[ST最前線]受託資産残高3.3兆円を誇る不動産証券化ビジネスのパイオニア、ケネディクスがセキュリティ・トークンに見出す可能性とは。Jリート・トップアナリストと不動産投資の未来を語る。

不動産を直接保有するのではなく、ファンドを組成して不動産を取得し、「不動産が持つ可能性を最大限引き出す」運用を行うことで、投資家に良質な不動産投資機会を提供するケネディクス。すでにプロの機関投資家を主な顧客として、J-REIT(不動産投資信託)などを中心に受託資産残高は3兆円を超えている。確固とした実績を誇る同社はまた、2021年8月には日本初の公募型不動産セキュリティ・トークン(ST)、23年8月には資産規模300億円の都心タワーマンションを投資対象とするST、23年12月には大阪デジタルエクスチェンジのSTセカンダリー市場であるSTARTでの取扱開始を飾る第1号STを手がけるなど、STでもパイオニアとしてのポジションを切り拓いている。

J-REITと比較したSTの特徴やメリットと課題、この先の可能性と不動産運用大手のケネディクスがSTに取り組む意義を、日経ヴェリタスによる人気アナリスト調査REIT部門で9年連続第1位を獲得したSMBC日興証券 株式調査部 鳥井裕史氏と不動産STの事業化を推進しているケネディクス 執行役員 中尾彰宏氏が語り合った。

不動産セキュリティ・トークンとJ-リート

──J−REITアナリストとして、不動産STをどう評価しているか。

(SMBC日興証券 株式調査部 鳥井裕史氏)

鳥井 不動産STの特徴は、投資対象物件が明確なこと。個人投資家の「この物件に投資したい」というニーズに合致していると考えている。J-REITも個別物件の情報は開示されているが、かなりの数の不動産に投資しているので、中には質の劣る物件なども入っていることもある。

通常の不動産投資には多額の資金が必要だが、STは小口化されており、少額投資が可能になっている。さらにこれまでJ-REITや私募ファンドの運用経験を持つ運用会社に任せることができ、彼らの知見、目利き力を生かすことができる。また物件の管理も任せることができ、個人投資家にとっては非常に有用だ。想定していたよりも速いペースでST市場は成長している。

──個人投資家のニーズを捉えた、STの特徴、メリットはなにか。

中尾 J-REITは洗練された不動産投資商品で、証券口座で簡単に売買でき、充実した情報開示もある。だが個人投資家からすると、多くの不動産から構成されるポートフォリオ型の金融商品で少し敷居が高いという側面も否定できない。一方、STは、J-REITのように金融商品としての効率性・機能性を追求するというよりは、デジタル技術を活用して金融商品としての「便利さ」と不動産としての「わかりやすさ」を個人投資家向け商品としてバランスさせることに重きを置いている。

デジタルではあるが、不動産が有する「手触り感」や「安心感」といった数字では計測し難い体験的特性を表現できているのではないか。個人投資家にとって、投資対象を理解して投資判断が行いやすい商品であることが、ニーズを捉えた要因になっていると考えている。

(ケネディクス 執行役員 デジタル・セキュリタイゼーション部長 中尾彰宏氏)

鳥井 J-REITのメリットは、証券取引所に上場し、機関投資家が活発に取引しているので売買流動性に優れていること。買いたい時にいつでも買え、売りたい時にいつでも売ることができる。一方で上場しているので、金融市場などの影響を受けての価格変動リスクが大きくなりやすい。これまでの超低金利もしくはマイナス金利環境下では、安定的な分配金が確保されているだけで許容されていたが、今後、インフレやさらなる金利上昇が予想される局面では、より高い収益成長を実現していくことが求められ、それができないJ-REITの評価は下落することになるだろう。

その意味でJ-REITも投資する不動産の選択が非常に重要になってくるうえに、物件の入れ替えを積極的に行うのか、増資や株式でいう自社株買いのような自己投資口取得を行うかなどの運用戦略の巧拙が重要になるだろう。

中尾 今、ご説明を聞いて改めて認識したのは、J-REITは投資対象が不動産だが、ポートフォリオの入れ替え、資金調達、自社投資口買いなどの運用戦略によってバリューが大きく変わり得る。つまり、運用サービスが市場評価に与えるウエイトが大きい点だ。STも投資対象物件の価値を維持向上させるための物件管理や適切な物件売却タイミングを模索するなどの運用戦略はもちろん重要だが、単独または少数の不動産が投資対象となるため、J-REITとの比較においては不動産そのものが有する資産性に対する評価の重要度がより大きいと言える。

J-REITは金融商品として洗練された、効率性の高い投資商品。STは、より不動産投資の色彩が強い、不動産の魅力をダイレクトに訴求する投資商品と位置づけられる。

鳥井 J-REITの分配金利回りは、長期金利や他の金融商品の利回りとの関係で日々変動する。一般の不動産マーケットとは違う要因でも大きく変動する可能性があることは理解しておく必要がある。

