銀行破綻、必ずしも暗号資産への信頼にはつながらない【コラム】

映画『スーパーマン』では、スーパーマンが地球のまわりを高速で飛び回り、時間を戻して核ミサイルによる破滅的な事態を阻止する。そして、世界は救われる。

米財務省、連邦準備制度理事会(FRB)、連邦預金保険公社(FDIC)が3月12日、シリコンバレー銀行の劇的な閉鎖を受けて「アメリカの銀行システムに対する信頼を強化」するために特別な措置を発表し、皆が安堵のため息をついた時、この映画を思い浮かべた人がいたもしれない。

スーパーマンのように暗号資産業界を救ってくれる存在は存在し得るのか? そもそも存在すべきだろうか?

シリコンバレー銀行のニュースは、暗号資産を中心としたものではない。しかし今回、銀行システムが見せた不安定さによって、DeFi(分散型金融)は伝統的な銀行や既存の金融システムが抱える多くの問題を解決できるとの意見が再び高まっている。実際、暗号資産業界が注目すべき重要な教訓がある。

救いの手

シリコンバレー銀行は3月10日、カリフォルニア州金融保護革新局によって閉鎖され、FDICの監督下に入った。12日には「預金者が3月13日にはすべての預金にアクセスできるよう、すべての預金者を保護する」形でFDICがシリコンバレー銀行の破綻処理を完了させると発表された。

FDICが保証する25万ドル(約3300万円)を超える預金も、この措置によって保護されることになった。ニューヨーク州金融サービス局が12日に閉鎖したシグネチャー銀行も同様にすべての預金が保護されることになった。

シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行の預金者の預金を保護するためのコストは、銀行業界全体が負担する。顧客でも納税者でもない。規制当局は介入したが、預金者保護の責任は銀行にしっかりと負わせることにした。

もう1つ重要な点は、12日に発表された新しいプログラムだ。FRBは銀行が預金者の引き出しニーズに応えられるよう、新しい貸付プログラムを創設し、財務省が最大250億ドル(約3兆3300億円)を救済のために使えるようにする。

このプログラムでは、利上げに伴って価格が下落した長期の米国債や政府保証付不動産担保証券などの特定の証券を担保に最大1年の融資を提供する。会計上、そうした資産は市場価格ではなく額面価格で扱われる。つまり、流動性を必要とする銀行は、長期国債を損失を出して売却する必要はなく、ローンの担保として額面価格で扱うことができる。

FRBが流動性プログラムを創設できるのは、特別な組織だからだ。FRBのバランスシートも、資産とそれに相当する債務で構成されているが、FRBは他の組織には不可能な形でそのバランスシートを拡大できる。中央銀行の資金は、アメリカの決済システム全体の安全性と効率性の基盤になるという点で特別な存在だ。

暗号資産にとっての教訓

12日に発表された措置が投資家、預金者、広範な市場を落ち着かせるのに十分だったのかどうかは、まもなく明らかになるだろう。アメリカの銀行を監督・規制する枠組みが岐路に立たされているように、暗号資産コミュニティも岐路にあるのかもしれない。

ここで検討すべき課題は、アメリカ政府の全面的な信頼と信用が支えるFRBの中央銀行としての独自の権力の効果を、暗号資産市場のテクノロジーが再現できるかどうかだ。

おそらく、ある程度は可能だろう。クリアで、十分に調整された損失分配の仕組みを構築することに中央銀行や財務大臣は必要ない。損失のシェアというコンセプトはすでに、予想外の運営上の損失の責任は決済システムのユーザーではなく、システムの提供者にあるという形で決済システムの基本原理となっている。

暗号資産コミュニティは、運営上の損失のみにとどまらず、業界全体レベルでこの基本的な損失分散の原則を活用する、クリアで強制可能な法的条件やシステムの構築を検討した方が良いかもしれない。

しかしもちろんそれは、暗号資産業界の救世主とはならず、ブロックチェーンや暗号資産業界の多くの人たちが掲げる分散化という目標と哲学的に相容れない。暗号資産と従来の銀行は表面上、金融サービスの世界で競い合っているように見えるが、究極的には根本的に違う現実の中に存在している。テラやFTXの破綻の後、破滅的な影響を取り消すために飛んでくるスーパーマンはいなかった。

その結果として生じた損失の連鎖は、暗号資産コミュニティの外での暗号資産への信頼を弱めた。そしてこのことは逆に、顧客を保護し、信頼を強化するための厳格なルール、規格、プロトコルを通じて、暗号資産コミュニティが団結し、緊張感と規律を持って行動する必要があることを意味する。

信頼を再構築することによってのみ、暗号資産は勢いを回復し、メインストリーム普及に挑戦できる。

ジェス・チェン(Jess Cheng)氏:法律事務所Wilson Sonsini Goodrich & Rosatiでパートナーを務める。FRBのシニアカウンセルを務めた経験も持つ。
エイミー・カイアッザ(Amy Caiazza)氏:Wilson Sonsini Goodrich & Rosatiの証券、フィンテック、ブロックチェーンパートナー。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Krikkiat / Shutterstock.com
|原文:U.S. Banking Collapse Doesn’t Necessarily Make Crypto Trustworthy