TOKEN2049で見えた業界の変化とパラダイムシフトの兆し【コラム】

Web3の世界中のリーダー達が集まるプレミアムなクリプトイベント「TOKEN2049 Singapore」が9月27日と28日の2日間、シンガポールで開かれ、コインチェックのチームも参加した。

Web3・クリプト(暗号資産)の最前線となるこのイベントでは、多くの業界のグローバルリーダーが登壇し、各会場で活発なディスカッションが行われた。本イベントレポートでは、当社チームが参加したキーセッションのサマリーと共に、イベントの概要を写真と共に伝えていきたい。

「TOKEN2049」とは

TOKEN2049は、毎年シンガポールとロンドンで開催されるクリプト関連イベント。2日間のメインイベント期間中には数十のミートアップ、ワークショップ、ネットワーキングイベントが開催される。

クリプト・Web3を牽引する起業家、投資家、開発者が集まり、グローバルな視点でエコシステムやビジネスチャンス、業界トレンドについてのディスカッションが行われる。

(セッション開始前のロビーは世界中から集まった参加者で溢れていた)

2020年代初頭と1970年代の共通点

クリプトのメインプレーヤーの近況報告から業界のトレンド、投資ファンドからみたクリプト業界について、機関投資家とクリプトといったテーマセッションが行われた。参加したセッションからいくつかを紹介する。

パンテラ・キャピタル(Pantera Capital)は、約1,800億円(12億5,000万ドル)規模の新たなブロックチェーンファンドの設立を計画しているが、同社の創業者兼CEOのDan Morehead氏は、2020年代初頭と1970年代を比較すると、戦争などによる不安定な国際政治状況やインフレの加速、失業率の悪化といった、いくつかの共通した政治的・経済的事象が存在すると述べた。

AppleやMicrosoftは1970年代に創業され、2003年のITバブル以降に急成長し、GAFAMは世界的に影響を持つ企業になった。それと同じ流れがクリプトバブルでも起こるのではと話した。クリプト業界ではITバブルをアナロジーとすることが多く、そこからも将来性をまったく悲観していないことが垣間見える。

現在のクリプトはプロトコルが競争している段階であり、インターネットの歴史でいえばOS競争の頃に似ている。90年代はMicorosoftがOSシェアのほとんどを占めていたが、時代を経てシェアは変わった。

クリプトのプロトコルにおいては、現在はビットコインとイーサリアムのシェアが高いが、同様のことが起こると考えられる。これから様々なアプリケーションが登場し、その中から急成長するものが出てくる。それは既存のIT企業とも違う運営形態を取り、想像もつかないようなユースケースが生まれると語った。

GameFiで利用できるNFTに注目

イーサリアムのレイヤー2であるImmutableの共同創業者兼社長のRobbie Ferguson氏、ベンチャーキャピタルのドラゴンフライ・キャピタル(Dragonfly Capital)でパートナーを務めるMia Deng氏、投資ファンド6529 NFT Fundのパートナー、Anthony Cesar氏は、それぞれの立場の視点でディスカッションを進めた。

2021年はYuga LabsやAZUKIなどのファンコミュニティとしてのNFTが盛り上がったが、今後はGameFiなどのメカニズムで使うためのNFTが注目されると話した。

GameFiが盛り上がるにはトークノミクスの設計が重要であり、NFTを使ったことがない人をトークノミクスに巻き込むには、DAOでの情報交換や試しに買ってもらうといった入口が大切であると話した。

DeFi(分散型金融)の分野における潮流については、Aave創業兼CEOのStani Kulechov氏や、Uniswap Labsで最高法務責任者を務めるMarvin Ammori氏らが議論を交わした。

Kulechov氏は、「DeFiで安定的な利回りを提供するためには、従来の金融では個人が関われなかった収益ポイントに資金提供できる機会を増やしていくことが重要である。現行の金融システムは非常に効率が悪かったり、無駄な部分がある。それらを効率的なビジネスモデルを提供することで解決し、新しいプロダクトに個人が資金提供できるようになることで公平さが増していく」と話した。

UniswapのAmmori氏は、DeFiは金融業界にとってのイノベーションセンターになる可能性があると指摘した上で、中央集権的な金融で起こる「いかに人々に公平な金融インフラを提供できるか」といった問題を解決する唯一の解決策であると述べた。

暗号資産取引サービス事業における論点

ギャラクシー・デジタル(Galaxy Digital)のMike Novogratz CEOと、ブルームバーグ(Bloomberg)のHaslinda Amin氏が加わったセッションでは、今回のクリプトウィンターの過ごし方と乗り切り方が論点となった。Novogratz氏はTerra(Luna)との関わりも大きく、業界からの注目を集めたが、「クリプトのボラティリティは避けて通れない」と自身の見解を述べた。

機関投資家のクリプト市場への参入状況と、今後の動きを議論するセッションには、CMEグループで株式・FX商品事業のグローバル統括を務めるTim McCourt氏、BitMEX CEOのAlexander Höptner氏、Coinbaseでアジアパシフィック地区の機関投資家向け営業をリードするKayvon Pirestani氏が参加。

Coinbaseの機関投資家向け事業が大手伝統金融にサービス提供を開始したことや、BitMEXがプロユーザーにもアプローチを開始したタイミングでのセッションとなり注目が集まった。

機関投資家の市場参入は続くか?

