暗号資産の重心シフト──悲惨な1年の解毒剤とは【コラム】

年末というものは単にカレンダー上の日付であり、その翌日とは何も変わらない。それでも約束と内省の時のような気がするものだ。今回の記事が私にとっては、2022年最後のコラムとなる。先を見据えて、この先に待ち構える大きな変化を伝えるような言葉を紡いでみたいと思う。

後ろを振り返ることはしないつもりだった。最近はそればかりしていたから。しかし、今年が私たちの集団的心理に与えた影響、そしてそれがこの先に起こることの大半を形づくっていくことを少なくとも認めることなしに、前を見据えた話はできないと気づいた。

私たちが経験したこと、この先やってくることの根幹には、私たちの集団的モチベーションの中で感情が果たす役割の変化がある。このシフトは、ここ数年のストーリーを物語り、この先の私たちの焦点と価格見通しを形づくっていくだろう。明白なようでわかりにくくも聞こえるかもしれないので、説明していきたい。

2022年の痛み

まずは明白な部分から。振り返ってみれば今年は、業界関係者の大半にとってかなり感情的なものだった。個人的にはダメージを受けずに乗り切ったとしても、ダメージを受けた人を知っている可能性が高く、私たちを取り巻く憂鬱な雰囲気と恐怖から逃れることは困難だった。

私たちの多くが、賢い成功例として尊敬していたのに、自分の利益のために人々の信頼につけ込んで嘘をついたり、責任逃れをするような人たちに裏切られたような気持ちにさせられた。

そして難しいのは、そもそもどうしてそのような裏切りにあってしまったのかだ。暗号資産業界は2021年、多くのお金を儲けた。価格も取引高も上昇し、資金調達はスムーズ、皆かなり良い気分だった。

価格パフォーマンスに励まされて、私たちは本能的な防御を緩め、すごくリッチになった人たちを尊敬するようになった。リッチになることは、何か建設的なことをしているに違いないと考えたからだ。

法定通貨をベースにした指標には意味があると思っていたが、少なくとも私たちが思ったほどには意味がなかったという恐ろしい気づきが、この先に待ち構えている舞台のお膳立てをした。

つまり、価格は上昇するばかりというストーリーは私たちの気分をよくしてくれた。だが、それが幻想だと知り、有名人による裏切りが感情的なダメージをさらに悪化させ、私たちはポジティブな何かを必死に追い求めている。

テクノロジーと感情

次に、さらにわかりにくい話に移る。テクノロジーが感情に果たす役割だ。ソフトウェアとデータ構造は通常、感情と結び付けられることはないが、初期のビットコイナーの多くや、他のブロックチェーンの成長を牽引している人たちの献身を支えるイデオロギーは、他の業界には見られないようなレベルの情熱を呼び起こしてきた。

驚くようなことではない。人類に大きくプラスの貢献ができるようなテクノロジーは、帰属意識という喜びから生まれる達成感を引き起こすのだから。ロケットの発射に成功した時の管制室、ワクチンを完成させたラボなどを考えてもらえば良いだろう。

私たちの多くは、詩人ジョン・ペリー・バーロウの「サイバースペース独立宣言」の感動的な言葉を覚えているはずだ。コードの中で展開する社会的変化を理解できない人たちに抵抗する思いによって、私たちは団結した。

このような「私たち vs 彼ら」という構図は、新興の暗号資産の世界にも引き継がれ、「パーミッションレス・イノベーション」と、哲学が自らを表明する新たなツールを手に入れたという新たな気づきを背景に成長した。

集団的決意が根付いたのは、人道的な可能性のためだけでなく、脅威を感じたか、あるいは気にもかけなかった従来の参加者たちからの軽蔑的な抵抗のためでもある。共通の大義が、レジリエンスと急速な前進を促す感情的な絆を生み、その絆は今でも継続している。私たちの大半は、自分たちの取り組みが重要だと強く信じている。

ここまでの話をまとめておこう。取引による利益は結構だが、それは世界を変えるわけではないし、何かにフォーカスしたコミュニティを生むわけでもない。勝ちから得られるスリルは、汚された市場の中で小さくなり、刺激の源がその輝きを失えば、感情の重点は、創造の満足へとシフトしていく。

2023年へ向けて

以下が2023年の舞台だ。

  • 暗号資産の技術的可能性に大きな注目が集まる一方で、市場の精神は癒されていく。
  • 短期的な満足に焦点をあてたストーリーが大半だったが、開発では基本に戻る取り組みが繰り返し続く。
  • 他の進化中のテクノロジーと関連したアプリケーションを通じて、人類の進歩とさらに深い統合されるサインが現れる。

新たな関心は、新しいブロックチェーンの進化、スケーリングシステムの成長、ブリッジの安全性の向上だけにとどまらない何かを浮き彫りにする。新しいカストディプロダクト、分散型オーダーブック、トークン化ツールが明らかになることで、市場の重要性が築かれるだろう。

こうしたことは、官民のトークン発行者の間で実験が続けられ、中央銀行デジタル通貨における政治的進展が影響要因となるなか、新しいタイプの資産の出現につながる。

さらに、よりセキュアでスピーディ、低コストの国内およびクロスボーダー決済のための世界的な動きにもつながる。エネルギー問題があらゆる人にとって重要な問題となることと同様に、暗号資産ベースのテクノロジーは再生可能エネルギーの発展を支え続ける。

地球上の他にも、宇宙空間や外惑星探査が急速に進められ、官民の組織が低軌道商業飛行のプロジェクトや、政府が月や火星を植民地化する競争を行うことで、レジリエントな分散型コミュニケーションとデータ保管のニーズの緊急性が高まる。

AI(人工知能)への関心とその性能の爆発的向上は、メタバース開発において興味深い役割を果たす可能性があり、NFTの役割は、国際保険、不動産、資格認定業界が透明性の問題に苦しむなか、画像コレクションをはるかに超えたものになる。

このようなトレンドは、市場のジェットコースターから得られるものとはきわめて異なる感情を伴う。まさに、ここ数カ月の痛みの後に業界が必要としている感情であり、私たちの取り組みがなぜ重要なのかを思い出させてくれる建設的な投資だ。取り組みとその社会的メリットに注力することで、私たちは互いに再びつながり、批判とより良く向き合い、待ち受ける規制を乗り切ることができる。

こうして私たちは哀れな1年と決別し、身勝手な人たちを意識から追い出し、世界をより良い場所にするための集団的努力を続けていくことができる。市場で何が起こったとしても、2023年には良いことがたくさん待っているはずだ。

ノエル・アチェソン(Noelle Acheson)氏は、CoinDeskとジェネシス・トレーディング(Genesis Trading)の元リサーチ責任者。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Shifting Crypto’s Center of Gravity