仮想通貨納税ガイダンスを5年ぶりに発表:米内国歳入庁

米内国歳入庁(IRS)は、仮想通貨保有に対する税金を計算するためのガイダンスを5年ぶりに発表した。

業界関係者は、IRSコミッショナーのチャールズ・レティッグ(Charles Rettig)氏が、IRSは新しいガイダンスに取り組んでいると述べた2019年5月以来、アップデートを待ち望んでいた。IRSの2014年のガイダンスは多くの疑問に答えておらず、仮想通貨市場はそれ以来、ますます複雑さを増してきた。

期待された通り、2019年10月9日(現地時間)に発表されたガイダンスは、以下の点を扱っている。

  • 仮想通貨のフォークによって生まれる納税義務
  • 収入として受け取った仮想通貨の価値を評価するために許容される方法
  • 売却時に課税対象となる利益を計算する方法

弁護士事務所カールトン・フィールズ(Carlton Fields)の弁護士で、アテナ・ブロックチェーン(Athna Blockchain)の法務顧問を務めるドリュー・ヒンクス(Drew Hinkes)氏はCoinDeskに対して「徴税者の観点からは、正しい答え」と述べたが、公認会計士のカーク・フィリップス(Kirk Phillips)氏は、ガイダンスが基本的にフォークの問題のみを扱っていることに驚かされたと語った。

フォーク

長年の疑問に答える形で、ガイダンスは、既存のブロックチェーンのフォークによって生まれた仮想通貨は「受け取られた時の新しい仮想通貨の公正な市場価格に等しい通常収入」として扱うべきと記した。

つまり、納税義務は新しい仮想通貨がブロックチェーンに記録された時──つまり、納税者が実際に仮想通貨をコントロールでき、利用できる時に適用される。

ガイダンスには次のように記載された。

「保有している仮想通貨がハードフォークしたが、エアドロップ(複数の納税者の分散型台帳アドレスへの仮想通貨の分配)または他の移動の方法によって新しい仮想通貨を受け取らなかった場合、課税対象となる収入はなかったことになる」

弁護士事務所エバーシェッズ・サザーランド(Eversheds Sutherland)のパートナー、ジェームズ・マストラッチオ(James Mastracchio)氏は、ハードフォークの結果として明らかに異なる仮想通貨が生まれた場合にこれは適用されるとCoinDeskに語った。

IRSの説明は、さらなる混乱をまねく可能性があるとコイン・センター(Coin Center)のエクゼクティブディレクター、ジェリー・ブリト(Jerry Brito)氏は述べた。

「新しいガイダンスは、基準、利益、損失の計算についての一定の疑問に対して、大いに必要とされた明確さをある程度はもたらしたが、ハードフォークとエアドロップの本質については混乱があるようだ」とブリト氏はCoinDeskに述べ、次のように続けた。

「このガイダンスの1つの残念な点は、第三者が、あなたが保有するコインのネットワークをフォークしたり、望まないエアドロップを押し付けることで、あなたに対する納税申告義務を作り上げることができる点」

個人は、資産を受け取った時に収入を評価されることになるとヒンクス氏は語った。

「受領は『所有とコントロール』によって定義される。(中略)つまりこのガイダンスによると、資産を移動、売却、交換、処分する能力ということになる」とヒンクス氏は述べた。

「懸念されることは、誰かが悪意を持ってエアドロップを行い、あなたに高額の納税義務を押し付けること。だが、この恐れは少し過大評価されている。なぜなら、資産を受け取った時の公正な市場価格に基づいて新しい収入に責任を負うことになり、大半のフォークは高い評価でスタートしないから」

例えば、イーサリアム・ウォレットを持つ個人が、エアドロップによってERC-20トークンを気付かずに受け取ることはあり得るとフィリップス氏は述べた。トークンの価値の変動によっては、資産を売却する時よりも受け取った時の方が価値が高かった資産に対して、所得税を支払うことになる可能性もある。

「このような事態は、エアドロップ直後にコインが価格発見の高いレベルに達し、猛烈な売りが回復できないレベルにまで価格を下げた場合に起こり得る」とフィリップス氏は述べた。