クリプト市場に積極参入するヘッジファンドや、資産運用会社などの機関投資家は多いとは言えないが、継続的な参入は見られており、取引量の増加につながっている。この流れが加速するには、機関投資家顧客がクリプトへの理解が進み、市場参入を促す仕組みが整備されることがカギとなると話した。

CoinbaseのPirestani氏は、「機関投資家は、様々な運用の選択肢を持つビットコインとイーサリアムを入口としてクリプトに参入し、そこで利益が上がれば他の通貨へ視線が移したり、ステーキングやレンディングなどを始めるという仮説を立てている」と話した。

BitMEXのHöptner氏は、「クリプトの相場は良くないが、取引量はそれほど落ちていない。これは、ここ数年でリテール以外にも従来の金融機関などのの参加者が増えたことも関係している」とした上で、「これは序章に過ぎず、間もなくより多くの機関投資家が参入し、新たな世界が開かれる」との見解を示した。

また、クリプト業界では新しい概念や技術が出てくると、即座に新しいビジネスモデルや企業、取引所が誕生し、強烈な競争が起こり、統合が起こっていることにも言及。

「生き残りをかけて、主要なプレイヤーは様々な分野ごとに統合を行い、多角化していくだろう」と話した。

ブロックチェーンデータ分析ビジネスの展望

ブロックチェーン上のデータを分析するサービス事業は少なくとも過去数年で、その規模を拡大させてきた。この事業エリアに焦点をあてたセッションには、Nansen CEOのAlex Svanevik氏、CryptoQuant創業者兼CEOのKi Young Ju氏、Chainalysis共同創業者兼CEOのMichael Gronager氏が登壇した。

2、3年前と比較してクリプトのユースケースもトランザクション・データ量も増え、マーケットの分析もより複雑になっており、ユーザーに合わせたサービス設計が必要不可欠だという。

FTX、Bybit、Deribitの幹部たち

FTX、Bybit、Deribitの経営幹部たちもTOKEN2049に姿を見せた。

FTXのCOO、Constance Wang氏は、同社の社員数が300人に拡大し、ユーザー数はグローバルとUS合わせて900万人、取引量は毎日180億ドルを達成したと述べた。

Deribitは2019年、先物市場の流動性が安定した事でオプション市場が急成長し、2020〜21年はビジネスが大きく広がったと、同社のChief Commercial Officer、Luuk Strijers氏はコメント。

OKXのLennix Lai氏は、ビットコイン価格とユーザー数の伸び・取引量の増加は、必ずしも相関があるわけではなくなってきていると考察し、クリプトウィンターの渦中でもステーキングやセービングなど、取引以外のプロダクトに力を入れると話した。

Bybit共同創業者兼CEOのBen Zhou氏は、クリプトウィンターだからこそ、次の波に備えて採用を強化し、プロダクト開発を進めたいと強調。FTXのWang氏は、「中央集権型・分散型問わず「顧客体験」を高める為に動いて行きたい。多くのユーザーから高速で膨大な注文を円滑に処理できることを求められるのではあれば、それに答えるソリューションを選ぶだけ」と語った。

クリプトを取り巻く変化についての議論も行われ、機関投資家の存在やマクロ経済からの影響についての意見が交わされた。

FTXのWang氏は、機関投資家のクリプト市場への影響については潮流を作るほどのインパクトはまだないとした上で、2、3年前に比べて機関投資家へのクリプトの認知は広がっている状況で、従来の市場と何らかの相関関係が生まれていてもおかしくないと話した。

マクロ経済のネガティブなインパクトについては必要以上に恐れることなく、クリプトエコノミーのサイクルの中で顧客体験を良くするために、準備を進めるだけだとした。

BybitのZhou氏は、クリプトはデジタル上での経済活動の新しい世界へのゲートウェイとなると強調。そのためには、「教育」が重要となり、クリプトがどういったものかについて、次の世代に伝えることも大事なミッションの一つであると話した。また、規制についても、クリプト市場の成長とプレーヤーの尽力によって良い方向に向かいつつあるとも話した。

企業イメージを反映させたブース展示

メインプレーヤー達のブースは、久しぶりの大規模なクリプトイベントということもあり、どこも賑わっていた。

(Polkadotのブースの隣に並ぶAstar Network)

新たな潮流が始まる兆し

コロナ禍以降で最大のクリプトイベントとなった今回、世界中からクリプトのメインプレーヤーが集まっていました。久しぶりに顔を合わせ、最近の動向や展望について話すことができた。

また、今回のイベントを通じて大きく「潮目」が変わっていること感じ、Gartner社発表の「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2022年」にもあるように、熱狂的な波を越え、ブロックチェーン・クリプトのテクノロジーとしての成熟と普及へのフェーズに徐々に入っていると感じた。

シンガポールには今までのクリプトのプレーヤーとは異なるゲーム会社や、テックカンパニーといったプレーヤーの存在感も感じられ、ここから新たな潮流が出てくることが予想される。エコノミクスの中で、クリプトウインターを越えて「春めいた心躍る相場」になることを期待したい。


中川 陽:コインチェック 執行役員/1988年4月JPモルガン証券会社に入社。債券、デリバティブのトレーディング業務に従事。2002年にマクロ・ヘッジファンドの設立に参画。2006年創業メンバーとしてミンカブ・ジ・インフォノイドを創立。2011年マネックスグループ入社。執行役員、GMC室長。香港、オーストラリア子会社のマネジメント業務に従事。マネックスグループのブロックチェーン及び暗号資産の投資責任者、マネックスベンチャーズの投資委員を務める。2021年コインチェックの執行役員に就任。


|編集:佐藤茂
|トップ画像:シンガポール/Shutterstock.com