個人投資家はどちらを選ぶべきか

──デジタルの力で不動産投資が身近になる中で、投資経験が限られている個人投資家にとっては、STが適していることになるのか。

中尾 一概にそうとは言えない。STの特性は、基本的に1物件に投資するところ。投資対象が明確で分かりやすいというメリットがある一方で、物件単位では分散が図られておらず集中リスクが相応にある。今、出てきているSTの投資対象不動産は、長期の賃貸借契約に基づく安定した収益が想定されるものがほとんどだが、対象が単体、あるいは多くて数件の不動産である以上、基本的には投資家自身で複数のSTに投資するなどし、自らのポートフォリオを組んで分散を図る必要がある。

一方で、STは、株や債券などとは異なるリスク・リターンのプロファイルを有する投資商品として利用価値がある。一定の投資を経験されてきた人が、STへ新たに投資を行うことで、自らのポートフォリオにおいて更なる分散投資効果が期待できる。自らのライフステージや経験に照らし合わせて、適切な投資ポートフォリオを組んでいくことが大切であり、初めて投資をする個人であれば、まずはNISAを活用しながら株や債券、投信への投資となるだろう。

──J-REITとSTのどちらを選ぶかは、投資家の考え方次第、どういう投資を望むかということになるのか。

中尾 我々にとって重要なことは、新しい投資の選択肢を提供すること。30代と60代では、投資の目的は異なるし、資産をどの程度保有しているか、さらに投資家の性格や好みによっても投資すべき商品は変わってくる。だからこそ、わかりやすい商品、自身がどんなリスクを取っているのかを理解・納得できる商品を作っていくことが重要になる。

──あえて、STとJ-REITは「こうした人に向く」と説明するとどうなるか。

中尾 STは、個人投資家から見ると、不動産投資であり投資対象不動産との距離が近い。不動産は、オフィス、住宅、ショッピングセンター、ホテルなど、我々のライフスタイルとも密接につながっていて、利用者目線で評価することもできる。

経済的価値に加えて、投資対象不動産の利用を通じた体験的価値も求める人には、ユーティリティ・トークンと呼ばれる不動産に紐づいたデジタル優待を付されたSTに投資することで、利用者としての楽しみも増えるのではないか。

(鳥井氏)

鳥井 J-REITの選び方には大きく2つの観点がある。ひとつは、どのようなタイプの不動産ポートフォリオを選ぶか。例えば、オフィス、賃貸マンション、ホテルなど、それぞれのアセットクラスに特化したJ-REITがある。もうひとつは、誰が運用しているかも重要だ。日本の大手不動産会社で安定性を重視した運用をしているJ-REITもあれば、外資系ファンドなどで成長性を重視した運用しているJ-REITもある。さらに「ケネディクスが運用しているJ-REITに投資したい」という選び方もある。

投資家のニーズに合わせた銘柄を選ぶことがJ-REITなら可能だ。ただし、前述したように不動産の運用戦略だけでなく、財務戦略の優劣も重要になるので、過去の実績や決算説明会資料を見たり、投資家セミナーなどで実際に運用している人の意見を聞くことも重要になる。

中尾 J-REITはさまざまなファクターで評価が決まるので、短期間で投資口価格が上がって、想定よりも大きなリターンを獲得できる可能性がある。もちろん逆もあり得る。STは価値に影響を与えるファクターとしては基本的には不動産のファンダメンタルズが中心であり、短期間で大きく価格が乱高下することは期待しづらい。

今後の課題と目指すべき未来

(中尾氏)

──現状、不動産STが誕生してから3年あまりが経過しているが、課題はどこにあると考えているか。

中尾 新しい商品なので、STに対する認知度、理解度がまだまだ限定的なことだ。ブロックチェーンはビットコインなどにも使われている技術なので、暗号資産のように投機的な値動きになるのではないか、ハッキングされるリスクが高いのではないかという誤解も少なくない。

不動産STの商品数も当社グループ発行分を含めて、まだ30数銘柄なので、投資家にポートフォリオを組んでいただくという点からすると、まだまだ選択の余地が限られている。商品性も似通っている部分があり、現状は運用期間中の配当の安定性を重視した商品が多くなっている。

今後はリスク・リターンのプロファイルが従前よりもワイドな不動産STも投入していく必要がある。例えば、ホテルであれば稼働状況に応じて配当も大きく増減するような、成長型のSTといった品揃えの充実も課題と考えている。

──昨年末、セカンダリー市場(流通市場)として大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)の「START」が稼働した。どのようなことに期待しているか。

