肥大化する米国の学生ローン、NFTを使って僕が訴えたいこと【オピニオン】

米国の学生ローンの返済免除の話題は、学生を支援することを願う一方で、学生たちに不名誉な気分を抱かせることになるかもしれない。

学生ローンにまつわる不名誉感

多くの人が、返済免除に伴う出費は国として対処することはできないと考えている。しかし、成功するためには大学に行かなければならないと、社会が若者たちに圧力をかけていることは認めようとはしない。さらに、学生ローンの金利は、ほぼあらゆる事業者向けローン、さらには1980年代以降の住宅ローンの金利よりも高い。

これらの事情、さらに公立の学校では金融に関する教育が行われないことも相まって、学生ローンの借り手たちは恥や後悔の念に悩まされる。私自身も、複数の教育機関に通った経験を持ち、多額の債務を抱えているため、この特別な体験についてNFTを活用した作品を生み出したいと考えた。

私のNFTコレクション「College Admission」は、パフォーマンスアートの作品だ。学生として在籍した9つの大学に出向いて、卒業証書や成績表を持ってキャンパスで写真を撮った。

それぞれの写真の価格は、それぞれの大学に負っている債務と同じ額で、債務を抱えていない大学を表すNFTのオークションは、1USDコイン(USDC)からスタートする。

このコレクションでは、公立と私立の教育機関の間の非常に大きな経済格差と、大学院教育と学部教育の間の亀裂を示そうとしている。

このプロジェクトで私が目指しているのは、学生ローンを抱えている人たちで、高等教育を求め、金銭面での後悔を抱えている人たちを励ますことだ。アメリカ文化において当たり前の存在になってしまった学生ローンに、批判的な目を向けたいのだ。

NFTを手段に選んだのは、教育の未来としてブロックチェーンに信頼を寄せているからだ。正直に言って、私が一部の大学から得られたのと同じ程度のものを、他の誰かが手にできるというのが、おかしくてたまらない。私の場合は、学位を示す紙切れ。NFTの買い手の場合は、その学位の写真だ。

このプロジェクトを開始する前に、何カ月も熟考し、その中で次のことに気がついた。学生ローンを抱えることに伴う不名誉は、大学の費用を賄う十分なお金を持っていないという恥ずかしさだけでなく、どんな学位にどれだけのお金を使ったかを明かさなければならないという恥ずかしさも根底にあるのだ。

ジャーナリズムの学位に10万ドル使うことは、美術学修士に10万ドルを使うこととははるかに異なっている。私は2つの美術学修士を持っているから、それが分かる。

私はあまりに長すぎる在学期間中に、9つの大学に通った。コミュニティカレッジに公立大学、大学院プログラム、早期入学プログラム、私立大学。私は教育や学術界が好きで、「大学院教育」に伴う安心感を切望していたために、これだけ多くの大学に通うこととなった。私は高等教育のあらゆる側面を目の当たりにし、経験から多くの知見を学んだ。

私が学生ローンを負っているのは、学部教育のために通った大学ではない。大学院教育のために通った3つの大学に負債を負っている。学生ローンの総額は18万ドル。その半分以上(11万ドル)は私立大学、残りは2つの公立大学からのものだ。

若者たちの搾取に終止符を

このプロジェクトは、恥と脆弱性に関するものだ。多額の学生ローンを抱えることに伴う最も大きな問題は、(人生においてポジティブな立ち位置を確保することを妨げる壊滅的な負債を除けば)学生ローンを抱える人たちに対して、アメリカ全体が感じさせている恥辱だ。

私たちは何世代にもわたって、大学に行かなければ、アメリカの経済で安全な場を確保することはできないと皆に言い続けてきた。アメリカは大学を、どこへでも行ける魔法のチケットのように扱っているの対し、大学以外の進路を選んだ人たちを恥じいらせ、怖がらせている。さらに、搾取的な貸付慣行が、学生たちを債務危機へと追い込み、退職後に向けた貯金をはるかに難しくしている。

私は知識を高めることや批判的思考を確固として支持しているが、学生ローンにまつわる搾取的な貸付慣行は見直す必要があると考えている。納税者たちが負担を負っているという点から、連邦政府が、州から助成金を受け取る公立教育によってお金を節約しながら、自分を高めたい若者を搾取していることに焦点を移す必要がある。

このNFTコレクションによって私は、欲しがるように周りから言われたものを追い求めることに対して、他の人たちが感じる罪悪感を軽くしたいと考えている。悪いのは高等教育を追い求めることではなく、そこから多額の利益を出している銀行などの組織なのだ。

私は高等教育の追求は素晴らしいことだと思っているし、市民を教育することは、文明の機能だと考えている。私はまた、政治家たちが票を得るために、自分達の立場を改善しようとする若者を悪者扱いしようとする国に暮らしているとも感じている。高等教育の財源にまつわる偽善を批判し、学生ローンを借りることに伴う不名誉感を払拭する必要があるのだ。

アレックス・フルック(Alex Hluch)氏は、ロサンゼルス在住のプロデューサー、ライター、コメディアン。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Alex Hluch
|原文:I Made an NFT Collection to Represent My Student Loan Debt