リップル vs SECの判決は規制をさらに混乱させる──判決の問題点と控訴審で覆る可能性

法的に言うと、一般向けに販売される暗号資産(仮想通貨)とは何だろうか?

米証券取引委員会(SEC)とリップル・ラボ(RIpple Labs)の裁判で、ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所のアナリサ・トーレス(Analisa Torres)判事が7月13日に下した衝撃的な判決を受けて、その答えは、エックス・アール・ピー(XRP)はVCや機関投資家に販売される場合は違法に販売された投資契約だが、暗号資産取引所を通じて販売される場合や、従業員や内部関係者に配布された場合は、完全に合法な「別物」ということになるようだ。

そうなると、この判決が暗号資産の発行者に保証することは、暗号資産市場では不確実性が続くということだけになる。

この訴訟で争点となったのは、1946年のSECとW.J. Howey Co.の裁判における「ハウィー(Howey)テスト」によって定義され、その後の判例によって明確化されたとおり、リップル・ラボによる10年間のトークン取引が「投資契約」であることを理由に、有価証券の販売にあたるかどうかだ。

ハウィーテストは簡単に言えば、(1)他者の起業家的あるいは経営的な努力から生じる利益に対する合理的な期待を伴う、(2)共通の事業に対する、(3)金銭の投資を含む契約、取引またはスキームは、法的には「投資契約」と呼ばれるものであり、1933年連邦証券法に則って、証券と同じように規制されるというものだ。

リップル・ラボの裁判では、ハウィーテストに基づく分析を行うために、リップル社によるトークン販売を、(1)ヘッジファンドやVCなどの機関投資家向け販売、(2)デジタル資産取引所における個人投資家向けのプログラムによる販売、(3)従業員やその他のサービス提供者への制限付きトークン購入契約やオプション契約など、「サービスに対する対価の形態」としての販売、の3つに分類した。

リップル社は「機関投資家向け販売」では敗訴…

最初のカテゴリーである「機関投資家向け販売」で、リップル社は敗訴した。私が見た限りでは、裁判所は異なる判断をすべきだったと主張する法律コメンテーターはほとんどいない。

…しかし、プログラムによる販売では勝訴

2つ目の販売カテゴリーである「プログラムによる販売」について、裁判所はリップル社に有利な判決を下し、ハウィーテストの要件である「利益の期待」を満たしていないと述べた。

「リップル社のプログラムによる販売は、ブラインド方式のビッド/アスク取引」であり、「プログラムによる販売の購入者は、その支払いがリップル社に渡るのか、それともXRPの他の売り手に渡るのかを知ることができなかった」ため、「そのようなプログラムによる販売の購入者は、自らのお金を誰に支払っているのかを知らない流通市場の買い手と同じ立場にあった」と裁判所は指摘。

その結果、裁判所は「プログラムによる販売の購入者は、利益を期待してXRPを購入したが(暗号資産市場全体の動向などの他の要因ではなく)リップル社の努力からそうした期待を持ったわけではない。特にプログラムによる販売の購入者は誰も、リップル社からXRPを購入していることを認識していなかったからだ」との見解を示した。

これは正しい判断か?

この点について、裁判所はある単純な理由から明らかに間違っている。つまり、利益の期待要件には売り手の努力の結果としての利益の期待は必要なく、他者の努力、ハウィーテストの言うところの「プロモーターまたは第三者の努力」が必要だからだ。業界で活動している人にとっては明らかなとおり、XRPの主要プロモーターは常にリップル・ラボであり続けており、購入者がリップル・ラボからトークンを購入していると認識していたかどうかは関係ない。

ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所が間違っている理由については、メッセンジャーアプリ「テレグラム(Telegram)」とそのブロックチェーン開発子会社に対する大勝利という形で、仮差し止め命令を求めるSECの申し立てを認めた2020年の判決を見れば明確になるだろう。

この判決では、最近、ChatGPTを使って答弁書を書いた数名の弁護士を批判したことで有名になったケビン・P・カステル(Kevin P. Castel )判事が、買い手が利益を期待することは「テレグラムの本質的な起業家的あるいは経営的な努力」によるものであり、当時テレグラムのSAFT契約をあらゆる人に販売していた仲介業者の起業家的あるいは経営的な努力によるものではないとした。

裁判所は、ハウィーテストの要件における「他者の本質的な努力」を構成するのは、仲介販売者の転売努力ではなく、「プロジェクトを開発するというテレグラムのコミットメント」だったと判断した。よって、この点に関するリップル社の勝訴は、控訴審で覆ると私は考えている。

