エルサルバドル日記:ビットコイン普及の鍵はライトニング

今週、私はエルサルバドル各地を旅しながら、ビットコインの普及スピードを上げ、外国人投資家がビットコイン関連ビジネスを始めることサポートするために積極的に活動している2人の人物に会った。

ビットコイン(BTC)の現在の市場価格は記事執筆時点で約2万9500ドル、ビットコインをまるまる所有することは、ほとんどの人にとって手の届かないことだ。しかし、ビットコインは「サトシ」と呼ばれる1億分の1の小単位に細分化されており、誰でも少額の法定通貨をビットコインに交換できる。

ビットコイン投資家たちは、このような少額の投資を「サトシを積み重ねる」と呼ぶ。これは、ライトニング・ネットワークのようなレイヤー2(L2)の統合と相まって、ビットコインのユースケースを増やし、商取引における交換媒体としての役割を高めるための道筋であると多くの人が考えている。

ライトニング対応ビットコインATM

私は、エルサルバドル人の起業家で、K1という会社の創業者であるエドガー・ボルハ(Edgar Borja)氏と昼食をともにし、彼が開発しているデバイスについて話を聞いた。ボルハ氏は、レイヤー1(L1)ブロックチェーンを利用する他のビットコインオンランプと比べて、法定通貨からビットコインへの変換に関連する摩擦コストを大幅に削減できるライトニング対応ATMを発明した。

昼食の席について間もなく、ボルハ氏はバックパックからLCDタッチスクリーンのついた小さな金属製の箱を取り出し、テーブルの上に置いた。彼はそれを壁のコンセントに接続し、起動させながら、使われているテクノロジーを説明した。彼が持ってきたデバイスのバージョンはコインを入れるだけのもので、ミニスロットマシンのようだった。彼は、K1はドル紙幣が使える別のバージョンのデバイスも販売していると言った。

ボルハ氏はコインスロットに5セント硬貨を投入し、スクリーンを1、2回タップして、iPhoneのライトニング対応ウォレット(Wallet of Satoshiと呼ばれる)のQRコードを内蔵カメラにかざすよう指示した。数秒後、5セント相当のサトシが私のウォレットに届いた。取引に手数料はかからなかった。

ライトニング・ネットワークは、ほぼ瞬時の取引を可能にし、最終的な決済まで、低速なL1であるビットコインネットワークを使用せずに資金を交換できる「バータブ(バーで最後にまとめて清算するための伝票)」のような役割を果たす。

この劇的なスピードの向上と取引手数料の削減によって、ビットコインの煩雑さを軽減し、スムーズさを高め、一般ユーザーにとってより使いやすい交換媒体にできる可能性がある。

K1はライトニングATMを1200ドル(約17万円)で販売し、その後の定期的な手数料は請求しない。事業主はデバイスを所有した後、自由に選択した使用料を含めることができる。K1のATMは、法定通貨からビットコインへの変換への参入障壁を低くし、L1ブロックチェーンを使用し、手数料がはるかに高いAthenaのATMよりも大規模な市場に対応できる可能性がある。

K1はエルサルバドルを含む11カ国の企業にマシンを販売しており、ボルハ氏はマスアダプションに拍車をかけるために、私が目にした中でも最も明確なロードマップを持っている。

大企業のためのビットコイン

エルサルバドルに到着する前、私はエルサルバドル・ビットコイン協会(ASOBITCOIN)の取締役秘書である弁護士のカルロス・ミゲル・リヴァス・カリリョ(Carlos Miguel Rivas Carrillo)氏に連絡を取り、エルサルバドルでビジネスを始めるためのプロセスについて教えてもらった。

政府はアメリカの起業家や投資家を積極的に誘致しようとしており、非常にビジネスフレンドリーな環境を作り出している。ASOBITCOINは政府公認のビットコイン事務局と密接に連携し、投資家が関係当局からプロジェクトを承認されるよう支援している。

