暗号資産におけるテクニカル分析の大切さ【オピニオン】

テクニカル分析(TA)は資産価格に基づいた確かな手法と考える人たちがいる。しかし一方で、スクリーン上に表示される線と自己実現的な予言に過ぎないとして、関心を払う必要などまったくないと考える人たちもいる。

TradFi(伝統的金融)の世界で働いていた時の私は多くの場合、後者のような考え方をしていた。収益、債務、経営陣によるコメントなど、公開されているすべてのデータの意義を考えれば、ファンダメンタル分析の方が重要だと考えていた。伝説的投資家ウォーレン・バフェット氏がそれで十分と考えているなら、私たちにとっても十分なはずだという考え方が根底にあった。

現在は、逆の方向にバイアスがかかっていると認めざるを得ない。

私はまだ株式を専門にしていた頃の2018年に米テクニカルアナリスト協会公認の資格を取得して「Chartered Market Technician:CMT(公認テクニカルアナリスト)」となった。その知識の有益さを今でも毎日実感している。値動きはまったくもって予測不可能だとする、価格の「ランダム・ウォーク」理論を私は信じてはいない。データとそれを示すチャートには予測の力がある。

感情抜きの判断

テクニカル分析は、鍵となる大切な疑問に答えることに役立つ。「私が完全に間違っていたらどうするか?」という疑問だ。例えばテクニカル分析のおかげで、今がポジションを清算する時かどうかといった判断を感情を抜きにして下すことができるようになる。

何かを10ドルで買って、その価格が5ドルに落ち込んだら、逆張りをしてもっと多く買うかもしれない。「10ドルで好きなら、5ドルなら大好きになる」という発想だ。

そんな時にテクニカル分析が地に足のついた判断を助けてくれる。「価格は15ドルまで上がると思っていたが、私の判断ミスだった。清算の時だ」という風に。

テクニカル分析とは何だろうか? 私は、投資家の行動をチャートで表現したものと考えている。特定のパターンやサインが次に何が起こるかのヒントを与えてくれる。ファンダメンタル分析、テクニカル分析、クオンツ分析の三種の神器の大切な一部だ。

ファンダメンタルズのデータは、TradFiでは広く使われているが、暗号資産ではそれほど普及してはいない。多くの人にとって暗号資産の魅力とは「分散化」という性質だ。ビットコイン(BTC)にCEOはいないし、バランスシートも収支計算書も存在しない。つまり、分析の三種の神器の1つが欠けているということだ。他の2つに注目するのは理に適っている。

テクニカル分析は、チャートの分析や主観的な判断をはるかに超えた多様な要素を含んでいる。CMT取得に向けた準備期間のなかで、判断をする時に数字を重要視する点が私には強い印象を残した。

実践的な活用法

例えば、BTCはここ25日間(当記事執筆時点)で3回、ボリンジャーバンドの上部を超えたことはすぐわかる。1月にそれが起きた時には30日後にBTCは11%上昇していた。さらに取引高は、20日移動平均より少なくとも2倍以上となってから24日が経過しているが、それにもかかわらず取引高は2015年以降のBTC取引高トップ50には入らないこともわかる。

リスク管理の観点からは、ボラティリティを測るためにアベレージ・トゥルー・レンジ(ATR)を使うことが多い。

さらに一歩踏み込んで、資産のリターンおよびリターンの標準偏差を他の資産と比較検討することが私は好きだ。チャートに見られるものを別のフォーマットに抜き出すのだ。

下図のように、そうすることで1月以来のBTC、イーサリアム(ETH)、アバランチ(AVAX)、バイナンスコイン(BNB)のリスクとリターンの関係が見えてくる。興味があったので、さらにS&P500(GSPC)、ナスダック(IXIC)、グーグル(GOOG)、アマゾン(AMZN)も加えてみた。

このチャートからは、BTCはETHよりも標準偏差(リスク)は若干少なく、パフォーマンスは上回っていたことがわかる。さらに、リスクは大幅に高いが、AVAXのパフォーマンスは高水準であったこともわかる。

その他の指標、特にモメンタムや取引高を見る時にも、こうした点を心に留めておくべきだろう。さらに私は異なる期間で同様の比較をすることも多い。

つまり、テクニカル分析とは、データの分析であり、価格に特有のデータを分析することから始まる。多くの点で、資産につきまとう雑音や宣伝文句などを無視できるようになる。暗号資産業界のキーパーソンたちが今年、さまざまな問題に直面するなかで、この点はますます重要になってくるだろう。

テクニカル分析を信じるかどうかは別として、価格を無視することは難しい。さらに、価格に対する市場の反応を無視するのはさらに難しい。暗号資産市場においては、市場の反応は常に注目に値する。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:A Technical Analyst’s Take on Crypto