…そして奇妙なことに、リップル社はXRPの「その他の分配」についても勝利

最後に、最も奇妙なことに、従業員などへの「その他の配布」はハウィーテストの要件である「金銭の投資」を満たさないという理由でリップル社が勝利を収めた。これは、本当に理解に苦しむ。

判例から明らかなように、ハウィーテストにおける「金銭の投資」は、実際には資金の移動を含む必要はなく、買い手が「実質的に証券の特徴を有する利子と引き換えに、何らかの有形で明確な対価を放棄した」ことのみを必要としているからだ。

しかし、裁判所はリップル社の「その他の配布」には、「報酬としての従業員への配布や(中略)XRPの新しいアプリケーションを開発するための配布が含まれる」と述べ、それは実質的にどのような商業環境においても、この条項を満たすのに必要な契約上の対価の双方向の動き(従業員はサービスを提供し、雇用主はトークンを提供する)があるとみなされる関係であるにもかかわらず、そこには必要な契約上の対価が存在せず、リップル社に「有形または明確な対価」が支払われていないと結論づけた。

従業員がサービスを提供することや、第三者がプロトコル上で使用するアプリケーションを開発することは、多額の金銭や暗号資産トークンが日常的に彼らに支払われていることを考えると、弁護士である私にとって、非常に有形で測定可能なものだ。

この判断はおそらく誤りであり、控訴審で異議を申し立てられる可能性がある。

シュレーディンガーの草コイン

こうなると、XRPの法的地位は、ある種の二重性を持っているようだ。言うなれば「シュレディンガーの猫」ならぬ、「シュレディンガーの草コイン」だ。一次販売で機関投資家に売られた場合は証券だが、暗号資産取引所で匿名性を持って売られた場合や、関係者に対してサービスと引き換えに売られた場合は証券ではない。

このような見解は、規制の一貫性という観点からするときわめて不満足なものに思われる。 複数回販売された後に、魔法のように証券から非証券に変身するような証券は他にはない。また、XRP購入者の購入理由全体を考慮すると、ハウィーテストの第1および第3の要件に関連する一連の判例の適用も明らかに間違っている。

アメリカ市場におけるトークン発行者には、この先、大きく分けて2つの道が提示されたことになる。SECのビル・ヒンマン(Bill Hinman)氏がトークン発行に関する「十分に分散化」という基準を不用意に考案し、数多くのICOをローンチさせた(そしてその後、全米の地方裁判所が厳しい判決を下だした)2017年のようだ。

最初の道は、目的に適さない規制に変化が訪れず、新しいトークン発行者がこの狭量な(かつ、おそらく間違った)判決につけ込んで新しいプログラム・トークン・スキームを立ち上げるもので、SECは2~3年以内にそうしたスキームに対して執行行為を行うことになり、アメリカの経済、投資家、そしてイノベーションにより広範な打撃を与える。

この道を選ぶスタートアップは、細心の注意を払うべきだ。私の同僚のスティーブン・パレー(Stephen Palley)氏が言うように「リップル裁判の判決は、1人の地方裁判所判事による部分的略式判決だ。説得力があるとはいえ、他の裁判所を拘束する判例ではなく、控訴される可能性が高く、覆される可能性もある。その判決に基づいて、向こう見ずな行動に出るべきではない」。

2つ目の道は、アメリカ議会が、あるものがある取引では証券であっても、別の取引では証券ではないというのは合理的ではないことに気づき、イギリスが現在行っているように、暗号資産投資を正常化するための法律を成立させることだ。

すべてのトークン取引に明確に定義された法的地位を与え、積極的な情報開示体制を義務付け、契約上の約束のないトークンを、契約上の商品を規制するのと同じ方法で規制するという1933年証券法の要件を廃止する。

結論

リップル社のトークン販売ビジネスは、規制というガードレールの範囲内で、アメリカにおいて合法であるべきだ。現状では、そうではない。私の見解では、合法であるとしたトーレス判事の判決は、控訴審で覆される可能性が高い。

私が望むことは、議会が気を引き締め、暗号資産と暗号資産取引所が専用の情報開示と監督の枠組みを手にするときだと判断することだ。そうなれば、暗号資産規制は裁判所の時間のかかる矛盾したプロセスや、政治的に突き動かされたSECの手から離れ、イギリスなどの法域で認められているような、より自由放任的な形でアメリカでも暗号資産ビジネスを進められるようになる。

しかし、私の議会に対する期待はきわめて低い。これに関しては、私が間違っていたと証明されることを願う。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:CryptoFX / Shutterstock.com
|原文:Ripple Labs Ruling Throws U.S. Crypto-Token Regulation into Disarray