中央集権型取引所(CEX)はなくならない

Terra/Lunaの崩壊から約1年、FTX破綻から約半年が経過した。それぞれ複数の暗号資産企業の破綻につながった劇的なこれらの出来事は、暗号資産に対する信頼を著しく傷つけ、暗号資産業界15年の歴史の中で、最も困難な存続の危機の引き金となったと言える。

節目に振り返る

ビットコイン(BTC)が年初から約60%上昇するなど、資産クラスとしての暗号資産は今年回復してきているが、昨年の挫折を振り返り、業界が再建し、より良くなる方法を考えるには、絶好の節目だろう。

まず、2つの出来事はブロックチェーンテクノロジーのせいではなく、お粗末なリスクマネジメントと企業ガバナンス、さらに破綻した一部企業で行われていた不正行為の結果だということを理解する必要がある。

市場はブロックチェーンの整合性やイノベーティブなポテンシャルを認識しており、FTX破綻後にDEX(分散型取引所)に流れ込んだ大量の資本や、イーサリアムのプルーフ・オブ・ステーク(PoS)への移行、さらにアップグレード「シャペラ(Shapella)」に対する好意的な反応からも見て取れる。

だが、こうした展開にもかかわらず、中央集権型暗号資産取引所(CEX)は重要性を失わず、さらに洗練され、機関投資家の間で普及するに伴って、この資産クラスへの重要な玄関口として大きな影響力を持ち続けるだろう。

結局のところCEXは、デジタル資産取引においては支配的なプラットフォームであり続けている。DefiLlamaによれば、2023年5月半ば時点で、CEXの総取引高は中央集権型と分散型を合わせたすべての取引所における全取引高の90%近くを占めている。昨年、投資家からの信頼が失われたにもかかわらず、CEXの強さは明白なままだ。

しかし業界としては、業界内の相互依存関係や、「素早く動いて破壊する」という初期の精神から生まれた多くの弱点を解決する必要がある。今回の信頼の危機を生き延びるためには、CEXはより優れた投資家保護、リスクコントロール、慎重なガバナンス構造の必要性に取り組む必要があるだろう。

CEXの強み

デジタル資産ポートフォリオの管理は複雑で、投資家にはカストディ、トレーディング、投資商品、コンサルティング、効率的な法定通貨とのオンランプ/オフランプが必要となる。

この点では、多くのCEXは1つのプラットフォームにこれらのソリューションを組み込んでおり、異なるブロックチェーンのネイティブトークンの保有、管理に伴う技術的複雑さを大幅に軽減している。

代わりとなる選択肢を考えてみれば、その価値が明確になるだろう。つまり投資家が複数のウォレットを保有し、異なるブロックチェーンの複数の流動性プールに直接参加するという方法だ。一部の投資家は対応できるかもしれないが、覚えなければならないことが大量にあることを考えると、CEXが多くの人に選ばれるプラットフォームであり続ける可能性は高い。

ポートフォリオを自分で積極的に管理する投資家は、伝統的資産とデジタル資産の間で頻繁に投資配分を変えることを望むかもしれない。CEXの法定通貨オン/オフランプは、それをスピーディーに行うために欠かせないインフラとなり、市場のボラティリティが高い時期には特に重要な役割を果たす。

安全性とセキュリティ

安全性やセキュリティもCEXの強み。「鍵の所有者こそが、コインの所有者」というのがこの業界の合言葉であることを考えると驚きかもしれない。しかし、チェイナリシス(Chainalysis)によると、2022年にハッカーに盗まれた暗号資産の18%はCEXに保管されていたもの、残りの82%は分散型アプリケーションにあったものだ。

顧客をサイバー犯罪から守る点において、CEXにも改善の余地はあるが、分散型と比べると比較的安全なようだ。業界は信頼を回復し、サイバーセキュリティシステムを強化しようと懸命に取り組んでおり、CEXと分散型アプリケーションの安全性のギャップは広がり続けるだろう。

最後に、一部のCEX、特に富裕層や機関投資家を顧客に抱えたCEXの見過ごされがちなメリットは、何か問題が起こった場合に「連絡できる誰かがいる」という安心感だ。ファミリーオフィスやヘッジファンドなど、顧客に代わって資産を運用している投資家にとっては特にありがたいものだ。

何百万ドル相当ものビットコインの入ったウォレットにアクセスできなくなった人たちの恐ろしい話が聞こえてくるなか、専用のホットラインやアカウントマネージャーを提供するCEXを使うことに投資家は価値を見出すだろう。

分離管理で信頼を再構築

CEXはこのまま定着していく可能性が高いが、顧客と自社の資産の分離という点で改善が求められる。この点に関する監視の目は、これまで以上に厳しくなっている。FTXが顧客の資産と会社の資産を混同していたために、FTXが破綻した時に多くの個人投資家が多大な損失を被ったことを受けて、イエレン米財務長官などの政策決定者たちは、将来の規制フレームワークにおいて対処するべき主要分野として「資産の分離」をあげている。

FTXの破綻前にも、シンガポールの中央銀行にあたるシンガポール金融管理局(MAS)は、2022年10月に発表された報告書の中で、暗号資産プラットフォームに自社資産と顧客の資産を分離を義務付ける新しい規制を提案していた。MASはさらに、暗号資産プラットフォームが顧客の資産を保護するための独立カストディアンを指名すべきかどうか、業界からのフィードバックを受け付けている。

この点を踏まえると、CEOは「ワンストップショップ(一カ所ですべてがそろう)」的なストーリーを再考すべきだろう。カストディからトレーディングまで、シームレスなフロントエンドユーザーインターフェイスを整備することは理に適っているが、バックエンドにおいては投資家の資産は、銀行や登録済みのブローカーディーラーなど、外部の適格なカストディアンによって分けてカストディされるべきだ。

CEXは資産が確かに分離されていること、厳格なリスク・ガバナンス要件を整備していることを示すために、監査組織による独立の保証報告書を発表すべきだろう。

トラストレスなシステム

サトシ・ナカモトが2008年にビットコインホワイトペーパーを発表した時、全面的な信頼に依存する必要のない通貨システムを思い描いていた。それでも現在、多くの投資家がデジタル資産に関わる最初の入り口である取引所は、まだ多くの場合、透明性に欠けた状態で運営されている。

2022年の一連の出来事によって、業界が前進するためには、投資家保護、透明性、堅固なガバナンス構造、顧客への価値の提供が、取引所の運営において最優先されなければならないことが明らかとなった。投資家がますます、デジタル資産ポートフォリオの管理に信頼できる中央集権型プラットフォームを使うようになるに伴い、これらの価値を大切にするCEXは競争における強みを持つようになるだろう。

より良い状態になることを目指して再建を続けるなか、業界はより公平で透明性が高く、効率的な金融エコシステムを夢見たビジョンから生まれたという、その原点に回帰しなければならない。

ライオネル・リム(Lionel Lim)氏:DBSデジタル取引所(DBS Digital Exchange)のCEO。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Brock Wegner/Unsplash(CoinDeskが加工)
|原文:Centralized Exchanges Are Here to Stay