日銀とECBの“分散型台帳”の可能性調査「プロジェクト・ステラ」報告書、9/3のイベントで紹介

日本銀行と欧州中央銀行(ECB)が、金融市場インフラへ分散型台帳技術を適用する可能性を調査するために、2016年12月に立ち上げた共同プロジェクト「プロジェクト・ステラ」。2019年6月までに3段階(フェーズ1〜3)の実証実験が終わっているが、今日から始まるイベント「日経FIN/SUM」(9月3〜6日)の1セッションではフェーズ3の報告書が紹介される。セッションの前に、既に明らかになっている各フェーズの実証実験を確かめておこう。

フェーズ1 大口資金決済で活用できるか

フェーズ1では、日銀と欧州中銀は各々の資金決済システムの一部を、効率的で安全に分散型台帳を用いて再現できるか検討を行った。具体的には、即時グロス決済(RTGS) システムである日銀ネットと TARGET2における流動性節約機能を、オープンソースの分散型台帳、ハイパーレッジャー・ファブリックを用いて再現する実験を行った。流動性節約機能とは、決済のために準備しておくべき資金や担保の量を少なくする仕組みを指す。

実証実験の結果、以下の示唆が得られた。
・分散型台帳を用いるシステムは、現行のシステムと同等の性能を実現しうる
・ネットワークの規模や距離を拡大させた場合、処理性能が低くなる
・分散型台帳に基づくシステムが、検証ノードにおける障害などの課題にも対処しうる

実験の結論……日銀ネットのような大規模システムには不適

一方で分散型台帳技術は技術が成熟していないため、日銀ネットのような大規模かつ安全性が求められるシステムには現時点で適さないと結論づけている。

フェーズ2 資金と証券の受け渡しに活用できるか

フェーズ2では、分散型台帳を証券決済システムに適用する可能性を検討した。具体的には、資金と証券の受渡をひも付ける DvP(デリバリー・バーサス・ペイメント)について、分散型台帳を用いた新たな方式を検討している。DvPとは資金と証券の引き渡しをひもづけて、決済の不履行が起きても取りはぐれない決済方法を指す。

実験の結論……クロスチェーン・アトミック・スワップは複数台帳間の相互運用性の向上に資する

実証実験の結果、以下の結論を得た。
・分散型台帳を用いて資金と証券の受け渡しができる
・(単一のネットワーク上だけではなく)複数のネットワーク間での取引も、DvPを実現できる
・「クロスチェーン・アトミック・スワップ」という技術は、複数台帳間の相互運用性の向上に資する可能性がある

一方で複数台帳を用いる方式では、取引当事者が合意するDvPのデザインをする必要がある。それにより、処理速度が遅れるなどの影響がある。複数台帳間の意図しない相互への影響にも注意する必要があるなどの課題も示された。

フェーズ3 クロスボーダー取引における信用リスクを回避できるか

フェーズ3では、国境を超えた取引において信用コストを回避して支払いを行う可能性を検討した。異なる法定通貨による支払いは、同一通貨圏に比べ時間やコストがかかる現状があり、中継する銀行の破綻リスクが否定できない。複数の台帳を経由することに伴う信用リスクをいかに抑制するかについて、実験が行われた。

実験では「ハッシュ・タイムロック・コントラクト(HTLC)」技術により支払いを同期化しうる方法について試みた。同技術を用いることで、支払いに関して事前に設定された条件が達成されるまで、送金資金は信用リスクにさらされない状況で固定できる。

実験の結論……資金を固定化、支払いを同期化することで安全性を確保できる

実証実験の結果、以下の結論を得た。
・資金を固定して支払いを同期化できる方法により、クロスボーダー支払いの安全性を確保できる
・その支払い方法は、現在のクロスボーダー支払いのスキームを技術面からより安全にできる可能性がある
・分散型台帳だけではなく中央集権型台帳でも実装できる

ステラのセッションは3日午後4時から

日経FIN/SUMの該当のセッション「プロジェクト・ステラ:DLTと決済インフラの未来の研究」は9月3日午後4時から行われる。プロジェクト・ステラのチームリーダーを務める日本銀行決済機構局参事役、岸道信氏や日本銀行決済機構局の北條真史氏らが登壇する。

文:小西雄志
編集:濱田 優
写真:Shutterstock