ブロックチェーンは変化の触媒──たとえ数千のプロジェクトが失敗しても

ゲーリー・ゲンスラー(Gary Gensler)氏はマサチューセッツ工科大学(MIT)スローンマネジメントスクールの教授、MITのFintech@CSAILの共同ディレクター、MITメディアラボ・デジタル通貨イニシアチブのシニアアドバイザー。以前は米商品先物取引委員会(CFTC)の委員長、財務次官、ゴールドマン・サックスのパートナーを務めていた。


IT調査・コンサルティング企業のガートナー(Gartner)は、新興技術の普及と市場の熱狂度を見るためのフレームワークを考案した。非科学的との批判もあるが、ガートナーの 「ハイプ・サイクル(Hype Cycle)」 は広く受け入れられている。仮想通貨やブロックチェーン技術は今、過去の新興技術と比較した時に、そのサイクルのどこにあるのだろうか?

市場評価から判断すると、仮想通貨は何度かの好況と不況を経験している。2012年から2014年のマウントゴックス(Mt. Gox)による好況と不況。2017年から2018年のICOによる好況と不況。そして最近では、トークン化とフェイスブック(Facebook)のリブラ(Libra)による好況と、あえて言えば不況。

市場価値は1つの尺度に過ぎず、新興技術の潜在的な成長性と必ずしも一致しない。期待は薄れたが、仮想通貨やブロックチェーン技術はまだ期待が誇張されているのだろうか? 多くのミニマリストはそう主張するだろう。仮想通貨についてしばしば疑問を投げかけるのは、ニューヨーク大学(NYU)の経済学者ヌリエル・ルビーニ(Nouriel Roubini)氏だけではない。

この分野は(ハイプ・サイクルが言う)「幻滅期」の底を打って、成長性のあるユースケースの兆候を待っているのだろうか?

イーサリアム(Ethereum)とコンセンシス(ConsenSys)の創業者ジョー・ルービン(Joe Lubin)氏はそう考え、DApps(分散型アプリケーション)の将来の成長性について、ジミー・ソン(Jimmy Song)氏との賭けの条件をまとめた。

ソン氏は、価値の保存手段としてのビットコインの有用性については依然として楽観的だが、他の用途でのブロックチェーン技術の成長性に関しては明らかにミニマリストだ。

しかし、2019年の数多くの大胆な発表、仮想通貨市場の浮き沈み、数百ものプロジェクトの撤退から、いくつかの真実が明らかになった。

  • サトシ・ナカモトが誰であれ、彼女(もしくは彼、彼ら)は、二重支払いを避けつつ、インターネットにおいてピア・ツー・ピアで価値を安全に移動させるという難問を解決した。
  • お金は社会的・経済的な構成要素に過ぎない。
  • 仮想通貨の成長性に関わらず、我々はすでにデジタルマネーの時代に生きている。
  • 追加のみの台帳およびマルチパーティー(複数の参加者)による合意(つまり、ブロックチェーン技術)は、検証とネットワーキング・コストに対処できる代替手段を提供する。
  • 採用はユースケースの相対的な成長性と価値提案にかかっている。
  • ビットコインや他の仮想通貨は投機的な資産クラスへと進化した。
  • スマートコントラクトとICOに基づいて構築されたクラウドファンディングの新しい形態は300億ドル近くを調達した。
  • 仮想通貨取引所は、まだ公共政策の枠組みに適切に組み込まれていないが、個人投資家に仮想通貨を取引する直接的な手段を提供している。
  • 仮想通貨市場には、詐欺、不正、ハッキング、市場操作が横行している。
  • この技術が変化の触媒となる可能性に間違いはない。

最後のポイント──仮想通貨とブロックチェーン技術は変化の触媒となること──は、マキシマリストの膨れ上がった期待を満たすことはできないかもしれないが、サトシ・ナカモトの最も永続的な初期の貢献かもしれない。

この新しい形態の民間マネーと基盤となる共有台帳技術は、すでに中央銀行、大手金融機関、大手テック企業にとって触媒となっている。フィンテック・イノベーションと並んで仮想通貨は、既存企業が決済ソリューションをアップデートし、ファイナンスとマルチパーティー・データベース・マネジメントに対する新たなアプローチを模索するきっかけとなった。

中国人民銀行のデジタル通貨/電子決済(DC/EP)プロジェクト、いわゆる「デジタル人民元」と米連邦準備制度理事会(FRB)のリアルタイム決済「FedNow℠ Service」は、どちらもフェイスブックのリブラの発表を受けて登場した。

「数十億人の日々の金融ニーズを満たす新しいグローバル通貨」を作るというフェイスブックの野心的な取り組みは、自らが引き起こした多くの政策的な課題に直面しているにもかかわらず、変化を促している。

とはいえ、仮想通貨とブロックチェーンが変化の触媒となる以上に、どのような利用方法があるのかという疑問は残っている。ビットコインが提供している投機的な価値の保存と、デジタル取引、ゲーム、ギャンブルにおけるニッチなアプリケーション以外に、仮想通貨にとって新しい形の民間マネーとして持続可能なアプリケーションはあるだろうか?

ブロックチェーン技術によって促進される共有型マルチパーティー台帳システムから、実際にどのような利益が得られるだろう?

仮想通貨あるいはブロックチェーン技術の実際の採用は、相対的な成長性と価値創造の提案にかかっている。特に重要なのは以下だ。

  • この技術による分散化は、ユースケースの経済性に実際にどのようなメリットをもたらすのか?
  • ガバナンスと複数の参加者の間の共同行動はどのように解決されるのか?
  • どのようなギャップや問題点をネイティブ・トークンは、法定通貨の決済システムと比較した時に解決するのか?
  • P2P(ピア・ツー・ピア)取引の、従来型システムでは実現できなかったメリットは何か?
  • 競合(従来型およびブロックチェーンの双方)は、想定される問題点を解決するために何を行っているのか?
  • パフォーマンス、プライバシー、セキュリティー、ガバナンス、規制のトレードオフは何か?
  • どうすれば、広範な採用とユーザー・インタフェースを実現できるのか?

文字通り、数千のプロジェクトはまだ広く採用されたユースケースに到達していないにもかかわらず、私はサトシのイノベーションが直接的あるいは間接的に触媒として変化を促す可能性に引きつけられている。

検証とネットワーキングのコストを下げる可能性は追求する価値がある。経済性とデータプライバシーのコストを下げ、経済的な包摂を促進するからだ。さらに、共有型ブロックチェーン・アプリケーションは、これまで断片化されていたり、変化への抵抗力が強かった分野で、マルチパーティー・ネットワーク・ソリューションを活性化することに役立つかもしれない。

既存企業や従来型技術へのイノベーティブな刺激物となる、あまり野心的ではない形でさえ、仮想通貨とブロックチェーン技術はすでに真の変化を促し、今後もそれを続けることができる。

CoinDeskの情報に精通した読者として、あなたはどう考えるだろうか? ミニマリストからマキシマリストまでのスケールのどこに自身を位置づけるだろうか? そして、ガートナーのチームは2020年代が終わる時、仮想通貨とブロックチェーン技術をハイプ・サイクルのどこに置くだろうか?

翻訳:新井朝子
編集:増田隆幸
原文:Even if a Thousand Projects Don’t Make It, Blockchain Is Still a Change Catalyst