暗号資産市場で注目される「取引分析」とは──テクニカル分析の進化系か【基礎知識】

テクニカル分析は、暗号資産トレーディングが始まる前から論争の的になっていた。

馴染みのない人のために説明しておくと、テクニカル分析とは、歴史的値動きに基づいて、将来的な値動きを予測しようとするもの。通常は、価格データの中で繰り返し可能なパターンを探すことによって行われる。

テクニカル分析支持者たちは、チャートのパターンが自己達成的になり得ると考える。同じデータと分析に基づいて投資を行うトレーダーの動きを、価格が反射するからだ。一方の懐疑派は、そのようなパターンには何の意味もなく、テクニカル分析はある種の星占いだと考えている。

2021年の暗号資産強気相場の時には、テクニカル分析ブームが巻き起こった。暗号資産トレーディングの世界は、フィボナッチ・リトレースメント抵抗レベル、フラッグ、ペナント、カップ、トライアングルなどの形をトラッキングする線が引かれた価格チャートで溢れていたのだ。

テクニカル分析はデタラメなのだろうか?完全にそうとは言えない。もちろん、過去の値動きは将来の値動きについて、何らかのことを伝えてくれる。これは何にでも当てはまることだ。何かの過去を知ることは、将来の予測の精度を上げるのに役立つ。

しかし、テクニカル分析が伝えてくれることを見極めるのは、簡単ではない。そして予測材料となる様々な図形が何かの保証になるのかについて、誰も確証が持てないようだ。

暗号資産トレーダーたちは、テクニカル分析に頼ることを余儀なくされてきた。株式のモデリングに使われるキャッシュフローのような、予測に使う他の材料があまりないからだ。

さらに、暗号資産の世界では、価格データは簡単に手に入る(それがブロックチェーンの要なのだ)。しかし、次世代の暗号資産分析ツールによって、新たなる分析が台頭してきている。取引分析だ。

よりスマートな分析

伝統的金融の世界では、取引データは取引所やブローカー、銀行、規制当局によって守られている。誰でもアクセスできるものではなく、大手企業はそれを手に入れようと、大金を支払っているのだ。暗号資産の場合、取引データはオンチェーンで公開されている。しかし、誰でもが利用できるわけではない。

未加工のブロックチェーンデータを手作業で理解しようというのは、事実上不可能だ。データを使えるものにするには、処理・分析が必要だ。高度なブロックチェーン分析ツールが、その役割をになっている。

オンチェーンデータと取引分析を組み合わせることは、暗号資産の世界でも、伝統的金融の世界でもかつてなかったものだ。取引データと検索、分析のためのツールにアクセスできることで、知見の宝庫の扉が開くのだ。

プロジェクトの内部に携わり、その内幕を知っている人たちなら、値動きの説明は多くの場合シンプルで、鍵となる参加者の売買に基づくことを知っている。最大規模の保有者が大量に売却すれば、値下がりする可能性が高い。反対に、大口の新しい買い手がポジションをとれば、値上がりする可能性が高いのだ。

それは、値動きを見ることだけに限定された伝統的なテクニカル分析では、提供できないような知見である。取引データは、暗号資産の値動きを生み出す基盤となるアクティビティを伝えるデータなのだ。

具体的な例を見てみよう。テスラが15億ドル相当のビットコイン(BTC)購入を発表した時には、BTC価格は即座に10%値上がりした。その取引は発表の前に実施されたもので、それを基にトレーディングができたはずだ。

市場参加者の売買行為をトラッキングすることは、取引分析の最もシンプルなやり方だが、他にも数多くの手法がある。取引所からの流入、流出量、機関投資家のポジション、歴史的なパフォーマンス、マーケットメーカーのアクティビティなどを使って、トレーディングに関する決断を左右する市場のモデルをまとめることができる。

例えば、セルシウス・ネットワーク(Celsius Network)がユーザーの預金引き出しを停止する数日前、同社は清算を防ぐために、何億ドルもの資金を分散型金融(DeFi)ポジションへと分配した。この動きはオンチェーンで見ることができ、セルシウスが困った状態にいることを示唆していた。そのデータを基に、トレーディングすることができたのだ。

ミゲル・モレル(Miguel Morel)氏は、ブロックチェーン分析企業アーカム・インテリジェンス(Arkham Intelligence)の創業者兼CEO。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Technical Analysis Is Dead, Long Live Transaction Analysis