民間のデジタル通貨は政府のパワーを脅かす:米財務省ナンバー2

米財務省の副長官、ジャスティン・ミューズニッチ(Justin Muzinich)氏は、民間のデジタル通貨が金融政策に関する政府のパワーを奪う、そう遠くない未来への懸念を示した。

デジタル通貨の潜在的な脅威

11月21日(現地時間)、ニューヨークで開催されたカンファレンスの基調講演で、ミューズニッチ副長官は、規制および税制の改革から経済政策、国家安全保障まで財務省の現在の優先事項に触れた。

副長官はまた、講演の約3分の1をデジタル通貨とノンバンク企業による金融仲介の増加傾向に割いた。

デジタル通貨について、ミューズニッチ副長官は「民間企業のみならず、政府が責任を負う多くの活動にも影響を及ぼす」と述べた。

副長官によると、この技術の台頭は、国家安全保障、マネタリーベース、金融の安定、消費者保護、プライバシーなどにさまざまな潜在的脅威をもたらす。

デジタル通貨は「課税、アンチマネーロンダリング、テロ資金対策などの既存の法的枠組みから逃れるために使われる可能性がある」ことを財務省は懸念しているとムニジッチ副長官は述べた。

取引が法定通貨であろうとデジタル通貨であろうと、アメリカの法律が適用されなければならないと財務省は述べたが、匿名の仮想通貨が拡大すれば、法律の適用は難しくなる。

たとえデジタル通貨がすべてのアンチマネーロンダリング規則を満たしたとしても、まだ金融の安定とユーザー保護に対する脅威があり、さらに何よりも「長期的な懸念」はガバナンスの問題とミューズニッチ副長官は語った。

中央銀行の役割

副長官は具体的には言及しなかったが、フェイスブック(Facebook)が主導するリブラ(Libra)は、財務省の考えの中でこの問題を最も提起したようだ。ステーブルコインを複数の法定通貨に連動させ、フェイスブックの何十億人ものユーザーもそれ以外の人も利用できるようにするこのプロジェクトは、金融の安定、国家の通貨主権、犯罪防止への脅威があるとして、世界中の規制当局から広く批判されている。

アメリカの金融システムの歴史に注目して、ミューズニッチ副長官は、1830年代に流通していたお金の90%は民間からのものだったと何度も繰り返し述べた。

「アメリカは、統一通貨を作るために国立銀行を設立する法を成立させた。中央銀行は柔軟で安定した金融システムと連邦預金保険を提供、その2つは一体となって我々の金融システムの重要な基盤を形成している」

したがって、デジタル通貨はこのシステムに対して問題を提起することになる。デジタル通貨が大規模に使われるようになった場合、重要な変更について誰が決定を下すのだろうか? デジタル通貨の大部分がアメリカ以外で所有されたらどうなるのだろうか?

「いずれの場合でも、我々の経済システムに関する重要な決定は、国民に対して責任を負う議員の手を離れるのだろうか?」とさらに副長官は疑問を投げかけた。

ミューズニッチ副長官によると、民間発行のデジタル通貨は決済のみならず、「政府が民間分野に対して伝統的に行ってきたいくつかの機能」に影響を与える可能性がある。

講演の最後にデジタル通貨業界に警告を発しつつ、副長官は政策立案者は「公共の利益を追求するうえで、これらの問題に極めて厳しい目を向けるだろう」と述べた。

翻訳:新井朝子
編集:増田隆幸
写真: Treasury image via Shutterstock
原文:Mnuchin’s Number Two Says Private Cryptos Pose Threat to Government Power and Will Be Watched