前例から占う暗号資産規制の未来【コラム】

前例から占う暗号資産規制の未来【コラム】

ブロックチェーンエコシステムにおける大きな不確実性の1つは、将来的な規制の種類と規模。おそらく唯一確かなことは、コンプライアンス上の課題がますます増えることだ。

しかしこれは、おおむね好ましいこと。公正なルールと公平な条件が整えれば、エキサイティングで新しいエコシステムに参入したいと望む、膨大な機関投資家の資本が解き放たれる。

新しいテクノロジーのためのルール

ここで問うべきは、「いつ?」ではなく「どれくらい?」だ。現行の金融システムに存在するすべてのルールを完全かつ同様にブロックチェーンエコシステムに当てはめることはきわめて難しいだろう。

例えば現行システムでは、銀行は顧客についてかなりの情報を持ち、一般に公開することなく情報を銀行間で共有できる。プライバシーを守るためのツールや対策は急速に整ってきているが、ブロックチェーンは、元来、プライバシーをサポートするようにはなっていない。

さらに、ブロックチェーンエコシステムの中には、既存の金融システムに類似するものが存在しないツールもある。例えば、数千人ものユーザーの資産を含む、分散型で自動化された流動性プールで取引している場合、取引相手は誰になるのだろう?

政治も規制の発展に一定の役割を果たす。暗号資産やデジタルトークンでの取引が突然違法になったり、流動性を失って非現実的なものになったら、どうなるだろう? すでにデジタル資産を保有している人口の10〜20%は資産を没収されたように感じるはずだ。

事実、自動演奏ピアノからライドシェアまで、新しいテクノロジーが既存企業と同じビジネスモデルと制約に縛られることはめったにない。これは今まで何度も何度も繰り返されてきたことだ。

ナップスター(Napster)とビットトレント(BitTorrent)は、音楽と動画の海賊版を大規模に実現した。シェア行為の大半は明らかに違法だったにもかかわらず、アルバム1枚に正規の値段を支払っていた時代に私たちが戻ることは決してなかった。好きな曲だけを聞いたり、音楽や動画のサブスクリプションサービスがメディアのあり方を変えた。

ライドシェアサービスでも同じことが起きた。タクシー会社は多くのアメリカの都市において、空港への公共交通機関の整備などを阻む強力なロビイストだったが、今では顧客と運転手の評価システムを備えたライドシェアサービスが絶大な人気を集めている。ライドシェアの登場によって多くの都市ではサービス水準は向上し、価格は下がった。

ニューヨーク市が良い例だ。ライドシェア登場前には、タクシー免許証は最高100万ドルもした。現在、ライドシェアは「完全に規制を受けている」にもかかわらず、タクシー免許証は2013年のピーク時に比べ、80%近くも価値が低下している。

消滅ではなく適応

暗号資産とブロックチェーンにも規制はやって来る。しかし、ラジオや音楽、ライドシェアなどの前例はすべて、消滅ではなく、適応があったことを示している。最も重要なことは、歴史を見ると、適応によって、かつて王座にいたものたちが再び権力の座に返り咲くことはなかったということだ。

つまり、現在の規制をめぐる不確実性は、金融業界の既存リーダーたちの先行きが怪しいことを意味する。まず、新しいプレーヤーが新プロダクトを展開しようとするときの障壁は、既存プレーヤーが直面したときよりも低くなるだろう。コストは低く、現在必要とされている複雑で時代遅れのシステムを開発する必要はない。第2に、新しいプレーヤーは、既存プレーヤーよりも一段と大きなリスクを取ることができる。

伝統的金融サービス事業の既存プレーヤーにとって、規制当局との関係は複雑で、多くの場合、さまざまな分野に広がっている。ある分野で規制当局の怒りを買えば、規制や罰則がはるかに明確な他の分野に影響が及ぶかもしれない。スタートアップにとって、物事はよりシンプルだ。

プロダクトがないことは、収入も未来もないことを意味し、それは良くないことだが、裁判で規制当局に負け、撤退することと変わらない。つまり、ビジネスの方向性はリスクを取る方に傾く。実際、一部の新規参入者たちはすでに、タイムリーに申請に応じなかったとして、規制当局を訴え始めている。

スタートアップにとっての道のりは明確でシンプルかもしれないが、既存企業にとってはより複雑。これまでのところ、企業はさまざまな複数のオプションを試している。

1つ目は、暗号資産ネイティブ企業の株式を一部分、支配的にならない程度に保有するというもの。直接責任を負わずに、暗号資産に投資できる。

2つ目は、規制がより緩やかな国や地域でビジネスを構築し、素早いグローバル展開を実現するための十分な経験とスキルを積もうとするもの。

そして最後は、別法人を組織して、リスクとビジネスを本体から遮断するものだ。

現在まで、明らかに勝利を収めている戦略はないが、こうしたさまざまなアプローチが採用されていることは、既存企業の市場に対する切迫感の高まりと、長期的な顧客喪失の懸念を反映している。

ポール・ブローディ(Paul Brody)氏:EY(アーンスト・アンド・ヤング)のグローバル・ブロックチェーン・リーダー。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Gaming Out DeFi’s Regulated Future

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