プロトコル変更をめぐる戦いが、さまざまな仮想通貨コミュニティーの中に亀裂を生み、イーサリアムクラシックやビットコインキャッシュのような仮想通貨を派生させた中、この問題は近年ますます顕著になってきている。

オリジナルのビットコインやイーサリアムの保有者は、フォークの際に自動的に同量の新しいコインを獲得できた。そのため、偶発的な利益に対して納税の義務を負うのか否か、負うとしてもどのような条件で納税の義務を負うのかについての疑問を生んだ。

今、仮想通貨保有者とその会計士はロードマップを手に入れた。

原価基準

新しいガイダンスはまた、納税者がいかにして原価基準、つまりマイニングやモノやサービスの売却などによって収入として受け取ったコインの公正な市場価格を決定できるかについても、長く待ち望まれた明確さを提供している。

原価基準は「米ドルで、手数料、コミッション、その他の獲得コストなど」仮想通貨を獲得するために支払われたすべてのお金を合計することによって計算されなければならない。

新しいIRSのガイダンスが取り組んだ3つ目の重要な問題は、売却などの課税対象となる取引によって処分された仮想通貨の各ユニットの原価基準の決定方法だ。

ビットコインを数年にわたって、複数の取引によって購入する可能性があるため、これが問題となる。つまり、一部を売却した時、課税対象となる利益を計算するためにどの時点の購入価格を使うべきか明確ではなかった。

取引所で購入した仮想通貨の価値は、取引所が米ドルで販売した価格によって決まる。この場合、収入基準には、コミッション、手数料、その他購入にかかったコストが含まれる。

仮想通貨がピアツーピア取引所や分散型取引所(DEX)で購入された場合は、公正な市場価格の決定に仮想通貨価格インデックスを利用することもできる。IRSの言葉を借りれば、インデックスは「仮想通貨の世界中のインデックスを分析し、正確な日時における仮想通貨の価値を計算する仮想通貨あるいはブロックチェーン・エクスプローラ」と言える。

仮想通貨を売却する場合には、納税者は処分するコインを「秘密鍵、公開鍵、アドレスといった特定のユニット独自のデジタル識別子の記録、または(単独のアカウントまたはアドレスの)すべてのユニットの取引情報を示す記録によって」特定できるとIRSは記した。

この情報には、ガイダンスによると以下の情報が必要だ。

「(1)各ユニットの購入日時、(2)購入時の各ユニットの原価と公正な市場価格、(3)各ユニットが売却、交換、処分された日時、(4)各ユニットが売却、交換、処分された時の公正な市場価格と各ユニットに対して受け取った金額または資産の価値」

新しいガイダンスは「先入先出法」、あるいは売却された仮想通貨がいつ購入されたのかを具体的に特定する方法を許可しているとマストラッチオ氏は述べた。

「例えば、最初のユニットを5000ドルで購入、2番目のユニットを2000ドルで購入し、ユニットの1つを売却したとする。売却したユニットを特定することもできるし、『先入先出法』を使うこともできる」とマストラッチオ氏は述べた。

「税務計画の観点からは、売却したユニットを特定したい場合もあれば、先入先出法を使いたい場合もあるだろう。なぜなら、キャピタルゲインが欲しい場合もあれば、ロスを望む場合もあるから」

その他の問題


コーヒーといった日常の買い物に仮想通貨を使いたいユーザーにとっては残念なことに、IRSは明確に、一定額以下の取引に対して例外を設けることはしないと述べた。

サービスに対して支払いすることは、キャピタルゲイン、あるいはロスにつながり、それは「受け取ったサービスの公正な市場価格と、交換した仮想通貨の調整済み原価との差」として計算する必要がある。

モノやサービスの購入は、2014年にIRSがオリジナルのガイダンスを発表した時に課税対象とされた。ガイダンスには、デジタル通貨は税務上、通貨ではなく資産として取り扱われるべきと記されていた。

これは、仮想通貨の日常使用を妨げ、納税義務を真面目に申告したいユーザーにとって納税シーズンを面倒なものとしていた。

翻訳:山口晶子
編集:T.Minamoto
写真:IRS building image via Shutterstock
原文:The IRS Just Issued Its First Cryptocurrency Tax Guidance in 5 Years
執筆協力:Nikhilesh De