リヴァス氏はエルサルバドルの法律や規制について非常に詳しく、私がビジネスを法人化することを手伝ってくれるとまで言ってくれた。手続きには、1500~2000ドルかかる弁護士の助けを借りて3~4日かかる。また、政府手数料が300ドルかかり、必要最低投資資本金は2000ドルだ。

リヴァス氏によると、エルサルバドルの銀行はまだSWIFTのようなレガシーシステムを使っているため、ビットコインフレンドリーではないという。商業取引にビットコインを使うには、非銀行系サービスがビットコインを受け取り、通常の銀行口座に入金できる出納小切手を発行する。私は、外国人としてエルサルバドルでビジネスを始める方法について、より確かな理解を得てミーティングを終えた。

私の職歴は主に起業家としてのものであり、ウォートンスクール(ペンシルベニア大学のビジネススクール)に入学する前に、テキサス州オースティンで2つの不動産会社を立ち上げ、成功を収めた。私がエルサルバドルに来たのは、不動産やコーヒー栽培におけるビットコインの応用の可能性や、黎明期にあるビットコインエコノミーにおける空白を見極めるためだった。

アメリカでは当たり前のこととして受け止められていること、例えば、現在売りに出されている不動産物件や最近の取引が掲載されているMLS(Multiple Listing Service)は、まだ存在しない。同様に、不動産の所有権記録は不透明であり、一元管理された記録はときに間違っていることもある。また、不動産に先取特権や請求権を持つ人を訴えると、投資プロセスが1年も遅れることもある。

リヴァス氏を含む複数の人々が、既存の問題に対処し、経済における既存の非効率性を解消するためにブロックチェーンが活用できると語っている。これらの非効率性は、勇敢な起業家にとって大きなチャンスを生み出す可能性がある。

商取引のためのビットコイン

私はどこに行くにも、コインベース(Coinbase)のウォレットか、Wallet of Satoshiを使って、まずビットコインで商品を購入するようにしている。近所のスーパーマーケットに買い物に行き、レジでビットコインで支払おうとした。レジ係は最初、この店ではビットコインが使えると言い、5年以上前のものと思われるコンピューターのボタンを忙しそうに押し始めた。しかし、ビットコインのPOSシステムは作動していなかった。そのため、私は現金で支払わなければならなかった。

Presidente Plazaという、まだ完成していないこの国で最も新しいモールに行ったとき、私は何度かWallet of Satoshiを使おうとした。コーヒーショップにはきちんと機能するビットコインのPOSシステムがなく、コミックショップにもなかった。結局、2回ともクレジットカードで支払いを済ませ、店側は手持ちのスキャナーを利用していた。これはエルサルバドルの首都サンサルバドルではごく一般的なもので、クレジットかデビットを選択できる。店側がビットコインのPOSデバイスを所有しているかどうかは、すぐにはわからなかった。

ビットコインが交換媒体としてより容易に利用されるためには、店側がビットコインをより直感的で簡単に使用できるようにするために、これらのデバイスに第三のインテグレーション、つまりライトニングを追加する必要があるだろう。マスアダプションの障壁は、商取引の両サイドに存在する。

エルサルバドルに1週間以上滞在して、私はブケレ大統領のビットコインビジョンに示されたインフラの具体例を目にすることができた。ビットコイン特有の価格のボラティリティに怯える人もいるが、そのような態度はインフレが法定通貨の使用にもたらす変動性を無視している。私の予想では、一般の人々がドルを信頼するのと同じようにビットコインのネットワークを信頼するようになるには数年かかるだろう。

ひとつ確かなことは、ボルハ氏やリヴァス氏のような人材が、ブケレ大統領の目標を達成するためには不可欠ということだ。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:筆者(左)にビットコインATMを見せるエドガー・ボルハ氏(Jonathan Martin)
|原文:El Salvador Diary: Lightning Is Key to Bitcoin Adoption