中尾 今は安定型のSTが中心で、売買価格はさほど上下しない。そうした中では、短期的な利ざやを目的とした売買は起こりづらく、セカンダリー市場は、個人投資家のいざという時の換金ニーズに応えるものとしての役割が大きい。

現状のセカンダリー市場は、取り扱い証券会社での店頭取引が中心だが、ODXのSTARTが新たに誕生したことで、セカンダリー市場の利便性や透明性がさらに向上していくことを期待している。セカンダリー市場のデザインがSTの商品性に与える影響は大きい。我々もいろいろな試行錯誤をしながら、さまざまな投資家ニーズに対応すべく、STにとって適切なセカンダリー市場のあり方を模索している段階だ。

──アナリストの視点からは、今後、どのような発展を期待しているか。

鳥井 規模の拡大は必須だろう。その意味で、売りたい時、買いたい時のためのセカンダリー市場が発達していくことは、非常に良いことだ。一方で市場全体が拡大するのに応じて、クオリティに問題がある事業者が出てくるリスクも高くなる。その良し悪しを個人投資家が判断できるかどうか。今後は運用会社の選定が課題になるのではないか。

J-REITは、上場している銘柄が60近くあり、正直なところ玉石混交と言える。その良し悪しを判断するのがアナリストの役割。J-REITでは、合併や買収など淘汰の動きが過去何度もあり、優れたところが生き残っていく状況になっている。STでも、いずれ、そうした動きが出てくるかもしれない。

中尾 発行体と投資家の間に証券会社が入っていることなどで、一定のクオリティが保たれる部分はあると思うが、今後、STの発行数が増えてくれば、パフォーマンスの良いSTと悪いSTが出てきて、選別の重要性が高くなる。数が増え、選択が難しくなってきたときに、鳥井さんのようなアナリストに客観的に評価してもらうなどの仕組みも必要になるだろう。J-REITは2001年に誕生して23年の歴史があり、アジアでも最大規模のマーケットが日本にあるが、STはまだ3年程度で、インフラの整備はまさにこれからだ。

──今後、STが進む先、目指す先をどう考えているか。

中尾 J-REITがここまで大きなマーケットになっているなか、STはJ-REITとは異なる市場を新たに創造していかなければならない。そのためには、STを通して不動産投資を個人投資家にとって身近なものにしていくこと、つまり投資家層を機関投資家から個人投資家に拡大していくことが重要だ。

また、商品面ではこれまで機関投資家クオリティのJ-REITに組み込まれるような物件を単体で小口化して提供しているが、さらに可能性を広げていくには、J-REITが今、あまり投資していない領域、具体的には海外不動産などにチャレンジしていくことができるかどうかも問われている。J-REITとは違う形で、新しい投資家、新しい不動産を適切にマッチングさせて新しい市場を創造していくことが必要になる。もちろん2つが重なる部分は当然にあり、機関投資家もSTに投資できるが、それぞれの強みを生かして投資家と不動産を開拓していくことが、日本の不動産投資市場発展のためには重要だと考えている。

さらに今は建築コストが上がっている。日本はこれまで、新しいものが高く評価され、古いものから新しいものへの新陳代謝を行うインセンティブが強かった。だが、既存のものを大切にし、いかに価値を高めていくかということへの重要性が、これまで以上に高まっている。不動産投資のあり方も変わっていかざるを得ない。運用会社として、ESG的な観点も含めて、投資や運用について責任ある説明をできることが不可欠になると考えている。

──最後に、ケネディクスが不動産STに取り組む意味、さまざまな事業の中での位置付けは。

中尾 ケネディクスは不動産アセットマネジメント会社として、お客様である投資家から資金を預かって不動産で運用している。これまで、J-REITや私募REIT、私募ファンドを中心に運用資産を積み上げ、現在では3.3兆円を超える不動産を運用している。J-REITは個人投資家も購入できるが、投資主の多くはプロの機関投資家。我々としては、コーポレートミッション「不動産の限りなき可能性を切り拓く」を推し進めるためには、STで新たな投資家層を開拓し、新しい不動産投資商品を提供していくことが重要と考えている。「デジタル技術」を活用して「不動産」と「金融」を新たに融合させることで、個人投資家の長期的な資産形成に資する新たな不動産投資機会を創造していきたい。

またデジタル技術を使った新しいビジネスも展開していく。STでは、不動産投資に関連するデータをセキュアに取得し蓄積できる。膨大な不動産投資データとデジタルとの親和性を活用して、資産運用会社としての業務効率化やサービス高度化のきっかけとしたい。現在、個人投資家との新たな接点となるモバイルアプリも開発中で、不動産STに関する情報提供・資産管理サービスなどをこのアプリを通じて今年中に提供する予定だ。ぜひ幅広い個人投資家の方々にご利用いただければ、と考えている。

|文:CoinDesk JAPAN 広告制作チーム
|写真:多田圭佑