高利回りのレンディングプロダクトに関して、複数の証券規制当局に1億ドルの罰金を支払ったことを受け、中核事業にまつわる規制上の不透明感もその要因となっているのかもしれない。

それでも、ブロックファイはまだ、10億ドルの評価額を誇るユニコーンだ。スタートアップやテクノロジー企業、ベンチャーキャピタルに関する情報提供を手がけるCBインサイツによれば、今年初め、ユニコーン企業の数は900を超えており、そのいくつかは暗号資産業界の企業だった。2015年には、その数はわずか80だったのだ。

暗号資産業界では、これからもダウンラウンドが続く可能性が高い。人々がそのことを考え続けるからということだけが理由だったとしてもだ。勢いの印象は、スタートアップにも市場にも影響を与える。スタートアップにおいて、ダウンラウンドは後退のように感じられるため、従業員の士気を下げる可能性がある。

外部の投資家に対しては、事業の見通しが芳しくない操業停止の可能性もある、というメッセージとなる。非公開会社は金融データを公開する義務がないため、その経営状況を推し量るのは困難なのだ。

市場においては、弱気ムードによって、より新しいスタートアップが資金調達することが、一段と困難になる可能性もある。しかし、暗号資産スタートアップは文字通り自分でトークンを発行できるため、その仕組みは伝統的企業とは少し異なる。

ダウンラウンドが発生する時期というのは稀ではなく、周期的に起こるものだ。アップラウンド(前回よりも高い評価額での資金調達)よりもダウンラウンドで資金調達する企業の方が多かった前回の時期は、新型コロナウイルスのパンデミックが始まった頃にあった。

しかし、テック系スタートアップに特化したメディア、テッククランチ(TechCrunch)では、2015年と2018年にもこのような現象があったと報じている。楽観的な見方をするなら、空騒ぎに対する一時的な抑制と捉えることもできるだろう。

沈まずに

CoinDeskが伝統的テック市場を対象にするメディアだったのなら、低迷を緩和しようとする「スマートな創業者たち」に賢いアドバイスを提供するところかもしれない。

収益性を確保するためにどれほどのランウェイ(資金不足に陥るまでの猶予期間)が必要なのかチェックすること、十分な資金が手元にないならば、ダウンラウンドに悪いイメージがつきまとっても調達をすること、などについて論じるかもしれない。(しかしその前に、まずは希薄化防止条項をチェックしよう!)

現実的になることの大切さについて語るかもしれない。市場が熱狂している時、投資家が実質的にお金を投げ捨てているような状況の時には、かなり好条件で資金調達が可能だ。

しかし、今のように厳しい時期には、取締役を解任したり、投資家から戦略や方向性についてもっと口出しされることを覚悟しなければならないかもしれない。会社を存続させるために、ベテラン投資家の意見に耳を傾けなければならないとしたら、そうするべきだ。

「フラットラウンド(前回と同じ評価額での資金調達)が、新しい時代のアップラウンドだ」と言ったり、「昨日資金調達しておくのが最善だっただろう」とでも言うかもしれない。あるいは、ダウンラウンドをすることで過去に「勢いを失った」数十億ドル規模の上場企業をリストにして掲載するかもしれない。

ダウンラウンドは暗号資産の世界では大したことがないと言っている訳でも、暗号資産投資家は心理的要素に影響を受けにくい、と言っているのでもない。

本当に分散化した事業やプロトコルを築き上げようとする場合、そもそも会社というものの考え方が、まったく異なってくるのである。私にできる唯一のアドバイスは、最初からベンチャーキャピタルからの資金を受け取るべきではない、というものだ。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Preparing for the Dreaded Down Round